27フレンドリーな王子様
「アルス、あまり私の婚約者を威圧しないでください」
マリクル様が、すこし不機嫌そうにメガネを直して、わたしとアルス様の間に立ちふさがるように移動した。
だが、アルス様の銀貨100万枚の笑顔は一切曇らない。
「威圧だなんてとんでもない! すごいね、聖女のシーラにもできなかったあの呪いを解いちゃうなんてさ!」
「い、いえ、あの、それは、その、マリクル様にご協力いただけたからであって、わたし一人ではっ、とても、その……力がおよびません」
「はははははっ! そんなに緊張しなくていいよ。でも、本当に良かった……!」
がしっ!! ぎゅぅぅぅぅっ!!
アルス様は感極まったのか、マリクル様をぎゅっと抱きしめ、わずかに涙声になっている。
マリクル様の御髪が宝石みたいだから、現ナマがダイヤモンドを抱きしめているみたい……
……このシーンを目にできただけでお財布にご加護がありそうだ。
「ちょ、アルス……絞まってます! 絞まってますッ!!」
「だってあの時、僕を庇って君があの呪いに侵されただろう? だから何とか君を救えないか、と……色々呪いの研究をしていたんだけど……」
「気持ちだけもらっておきますよ。第一、貴方のような単純明快な性格の人間は『呪い』の解明には不向きです」
「うん……そうだね。うん、うん! ちゃんとあったかいし、本当に、完全に、元の君だよ! よかったねぇ! よかったねぇ!!」
ぺた、ぺた、と、マリクル様のお顔や身体を触って確かめるアルス様。
馬車の中で事前に聞いた話だと『幼馴染の親友』っておっしゃっていたけど、まさか生の銀貨様が幼馴染だとは……!
しかし、アルス様のハイテンションで過剰気味なスキンシップを、マリクル様は少し迷惑そうにぺし、ぺしと振り払っている。
……こんなこと考えるのはいけない事なのかもしれないんだけど……
ご機嫌はナナメなんだけど、すごく人馴れしている猫を撫でまわして、迷惑そうにべしべしあしらわれている漁師のおじちゃんの姿とダブって見えるのは気のせいかな……
それでも、マリクル様とアルス様はやはり気の合うご友人同士なのだろう。
すぐにリラックスした様子でソファにくつろぐと、ニコニコ笑いながら談笑を始めた。
「さ、ミルティア……私の隣に座りなさい」
「はい!」
「……ふふふ、二人共仲良しさんだねぇ。見ているこっちまで幸せな気分になるよ」
う……は、恥ずかしい……
わたし、そんなに嬉しそうにマリクル様の隣に腰かけたのかしら?
「アルス、からかうのは止めてください」
「ごめん、ごめん。でも……マリクル、どうやってあの厄介な呪いを解いたの?」
「はいはい、貴方の聞きたい事は分かってますよ。実は……」
そこで、マリクル様は件の呪いとそれの解呪方法についてアルス様にお話しされた。
……ん、だけ、ど……
あの……「私の元に舞い降りた天使」だとか「逆転の発想を持つ知恵の女神の化身」だとか「海の魔物をものともしない強靭な精神力」だとか「呪いを解く料理を作り出した神の手の持ち主」だとか、その……それ、まさか、全部わたしの事!?
そ、そんな凄い枕詞は大げさすぎですっ!?
マリクル様が一番気に入っているあのエビやカニの殻で出汁を取った貧乏汁が、ここで話だけ聞いていると、まるで神話の万能薬『エリクサー』みたいに聞こえるんですが!?
あああああああ……今なら羞恥心で顔面から炎を吹けそう!!!
「……という事だったんです」
「なるほど! ……それは『聖女』とは言えども、シーラには解けない訳だよ……」
アルス様が少し照れたように頭を掻いた。




