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桜紅初恋(オウコウ・チューリエン)1月24日番外更新☆  作者: 白師万遊
*⋱✽⋰*❁番外篇 短篇❁*⋱✽⋰*
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第一集:鬼界随一の縫い師(22.5集)


 鬼界(きかい)最東端(さいとうたん)の山奥にひっそり、宝形造(ほうぎょうづくり)の殿が建っている。宝形造(ほうぎょうづくり)は建築物の屋根形式のひとつで、屋根はすべて三角形だ。大棟(おおむね)のない八角形の八注(はっちゅう)様式の古びた建物は(おごそ)かで凛々しい。

 反っている屋根瓦は黒く、壁は赤だ。巨大な鬼の右手が屋根に乗っていた。薄黒い肌で先の(とが)る爪は長い。無論、偽物の模造品だ。

 桟唐戸(さんからと)は戸が()められていない。白布に九字護身法くじごしんぼうの組手が赤文字で描かれた暖簾(のれん)がかかっている。


 背後に同じ殿が三つ並んでおり、左は龍、真ん中は虎、右は蛇、が屋根に寝そべる形でいた。其々(それぞれ)色彩豊かだ、こちらも本物ではない。

 継いで三つ銘々(めいめい)、重量感のある鉄製の錠前、花弁(かべん)が装飾された阿波錠(あわじょう)で閉められてある。機能性も優れていて解錠の操作はややこしい。所謂(いわゆる)、鍵穴が隠された絡繰(からく)(じょう)だ。


 「……っしゃ、やっと着いたぜ」


 ()(こく)に差し掛かる時刻、家の主が裏手の山道を(くだ)り帰宅した。鬼界(きかい)に生息する幻の鱗翅目(りんしもく)怪蛾(カイガ)に属す怪蛾紅(カイガコウ)红色(ホンスゥ)幼虫を背中に背負っている。途中で摘んできたクワの葉を()き、二メートル弱ある幼虫を降ろした。


 「今月はツイてんぜ。お前で二匹目だ、しっかり頼むぜ」


 怪蛾紅(カイガコウ)(さなぎ)になるため、クワの葉を食べ、体内に蓄積したタンパク質、シルクプロテインで構成される動物性の天然繊維を、たった半日で3,000mは吐き出す。消化管に溜めた栄養素で(まゆ)の色は変わる上に、生糸(きいと)になった際の出来が異なる故、食事や環境は最善の注意が必要だ。基本的に糸は一本で繋がっていて、怪蛾紅(カイガコウ)の繊維は鬼界(きかい)で古来より美しいと称され、繊維の王と異名があり、希少価値は高い。

 

 男は幼虫が葉を(かじ)ったのを見届け、邪魔にならぬよう、音を立てず離れた。そこへ丁度、二匹の火の犬が駆けて来る。


 「――あん? 孤魅(こみ)恐純(きょうじゅん)様の犬じゃねえか、お使いか?」


 男は犬が(くわ)えた手紙を受け取り、折られてある紙を広げ読んだ。二行程度の文章は鬼語(きご)で書かれてあった。


 「……えー、となんだって? 婚儀が明後日になった。明日の()(こく)初刻(しょこく)までに婚儀衣裳を用意し渡しに来い。期限を過ぎればお前の血筋は老若男女問わず滅ぼす、って――んだこれマジか!? 孤魅(こみ)恐純(きょうじゅん)様の婚儀は三百年後だろ!? 献上も三百年後の予定だろうが!!」


 男の名は针裁(チェンツァイ)鬼界(きかい)随一と(うた)われる縫い師、着物職人で、孤魅(こみ)恐純(きょうじゅん)(おのれ)の婚儀衣裳を任せた二本角の黒鬼(くろおに)だ。


 顔立ちは良い。二重瞼(ふたえまぶた)で黒い虹彩(こうさい)に薄黒い眼球、鼻根(びこん)鼻尖(びせん)を繋ぐ鼻背(びはい)は整っている。黒い唇や若干の黒い肌、爪は黒鬼(くろおに)の特徴だ。歯や舌は黒くはない。三災鬼(さんさいき)のひとりの黒鬼(くろおに)招死(しょうし)笑滅(えめつ)などは例外だ。彼は鬼力(きりょく)が強大で歯や舌は黒い。

 黒髪の長髪は頭上にて丸めてあった。毛糸玉の髪型だ。先端に直径30㎝の目玉が装着してある50㎝の待針(まちばり)が束ねた髪に挿してある。

 服装は体をすっぽり覆った黒のポンチョ風のワンピースだ。ゆったりしている身幅(みはば)は軽い。一枚布で作られていた。白生地に黒や赤の眼玉の(がら)(いびつ)だ。(すそ)に付いてある紐は左右にふたつ、計四つ伸びていて、朽ち果てた人間の頭蓋骨が先部分に(くく)ってある。カラカラ、地面を転がり音を鳴らしていた。

 足は裸足だ。靴や靴下は履いていない。黒い針を数本、両足の甲に刺している。


 背丈は190㎝あった。


 「……オイ犬っころ、こりゃ冗談じゃねえよな?」


 「…………」


 低く枯れている声音で针裁(チェンツァイ)が確かか訊ねたものの、外炎(がいえん)が夜風で舞う火の犬は役目を終え、無言でふわっと消滅した。通常通りの扱いだ。


 「……チッ、あーと追伸(ついしん)……、期限を守れば向こう百年、お前の活動を上限無しで支援す……る……って、おいおいマジかよ……読み間違えじゃねえよな?」


 针裁(チェンツァイ)の縫製仕事は素材調達にお金がかかって仕方がない。孤魅(こみ)恐純(きょうじゅん)は財布が分厚く言値(いいね)で買ってくれるが、他は原価以下の取引が多い。自分の物裁(ものだ)ちに妥協できない针裁(チェンツァイ)は常に赤字だ。もし条件を飲めば趣味の創作も幅が広がる、百年はやりたい放題の内容だった。


 「……上等じゃねえかよお!!」


 鬼界(きかい)三災鬼(さんさいき)一鬼(いっき)死屍累々(ししるいるい)屍肉(しにく)を積み上げる殺戮(さつりく)の象徴、孤魅(こみ)恐純(きょうじゅん)の結婚は鬼族(きぞく)黎明期(れいめいき)だ。歴史に絡んだ大仕事は絶好の機会でもあった、日取り変更の想定外を乗り越えてこそ鬼界(きかい)随一の縫い師の称号に相応しい。


 针裁(チェンツァイ)は急いで暖簾が垂れた家の玄関を潜り、ごちゃごちゃしている机を片付け、否、乱暴に片手で床に落とした(のち)審美性(しんびせい)が根源にある計画的な図案を練り始めた。


 「時間がねえッ、徹夜だボケエ!! 丁度、怪蛾紅(カイガコウ)がいる運がいいぜ!! オレ様の腕、見せ付けてやる!!」


 暴言を零すが针裁(チェンツァイ)の表情は生き生きとしている。情熱が(たぎ)った瞳の奥の気魄(きはく)は鋭い。


 ――後日タリアが针裁(チェンツァイ)製作の花嫁衣裳を「とても気に入った」と喜び、孤魅(こみ)恐純(きょうじゅん)针裁(チェンツァイ)に多額の褒美を与えたのだった。


 

おはようございます、白師万遊です(ღ˘ㅂ˘ღ)

最後まで読んで頂きありがとうございます!


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また次回の更新もよろしくお願い致します(*´︶`*)♡

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