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桜紅初恋(オウコウ・チューリエン)1月24日番外更新☆  作者: 白師万遊
第二幕:~.。.:*✽桜紅の結び✽*:.。.~
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第二十四集:乱螫惨非

 

 幹丹(かんたん)の演技を見抜けず、共謀(きょうぼう)する母親の青鬼(あおおに)に捕まり、意図せず拉致されてしまった。タリアは開口一番、謝る。


 「……あー……、すまない」


 「……心配した」


 「――い、って!」


 (ほむら)乱螫惨非(らんどくざんひ)を雑に退()け、タリアを抱き上げ片腕で抱えた。(ほむら)がタリアに向ける怒りは不安の表れだ。


 タリアの首筋に(ほむら)の長い睫毛が当たる。蟀谷(こめかみ)に滲んだ汗がとても嬉しい。


 「心配をかけた。すまない(ほむら)(さが)してくれてありがとう」


 「ん……」


 (ほむら)とタリアは互いの存在を確かめ合っている。甘い雰囲気を(かも)し出す二人に、乱螫惨非(らんどくざんひ)が青ざめた。


 火山が生んだ自然の渾沌(こんとん)――火鬼(ひおに)孤魅恐純(こみきょうじゅん)は、鬼界(きかい)最恐(さいきょう)三鬼(さんき)、天地に悪名を轟かせる三災鬼(さんさいき)のひとりだ。三鬼(さんき)の中で最も強く、残酷が体に詰まった火鬼(ひおに)は、()わば気性が荒い化物だらけの鬼界(きかい)の頂点に君臨する王で、孤高にひとり血を浴びる姿に誰もが憧れ、誰もが(おのの)き、畏敬(いけい)(ねん)を抱いていた。欲に忠実たる彼が人間の心臓を三百、(えぐ)り出して燃やし、神官(しんかん)五人の心臓を食らい魂を消滅させ、万物の創造主、天上皇(てんじょうおう)に封印された伝説は五百年、語り継がれている。


 そんな火鬼(ひおに)大嫌い(・・・)な子供に頬擦りしていた。信じられない光景だ。揶揄(からか)う以外の選択肢はない。


 「いやいや~! ちょ、孤魅恐純(こみきょうじゅん)お前なに、子供好き(ショタコン)だったの? 道理で遊女に(なび)かない――ゴフッ!!」


 (ほむら)の見事なかかと落としを受け、乱螫惨非(らんどくざんひ)の顔面が地面に減り込んだ。


 「――死ね」


 「ほ、(ほむら)!!」


 「(いばら)ひとりいなくなったって、誰も困らないよ。むしろ五界(ごかい)が平和になる」


 「だめだ(ほむら)ッ、彼を殺してはいけない!」


 乱螫惨非(らんどくざんひ)土中(どちゅう)藻掻(もが)き苦しんでいる。タリアの要望に(ほむら)太息(ふといき)を漏らし従った。


 「ハア、わかったよタリア」


 (ほむら)が渋々、解放してやる。


 「プッハア!! だあ~……窒息死しかけた~!! ひでえなも~~! 僕達の仲じゃん孤魅恐純(こみきょうじゅん)よ~!」


 二人は旧知の間柄だ。思い切り酸素を吸う乱螫惨非(らんどくざんひ)が苦言を(てい)した。両頬(りょうほお)を膨らませている。


 「お前がタリアを攫ったのか?」


 「あん? タリア? あ~、ソイツがタリア?」


 唐突な(ほむら)の問いに小首を傾げ、乱螫惨非(らんどくざんひ)がタリアを指差した。タリアが焦って「違うんだ(ほむら)」と経緯を簡易(かんい)に説明する。仔細を把握した(ほむら)心火(しんか)を燃やし、眉間に皺を刻んだ。


 タリアは説教を覚悟した。(ほむら)に何も告げず呉服店(ごふくてん)を勝手に出て幹丹(かんたん)を送る決断をした自分が悪い。思慮不足だ、真摯に受け止める。もしハオティエンとウォンヌがこの場にいたら、「タリア様はもっと警戒心を持って下さい!!」と諫言(かんげん)するに相違ない。


