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28王子様の探究心

「それにしても、海の魔物はそんなに美味しいのかい?」


「ええ、多少見た目や味に癖はありますけど、ミルティアの作ったものなら間違いありませんね」


 マリクル様の太鼓判を押す声を聞いて、思わず胸がぽわぽわと温かくなる。


「偏食家だった君が言うと説得力が違うなぁ」


「それは子供の頃の話です!」


「僕も食べてみたかったなぁ、海の魔物……」


(……あ、あの……)


 わたしはおずおず、とマリクル様の袖を引いた。


「? どうしたんです、ミルティア」


(わたし……海産物さん達を入れた『時空保管箱』を持って来ているので……数人分であれば、作れます……けど……)


「本当かいッ!?」


 びくっ!


 思わず小さく身体が飛び上がってしまった。

 マリクル様にだけ聞こえるようにそっと話したつもりだったんだけど……さすがは歴戦の勇者だ。

 わたしの言葉を完全に聞き取れていたらしい。


 アルス様がキラキラ輝く瞳でこちらを見つめている。


「はぁ……貴方の強靭な胃袋であれば、生の魔物を食べても問題無いのかもしれませんけど、王太子が外から運び込まれた得体のしれないモノを嬉々として口にしようとしないでください」


「大丈夫だよ! 僕は勇者だからね。毒物には耐性があるし!……第一、僕を倒せるような凄腕は、君か、あと一人くらいなものだろ? マリクル」

 

 あ、だから『王太子殿下』なのに、一人も護衛らしき護衛が居ないんだ……

 なんでも、『僕の護衛ならば、せめて、僕より強いか、互角でないとね?』と、王子自ら選抜試験を行った結果……護衛職がほぼ、消滅してしまったらしい。


 さすが、勇者様……強い……


「ふふふ~……実はね、マリクルとの模擬試合では僕の4勝99敗なんだよ?」


「えっ!?」


 アルス様がそう言いながらわたしにウィンクを飛ばす。

 と、いう事は……マリクル様が99勝なさっているの? ……す、すごい……!


 だけど、マリクル様はふいっと横を向く。


「……それは魔法対決限定の話でしょう? ……というか、魔導士の私に剣士の貴方が魔法で4勝している時点でおかしいんですよ」


「マリクルの魔法障壁は本当に硬いんだよねぇ……僕の聖剣も弾くし~」


「模擬試合でそんなものを持ち出されたら本気で守らないと私が死にます」


「うん! その魔法障壁と同じくらい僕の消化器官は強靭だから大丈夫!! ね? ね? どうかなぁ??」


 屈託ない仔犬のような眼差しで見つめられると、ついつい、何か作ってあげたくなる。

 わたしは、答えを問うように、マリクル様の横顔を見つめた。


「……はぁ……仕方がありません。ミルティア、申し訳ありませんがこの食い意地の張った男に何か作ってあげて貰えませんか?」


「はい! 是非っ!!」


「わーーーい! やったぁ! あ、調理場とそこにある食材は何を使ってくれてもいいよ!!」


「ミルティア、この男に喰わせるなら生でもいいですよ、生でも」


「はい、少々お待ちください!」


「ちょ、マリクル……流石に加熱はしてほしいかな……最初くらいは……」


 うん、せっかくだし……心を込めた料理をご馳走しよう!

 マリクル様とアルス王子はまだお話したい事がたくさんあるようだったので、わたしは侍女さんに案内され、王宮のキッチンに立った。


 うわぁ……珍しい……これ、東国の食材?

 以前、料理長が作ってくれた「ピラフ」で使ったオコメと呼ばれる草の種によく似た食材がある。


 前に使ったのはもっと細長かったけれど、これは丸くてコロッとしている。

 こういうタイプはリゾットに向いているはずだ。

 他にも作ってみたい料理の記憶がブワッとよみがえる。


 ……マリクル様は、アルス様なら生でも大丈夫っておっしゃっていたし……

 それなら、ちょっと作ってみたいメニューがある。


 わたしは、調理場に立つと、例の『時空保管箱』から海の恵みを取り出した。



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― 新着の感想 ―
[一言] 生!? 勿論山葵様はご在宅ですね!? 寿司! さし〜み!!
[一言] 魚介のリゾットはヤバい 物凄く食べたくなった
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