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25はじめてのお出かけ

「これもいつにも増して良い味ですね」


「はい! このブイヤベースには、出汁を取る際にコンブの根の部分を入れているんです」


 わたしは、自信作のスープを褒められて何だか胸が熱くなるのを感じていた。

 貝やエビ、カニのエキスはもちろん、今回はコンブを使ってみたのだが、これは出汁に深みと奥行きを与えてくれる海藻だ。

 マリクル様は庭の海にお魚を生み出すこともできるようになったみたいで、白身のお魚をお願いしたら、ぷりっぷりのタラが現れたのだ。


 流石、公爵様の魔法はすごい。


 おいしい、おいしい、と食事をとってくださる姿はわたしの幸せそのものだ。

 優しく微笑まれるマリクル様の笑顔を見ると、ついつい頬が緩んでしまう。


 だけど、マリクル様ってホント、奇麗な方だなぁ……男の人にしておくのがもったいないくらいだ。

 肌だってすごくきめ細かいし、まつ毛も長いし、髪なんてまるで宝石のダイヤモンドのように光を反射し、七色に輝いているように見える。

 美の神の化身のようだ。


 ……でも、そんなマリクル様が驚いた一瞬は瞳が見開かれて、ちょっと幼い印象に変わる。

 男性にこんな事を言うのは失礼だと分かっているんだけど、その一瞬は、キレイよりも「かわいい」が勝つ気がする。

 わたしは、その一瞬を独り占めしてしまって居る事に、申し訳なさと嬉しさが混ざって耳が熱い。

 ……きっと、わたしの耳には紅色が定着してしまうに違いない。


「ところでミルティア、明日は友人を訪ねるのですが、貴女も共に出かけませんか?」


「は、はい……えっ!?」


 反射的に頷いてから聞き返してしまった。


 なんでも、呪われた姿になってなお、マリクル様を心配して、何度も手紙を送ってくれた数少ないご友人を訪問するのだとか。


「で、でも、あの……わたし、淑女としての教育を……まともに受けていないので……」


 そんな大切なご友人に粗相をしてしまう訳にはいかない。


「そんなものは構いません。アレにそんな繊細な感性は備わっていません」


 そうキッパリと答え、少し頬を染めフイっとそっぽを向くマリクル様。

 口ではそうおっしゃってますが、そんな悪態を吐いても関係性にヒビが入らないような、気の許せる相手なのだろう。


「それに、雑用が少しありますし、バードラも迎えに行ってやりたいですから」


「バードラ様を……迎え?」


 わたしは、思わず首を傾げ、視線を右にずらす。

 そこには、わたしが作った料理を運んできてくれた魔導人形(バードラ)様の姿がある。


 白磁の素肌に輝く紅の瞳がいたずらっ子のように揺れた気がした。


「ああ、ミルティアは知らないんですね。ここの魔道人形(オートマタ)全般を管理し、操っている術者の名前がバードラなんです」


「えっ!?」


 てっきり、普段から一番会話をしてくれる、このメイド長のような魔導人形(オートマタ)こそが、バードラと言う名前の『人格のある人形』だと思っていたのだが、違ったらしい。


『左様でございますよ、ミルティア様』


 そう言われると、声に少し苦笑が混ざっているような?

 ど、どうりで人間のような反応をする訳だ!

 

『是非、ミルティア様には、直接お会いしてみたいものです。それに、本当に大丈夫ですよ。マリクル様のご友人は……大雑把、もとい、器の大きい方です。それに、婚約者をお連れしなければ旦那様が叱られてしまいます』


 こ、婚約者……!


 うぅ……た、確かに書類にサインはさせて貰ったけど、本当にわたしなんかで良いんだろうか?

 嬉しいけれど、こんなに美人で、何でも出来て、魔法の腕も超一流のマリクル様と自分とは、あまりに不釣り合いすぎて恥ずかしい。


「外出用の服は……あの、母上の桜色のドレスでよければ……あれでも構いませんが、何か新しく作りましょうか?」


「い、いえっ!? そんな、わざわざ、だ、大丈夫です! 以前いただいたお洋服もたくさんありますし!」


「以前貴女に渡したものは日常用で訪問着ではありませんよ?」


 確かに動きやすさと着やすさ重視のデザインだが、その布地は最高級品だ。

 これ以上、マリクル様に散財させてしまうのは申し訳ない。


 だが、わたしがおかしな格好をしていたら、それはそれで公爵家の婚約者が貧相と噂になってしまう。


「まぁ、今回は時間がありませんから、服を購入してから向かうよりは、母上のお古で妥協して貰っても構いませんか?」


「は、はいぃっ!!」


 妥協だなんて、とんでもない話だ。

 そんな訳で、結局、あの桜色の服を着て、マリクル様のご友人のところへ同行することになったのだった。



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