 しかしタリアの予想は外れた。(ほむら)は諸悪の根源、乱螫惨非(らんどくざんひ)を非難する。


 「西はお前の管轄だろ(いばら)、死んでタリアに臓物(ぞうもつ)を捧げろ」


 「でええ!? マジか僕のせい~!?」


 乱螫惨非(らんどくざんひ)が不満げに顔を顰めた。人差し指で自分を指している。


 「お前の趣味が招いた結果だ」


 「……彼の趣味って、アートか?」


 ――――タリアは先程の、乱螫惨非(らんどくざんひ)とのやり取りを思い出した。


 『僕の趣味ね~。アート、なんだ!』


 「アート……?」


 『ん~~、僕の(イバラ)でみんなを装飾したいんだ! 僕の作品あっちだよ~』


 そのあとは(ほむら)が丁度現れて――、の現在だ。作品は見ておらず、乱螫惨非(らんどくざんひ)がアートと言っていた趣味の内容はわからない。


 「アート、ね。(いばら)は人間や同族、他界(たかい)生身(なまみ)を自分の能力、(イバラ)で飾って徐々に殺す趣味がある。金が欲しい卑賎街(ひせんがい)の連中に材料(・・)集めさせているんだ」


 「……成程」


 (ほむら)が教えてくれた。矛盾点はない。辻褄が合う。


 「(危なかったな……)」


 タリアはいま六歳児だ、神力(しんりき)は弱く到底、彼に敵わない。(ほむら)の救出がなければ、危うく、乱螫惨非(らんどくざんひ)の作品になるところだった。タリアは改めて助けに来てくれた(ほむら)に感謝の気持ちを伝える。


 「(ほむら)ありがとう、私はキミに救われた。どうやって私がいる居場所を特定したんだ?」


 「難しい話じゃない。自然が生んだ渾沌(こんとん)は匂いに敏感だ、タリアの香りを辿っただけだよ」


 火山が生んだ火鬼(ひおに)、雷が生んだ雷狐(らいこ)(ひょう)が生んだ雹狼(ひょうろう)、大地が生んだ緑鹿(りょくじか)は皆、第六感が鋭い。生れ付きの体質だ。


 「うっわ、ショタコンで変態? やべ~な」


 (ほむら)の答えに乱螫惨非(らんどくざんひ)が呟いた。


 「――――」


 「――ブハッ!!」


 (ほむら)が無言でタリアを抱えたまま器用に回し蹴りし、乱螫惨非(らんどくざんひ)が凄まじい勢いで上空に吹っ飛んだ。手加減がない。


 「ああっ、(ほむら)!! 彼が死んでしまう!!」


 「ハッ、死にやしない」


 乱螫惨非(らんどくざんひ)が大地に叩き付けられる。


 「――ッァデ!!」


 砂埃が舞った。ぶつぶつ文句を零しながら、即刻で立ち上がる。目立った傷もない、乱螫惨非(らんどくざんひ)鬼体(きたい)は至極頑丈だ。


 「くっそ、も~冗談だって~!! いてぇよ!! 短気め!!」


 「次は殺す、(いばら)


 「ねえ(ほむら)、ひとついい? (いばら)って、彼の本名か?」


 (ほむら)はずっと乱螫惨非(らんどくざんひ)を「(いばら)」と呼んでいた。タリアの今更な疑問に(ほむら)ではなく、乱螫惨非(らんどくざんひ)が「そうだよ」と肯定する。衣服の汚れを掃い、自ら軽い口調で自己紹介をしてくれた。


 「なんか順番ばっらばらだけど、まあしゃあねえか~。こんにちはタリアちゃん、僕の名前は(いばら)乱螫惨非(らんどくざんひ)鬼界(きかい)の通り名になるよ~。下界(げかい)じゃ、ぅんと……棘童子(おどろどうじ)だったかな? 六百歳の少壮気鋭(しょうそうきえい)雑鬼(ざっき)で、神が嫌いな三災鬼(さんさいき)のひとりで僕も神が大嫌いでーす! 一応、鬼界(きかい)の西を牛耳ってて金はある! 貯金はしてない! よろしくね~」


