33《公爵side》ミルティアを語る
「それにしても……君が女の子に優しくしているのって違和感が凄いね」
酷い言われようである。
それではまるで私がいつも冷血な人間みたいではないか。
……そりゃ、呪われた姿になっていた時は、確かに、多少……かなり心がささくれていたし、不愛想にもなっていましたけど……
「……どういう意味です?」
「いや、だって、君……今までは取り巻きの貴婦人たちの猛攻をニッコリ笑ってサラッと躱していて……ほとんど相手にしていなかったじゃないか」
猛攻と言うか、この男は。
相変わらずデリカシーが無い。
普段はこの砕けた感じなのだが、式典などの公の場ではきちんと『将来有望たる王太子』の皮を被れる能力は持っているし、事実、アルスの頭の回転は速い。その政治手腕は、敏腕だと言って構わないだろう。
「そりゃ……許嫁が居ましたから」
「うん。あのウラギリアちゃんでしょ? いや、でも、彼女に接する時は……業務的というか事務的というか必要最低限というか……」
「そうでしたか?」
淑女をエスコートする礼儀を外す行動や、思いやりに欠ける行動はしていないはずなのだが?
「そうだよ。あ、でも、別に君が無愛想だったり、失礼だったって訳じゃないよ? エスコートだってマナー違反みたいなことは一切無かったけど……でも、それだけ」
「……?」
「つまり、親しい友人である僕に対して、君の口からウラギリアちゃんのノロケ話を聞いたことが無いって事だよ」
やれやれ、と言った口調でアルスは私に苦笑を投げかける。
「別に、ミルティアの事だってのろけたりはしていませんよ」
「えっ!? さっきのあの糖度上限突破の説明で!? ノロケてないの!?」
アルスが大袈裟に驚いた顔をする。
「いや、でもあれは全部単なる事実ですし?」
「自分の隣に座らせて、ずっと幸せそうに微笑みかけながら、何度も彼女の手を握り締めたり、肩を抱いたりしていたのに!?」
「えっ? 別に、それは婚約者に対して行っても不自然な行動ではないでしょう? アルスだっていつもシーラにしているじゃないですか」
確か、バードラの話が間違っていなければ、「仲睦まじさ」を演出するのには必要な行動のはずだ。
曰く、ミルティアは少し他人の好意に対して鈍感な癖に無防備な節があるから、通常の令嬢を相手にするよりも頻繁に「仲睦まじさ」をアピールしておかないと、他の輩にかっ攫われたら困る、とのこと。
別に、私が彼女に触れたくてソワソワしていた訳ではない。
あれは、バードラの助言を受け入れただけの事。
……本当にソワソワしていた訳ではないんです。
「そ、そうなんだけど! でも、ウラギリアちゃんにはやったこと無いよね!?」
「ああ……そう言われると……そうですね」
その頃は、あんな風に呪われて……そして、裏切られるとは想像もしなかったし、家同士が決めた事だから、周りから横やりが入るはずも無い。
そこまで強固なアピールは必要がなかっただけなのだ。
「あの時は、その必要性がありませんでしたから」
「……そ、そうなんだ……」
「そんな事より、貴方の耳に入れておいた方が良い事が有るんです」
私は一つの書類の『写し』をテーブルに広げた。
さして大きくもない『写し』を見た途端、それまでの緩い印象の顔と態度が引きしまる。
「これは……リラン伯爵家の『貴族名簿』の『写し』だね……あ、もしかして改竄の件?」
「さすが、話が早くて助かります」




