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桜紅初恋(オウコウ・チューリエン)1月24日番外更新☆  作者: 白師万遊
第二幕:~.。.:*✽桜紅の結び✽*:.。.~
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第十六集:女神タリア


 豊かさと開花を(つかさど)上位神(じょういしん)タリアは、冥官(めいかん)(おさ)シリスに婚約祝いと称して逆呪(げきじゅ)を贈られた。現在、タリアは女神だ。カリスの一柱であるタリアは、魅力的で愛嬌(あいきょう)があり、(つつし)み深く、優雅(ゆうが)で美しい。

 万物(ばんぶつ)を映す虹彩(こうさい)睫毛(まつげ)同様(どうよう)に淡い桜色だ。鼻筋は高く小鼻で、控えめな唇にシャープな(おとがい)、真珠の(ごと)く輝く(つや)やかな肌、細い首筋にすらりと伸びた手足、腰は(なめ)らかに(くび)れている。黄金比(おうごんひ)の顔立ち、見目麗(みめうるわ)しい女神(めがみ)タリアに(ほむら)は釘付けだった。


 「タリア、逆呪(げきじゅ)で体に痛みはない?」


 「ああ、大丈夫だ。ありがとう(ほむら)


 逆呪(げきじゅ)に苦痛はない。唯一の利点だ。


 「いや、良かった」


 (ほむら)は落ち着きを取り戻している。あわや貞操(ていそう)の危機だったが、正義を司る上位神(じょういしん)エルのお陰で(なん)を逃れられた。しかし、いったい何故(なぜ)エルが下界(げかい)にいるのか理由は知らない。


 服は天官軍(てんかんぐん)の服装規定、白軍衣(はくぐんい)だ。天官軍の総帥エルは、天繋地(てんけいち)堕神(だしん)異界者(いかいしゃ)征伐(せいばつ)している。地上の任務でないことは明らかだ。


 「エル、下界に用が?」


 「いや。シリスがお前に『会う』と……急遽(きゅうきょ)、心配で降りて来た。お前の神像(しんぞう)はいい目印になる、褒めてやる孤魅恐純(こみきょうじゅん)


 訳柄(わけがら)は理解した。タリア神像が役立ち(ほむら)が仁王立ちする。


 「ハッ、ありがとう義兄(にい)さん」


 (ほむら)義兄(にい)さん呼びはすっかり定着していた。エルは天上界の(おきて)に従う義務のない、鬼族(きぞく)(ほむら)に「義兄(にい)さんはやめろ」と命令はしない。諦めている、が正解だ。


 「タリア、逆呪(げきじゅ)は一日で解ける。耐えられるか?」


 「ああ、平気だよ」


 (うれ)わしげな表情で問われ、肯定した。体重や身長に変化はなく、生活の面で苦労はしない。


 「孤魅恐純(こみきょうじゅん)、お前は自重しろ。婚前(こんぜん)(つつし)め」


 「…………」


 叱られた(ほむら)が不満を(あら)わにする。タリアがエルの腕にしがみ付いた。


 「エル、私と(ほむら)の問題だ。焔に厳しく当たらないで」


 三百年後の婚姻(こんいん)に縛られず、いまを大切に、二人の愛は二人で育んでいきたい。

 (ほむら)とタリアは互いに関心を持ち、理解し、信頼して、愛を()、孤独を脱した。愛を語り、愛を確かめ合う行為は、喜びと満足の源泉(げんせん)と天上界で宣言されている。

 愛は寛容で親切、傲慢(ごうまん)で自慢にならない。長男エルの訓戒(くんかい)を有難く心に刻み、二人でしっかり、謙虚に幸福を分かち合いたい。


 「タ、タリア――」


 懇願(こんがん)するタリアにエルは狼狽(ろうばい)していた。タリアの柔らかい胸が接している。


 「エル? エル?」


 「わ、わかった、わかったタリア」

 

 普段真っ白なエルが、全身真っ赤だ。(ほむら)がタイミングを見計らいタリアを離した。


 「ありがとうタリア、義兄(にい)さんわかってくれたって」


 「あ、ああ」


 伝わったならいいがエルの様子がおかしい。エルは三つの目をぎゅっと(つぶ)り、両頬(りょうほお)を叩き、大声を上げる。


 「俺は天上界(てんじょうかい)に帰る!!」


 「お茶は? 焔がくれた福紅寿(ふくこうじゅ)のお茶があるんだ」


 鬼界(きかい)福紅寿(ふくこうじゅ)、樹齢三百年のお茶の樹は鬼霊山(きれいざん)岩肌(いわはだ)にたった八本しかない。幻の岩茶(がんちゃ)だ。茶樹(チャノキ)で製茶された高級なお茶は街に出回らないが、タリアの何気ない「飲んでみたいな」の一言で(ほむら)が入手した。


 「今日はいい。すぐ戻ると言付けてある、次の機会にとっておこう。孤魅恐純(こみきょうじゅん)、タリアに手間はかけさせるな。いいな?」


 約束するエルがタリアの頭を撫でた。(ほむら)は軽い相槌(あいづち)を打ち、肩を(すく)める。


 「はいはい。義兄(にい)さん」


 「エル、送るよ」


 「ああ」


 タリアと(ほむら)外套(がいとう)を羽織りエルと共に外に出た。初冬(しょとう)の朝は澄んだ空気が重く冷たい。


 エルが十二枚の翼を広げる。天上皇(てんじょうおう)上位神(じょういしん)(さず)けた栄光だ。


 「じゃあなタリア」


 「無茶はしないでねエル」


 「ああ」


 エルは真珠の翼を羽ばたかせ、一弾指(いちだんし)に上空に舞い上がった。光の粒が降り注ぎ一帯が浄化される。そこへ丁度、村人達が訪れた。

 