 「ハハッ、参った。キミは正直者だね。私は上位神(じょういしん)タリアだ。三美神(さんびしん)のひとり、カリスの一柱(ひとばしら)も担っている。天上界(てんじょうかい)の神だ。よろしく(いばら)


 「……は。上位神(じょういしん)? 一介神(したっぱ)子供(ガキ)じゃねえの?」


 タリアの挨拶で乱螫惨非(らんどくざんひ)が固まる。笑顔がスッと消えた。彼の言う一介神(いっかいしん)下級三神(かきゅうさんしん)で最も位階(いかい)の低い神だが一方、上位神(じょういしん)は神々の位階で最高位だ。警戒されても無理もない。


 「あー……、化楽飴(けらくあめ)でいまは幼いが――」


 事情を話し始めたタリアが突如、ボフンッと白い煙に包まれる。一瞬で、元の大きさに戻った。化楽飴(けらくあめ)を舐めて三時間が経過し、効力が消えたらしい。


 (ほむら)がタリアの片頬(かたほお)に手を添え確認する。


 「タリア? 痛みはない?」


 「……え、ああ、うん。びっくりしたが平気だ、ありがとう(ほむら)。下してくれる?」


 「下ろさない。タリアは俺を恐怖のどん底に突き落とした。いまは離したくない。タリアを勾引(かどわ)かした引き千切りたい下衆(げす)を炙り出して殺さないんだ、ひとつくらいお願いは叶えてくれるでしょ?」


 (ほむら)は抱っこが恥ずかしいタリアに効果的な罰を与えた。


 「……ッ、わかった」


 タリアは甘んじて耐えざるを得ない。羞恥で耳介(じかい)に熱が集中している。

 

 「いやいやタリアちゃん!! 僕はわかんねぇ~し!? 孤魅恐純(こみきょうじゅん)上位神(じょういしん)とどんな関係なの~!?」


 二人の会話はまるで恋人だ。乱螫惨非(らんどくざんひ)は困惑気味な語調で(ほむら)に聞いた。


 「タリアは俺の嫁だ」


 「……よめ、嫁ぇ!? 上位神(じょういしん)が!? お前五百年、封印されてたじゃねえの!?」


 「はあ……封印は最近、解かれた。三百年後、タリアと結婚する」


 「えぇぇ、マジぃ?」


 乱螫惨非(らんどくざんひ)の視線がタリアに移り、タリアが認める。


 「……ああ、本当だよ」


 「ダアアア、マジだった~~!!」


 乱螫惨非(らんどくざんひ)が天を仰いだ。刹那(せつな)、大号泣した。


 「グズッ、良かったな孤魅恐純(こみきょうじゅん)~~!! おめでとお~!! 僕さ~僕さ~ッ、お前一生、独身鬼族(きぞく)になるんじゃねーかって!! だってお前来るもの拒まず八つ裂き、去る者逃がさず殺すじゃん!? 殺戮(さつりく)しか興味ねえ正真正銘の怪物と思ってた~、マジ反省ごめんな~!! 上位神(じょういしん)でも化け猫でもクソババアでも何でもいいよ、お前を旦那に貰ってくれんなら――」


 「――衝天万炎(しょうてんばんえん)


 乱螫惨非(らんどくざんひ)の言葉が遮られる。(ほむら)の天を衝く炎が乱螫惨非(らんどくざんひ)を襲った。


 「ギャアアアッ、アッチッ!! ちょ、僕褒めてたよ~!?」


 乱螫惨非(らんどくざんひ)(イバラ)の壁で防御している。咄嗟の判断が早い、さすが戦い慣れた三災鬼(さんさいき)のひとりだ。


 「ちょっと待っててタリア、すぐ骨灰(こつばい)になる」


 「(ほむら)、彼はワザとじゃない! 許してあげてくれ!」


 乱螫惨非(らんどくざんひ)の賛辞は(ほむら)の神経を逆なでし、二人の攻防は半時(はんとき)、続いたのだった。

最後まで読んで頂きありがとうございます(*´Д`)

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また次回もよろしくお願いします<(_ _)>

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