24《バードラside》不器用な愛の形
翌朝、盥に気づいたミルティアのあの輝いた瞳。
エビや貝を握り締め、息を切らせて寝室に駆けて来る少女の頬は桜色。
……喜んでもらえてよかったですね、坊ちゃん……
言っときますけど、これ……相手がミルティアでなければ嫌がらせに近い行動ですからね?
……つーか、アンタ、プロポーズまでしておいて、部屋は別々なんですかい?
ここまで出かかった俺のツッコミは発せられることは無かった。
「ま、マリクル様!? この新鮮な魚介類はどうなさったんですか!?」
「べ……別に、呪いが解けたからと言って海産物が獲れなくなる訳ではないんですよ」
「す、凄いです!!」
うるっうるのキラッキラなあの瞳で見つめられたら……まぁ、驚かせてあげたくなる気持ちも分かりますけど……
「……でも、エビさんは常温で一晩置いておいたら、ダメかもしれないですね……」
「えっ!? そうなんですか?!」
はいはい、二人共!!
盥の中の海産物を見つめてがっかりしない!!
「ま、任せて下さい! ミルティア、海産物なら新しい物をすぐにでも生み出せます!」
「わぁ……! 本当ですか!? ……でも、こちらは、破棄するしかないです……よね……」
もったいない、と彼女の顔に書いてあるように見えるのは俺の気のせいですかね?
「う……! で、では私の『時空魔法』で……ッ! 新鮮な状態まで時を戻しましょう!」
「そ、そんな凄い魔法を!?」
『待てやコラ』
思わず、素の口調が出てしまった。
今更ながらに、ウチの坊ちゃん……元の見た目が良すぎて、女性側からアタックされ過ぎているせいで、自分から好意をアピールしようとすると、あんなにポンコツになってしまうタイプだったのか……と、ちょっと頭を抱えたくなる。
……これは、俺の教育が足りていなかったせいなのか……?
それとも、もっと女遊びをさせるべきだったのか?
いや、でも、呪われる前は女性に言い寄られすぎて、逆にぐったりと疲れてしまっていたし……まさか、こんな事になるとは考えもしなかった。
そもそも、坊ちゃんの『時空魔法』はレンロット家の切り札だ。
それに『時間停止』とは違い『時間逆行』は色々な制限があるし、消費魔力量も膨大。
実際、まだ実験魔法の域を出ておらず、間違っても、食材の鮮度保持のために使えるような代物ではない。
……そんなやり取りが俺の脳内を走馬灯のように駆け巡った。
『あー……それより、早いところ王家に報告に行ってはどうです? アルス王子は坊ちゃんの来訪を楽しみにされていますよ』
「……そうですね。ミルティアの妹のおかげで糾弾は中途半端でしたが、『名簿』の改悪は見逃せるものではありませんし、王都に報告に行くべきでしょうね」
『おや? てっきり、それは見逃すのかと?』
俺が少し意地悪そうな笑みを含めた声でからかうと、坊ちゃんは少し不愉快そうに眉をひそめ
「バードラ……私がミルティアを蔑ろにし続けた彼等を放置するとでも?」
と、終末を告げる冷酷な天使の微笑みを浮かべたのだった。