 頭部に手拭いを巻き、上は中綿入りの広袖(ひろそで)袢纏(はんてん)、下は股引(ももひき)を着用している。足袋(だび)草履(ぞうり)と足下も防寒対策がされていた。栄える村の薄着が粋(・・・・)の美意識はこの村にない。


 「おはようございます桜道士様(さくらどうしさま)!」


 「桜道士様! おはよう!! 桜道士様にあげる!!」


 子供達も一緒だ。白い花の椿(つばき)を手渡される。


 「ありがとう、綺麗だ」


 微笑んで感謝を告げたタリアに子供がはにかんだ。(ほむら)がタリアが持つ椿の花を奪い、水晶や桜が可憐(かれん)なヘッドドレスで飾ってある髪に添えた。


 「白い椿の花の花言葉は至上の愛らしさ(・・・・・・・)だ。タリアにぴったりだね」


 「花言葉に詳しいのか、博識(はくしき)だ」


 「タリアは花が好きでしょ、勉強している」

 

 (ほむら)は花々に興味がない。単にタリアが好きだから、タリアのため、タリア一辺倒(いっぺんとう)の知識を(たくわ)えている。


 「ありがとう(ほむら)、キミは本当にいい子だね」


 「いい子な俺にご褒美はくれないの?」


 前のめりの体勢で(ほむら)眉目秀麗(びもくしゅうれい)な顔を近付けてきた。妖艶(ようえん)半眼(はんがん)する(ほむら)が、丸まったタリアの透明な瞳に反射している。焔が首を(かたむ)け蜜を味わおうとした矢先、何かがドンッと、腰付近に激突してくる。椿の花をタリアに捧げた子供だ。


 「ねえ! ねえ! 鬼のお兄ちゃん、おっきくなった!? 抱っこして!」


 子供は天真爛漫(てんしんらんまん)で状況は察せない。強請(ねだ)ってくる無垢(むく)な子供の眼差しは(きらめ)いていた。けれど一変して目元を潤ませる。


 「俺はガキが嫌いなんだ」


 拒否を示し低音で吐露(とろ)した(ほむら)が子供を容赦なく睨んだ。


 「……ッ、助けて桜道士様(さくらどうしさま)!!」


 子供がタリアの後ろに隠れた。


 「アハハ……。あー、(ほむら)、相手は子供なんだ優しくしてあげて」


 「ソイツのせいで褒美が貰えなかった」


 不貞腐(ふてくさ)れるが一応の返事はしてくれる。(ほむら)の機嫌を直す策はひとつだ。


 「……二人のときにあげる。それでいい?」


 「もちろんだ! じゃあ家に入ろう」


 (ほむら)は早速、二人になろうとした。だが又もや、子供が邪魔をする。


 「わあっ、見て桜道士様(さくらどうしさま)! 羽根だ!」


 「――チッ」


 一枚の羽を拾い(かか)げた子供に、苛立つ焔が舌鼓(したづつみ)した。


 「ああ、エルの羽根だ」


 上位神(じょういしん)の羽は貴重だ。滅多に抜けない。


 「エルの羽根?」


 おうむ返しされる。

 

 「キミを守護する羽だ。大事にして」


 上位神の羽根は呪符(じゅふ)護符(ごふ)になる。種々(しゅじゅ)の災厄の予防、災難の回避、魔除けの効果があった。


 「わ~やった~! 大事にするね!!」


 喜悦(きえつ)の声に、他の子供や村人達の視線が一点に集中する。


 「おおっ、見事な羽根だな!!」


 「桜道士様(さくらどうしさま)のご加護があるんじゃないか?」


 「え~いいないいな~!! ずる~い!!」


 口を(すぼ)羨望(せんぼう)した子供は可愛い。


 「僕のだも~ん!!」

 

 「ちょうだい!!」


 「やだ~!!」


 「こらこら、喧嘩はいけない」


 二人を仲裁し仲直りさせるタリアに、村人のひとりが感嘆(かんたん)した。


 「は~、桜道士様は子供の扱いが上手いな!」

 

 「子供さできれば、いい親になるな!!」


 「タリアと俺の子供……、いまタリアは女神だ……」


 村人達の会話に(ほむら)が独り()ちる。呟く単語の端々(はしばし)(おおよ)そ思考は読めた。愛ゆえの発想だ。


 「はあ……。焔、私の女神は一日限定だ。忘れないで」


 「…………」


 失念していたらしい。(ほむら)は沈黙する。一泊後、抱き締められた。


 「女神でも男神(おがみ)でも俺はタリアが好き」


 「ああ、私も(ほむら)が好きだよ」


 「……未来にタリアと俺の……、タリアに似た子供はいるかな」


 焔は子供が嫌いだ。されど二人の子供の話は別になる。(ほむら)はタリアと出逢い、タリアは焔と出逢い、想像さえした試しがない、愛し愛される者に巡り逢えた。子供も(しか)りだ、きっといまをきっかけに想いは自然とゆっくり(じゅく)し形を成すだろう。


 「天上皇(てんじょうおう)寛容(かんよう)だよ。三百年後が楽しみだ」


 「……っ、凄く楽しみだ」


 抱き締め返すタリアの左頬(ひだりほお)に焔が()り寄った。子供達が揶揄(からか)ってくるが気に留めない。タリアも引き剥がさず、(ほむら)の秋の香りを堪能する。二人に新しい夢を与えたシリスの逆呪(げきじゅ)は確かに「(いわ)い」であった。


 

最後まで読んで頂きありがとうございます!


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また次回もよろしくお願いします<(_ _)>

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