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桜紅初恋(オウコウ・チューリエン)1月24日番外更新☆  作者: 白師万遊
第二幕:~.。.:*✽桜紅の結び✽*:.。.~
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第五集:五事官ウリと火鬼

 

 ()(こく)――、鬼界(きかい)の東の空が赤くなる。炎紅城(えんこうじょう)の寝室に一筋の光が差し込み、朝を得意としないタリアは(ほむら)の胸元に逃げ込んだ。


 「んー……」


 体温の高い(ほむら)の素肌は心地が良い。タリアは大好きな秋の香りに擦り寄った。

 焔はタリアの体勢が落ち着くのを待ち、寝息を確認して、目元に口づける。


 「はあ……、可愛い」


 自分を信じ、安心しきった無防備なタリアが愛おしい。(ほむら)はタリアの桜色の長い髪を人差し指でくるくる巻き、自分だけが許されるひと時の時間を楽しんでいた。


 刹那(せつな)、部屋の(すみ)が奇妙な機械音を鳴らし始める。


 ジジジジジ、と空間が揺れ動き磁界(じかい)が安定した数秒後、ひとりの男神(おがみ)が実寸大で現れた。本物ではない、立体映像だ。


 ホノグラムの参照光(さんしょうこう)でタリアがのそり起き上がる。(まぶた)を擦り意識を覚醒させた。


 「……眩しい……、え、ウリ?」


 「…………」


 名を呼ばれ、五事官(ごじかん)(おさ)ウリが無言でタリアに拱手(きょうしゅ)する。ウリは地上の神と連携が可能な届伝力(かいでんりき)の能力を使っていた。服装は亜麻色(あまいろ)長袍(チャンパオ)で、両サイドに入ったスリッド、ロング丈で幅の柔らかい袖口、襟は白襟(しろえり)との二重襟で、袖は折り返しカフス白袖(しろそで)になっている。味わいのいい立ち襟で三つ葉のチャイナボタンは金色だ。褌衣(ずぼん)は白、花柄が刺繍(ししゅう)された布製の靴はつま先に丸みがある。


 顔立ちはあどけない。ベビーフェイスに不相応な濃い(くま)が相変わらずあった。

 髪型は前髪を眉の上で切り揃え、後ろは首の辺りで揃えいる。所謂(いわゆる)、金髪のおかっぱ頭だ。瞳、睫毛、共に金色で、二重瞼(ふたえまぶた)は彫が深い。

 彼の外見で特徴的なのは両耳だ。横五センチ、縦ニ十センチの神札(しんさつ)のピアスがぶら下がっている。


 「……暗いですね」


 薄暗い部屋に通信が繋がり、ウリは目を凝らした。一歩踏み出しかけ、ふと朱色の双眼(そうがん)と視線が交わる。火鬼(ひおに)孤魅恐純(こみきょうじゅん)だ。


 「タリア、誰コイツ」


 「……(火鬼(ひおに)ですか)」


 タリアの肩を抱き寄せた(ほむら)に、多少の驚きをみせるが、ウリに動揺はみられない。

 五百年前の大罪人――火鬼の孤魅恐純(こみきょうじゅん)が、天上皇(てんじょうおう)創りし最後の男神(おがみ)――上位神(じょういしん)タリアと恋仲になった歴史上最悪な事件は天上界で話題だった。タリアを崇拝(すうはい)し傍観していた神々は数多にいる。誰も奪わないと(たか)(くく)り、誰も奪ってはいけないと牽制(けんせい)し合って数千年、結果、忽如(こつじょ)として出現した火鬼(ひおに)に掻っ攫われてしまった。偶然か必然か天上皇の御心(みこころ)か、タリアも彼を受け入れてしまう始末だ。天上界は二人の推移を見守らざるを得ない。


 ウリは咳払いをし、初対面の火鬼に挨拶する。


 「コホンッ。僕は界事(かいじ)を司る神、五事官(ごじかん)(おさ)ウリです」


 「ねえタリア、コイツ()に似てない?」


 礼儀作法や節度を尊重した姿勢のウリと異なり、(ほむら)は失礼極まりない。座った状態で右膝(みぎひざ)を立て、右膝の上に(ひじ)を置き、ウリを睨んだ。


 「…………」


 焔の不躾(ぶしつけ)な態度にウリの蟀谷(こめかみ)がぴくぴく痙攣(けいれん)した。自然の反応だ、彼は間違っていない。


 タリアは苦笑いしつつ、一言ウリに謝り、焔に紹介する。


 「あー……ウリ、すまない。(ほむら)、コイツも()もいけない。彼はウリ、ウォンヌの父だ。五界(ごかい)界事(かいじ)を担う、神官(しんかん)五事官(ごじかん)(おさ)だよ」


 「ふうん」


 詳細は興味がないと言いたげな相槌(あいづち)だ。通常運転の焔にタリアは片頬(かたほお)を掻き、さっと乱れた身形を()(たけ)、整えた。そしてウリに発言の許可をする。天上皇(てんじょうおう)の次に汚れなく清らかな上位神(じょういしん)に、下神(かしん)の神々は直接の接触と会話は許されないのだ。


 「ウリ、いいよ容認(ようにん)する」


 「タリア殿、アナタの()は節穴ですか?」


 開口一番(かいこういちばん)、苦言を(てい)された。冷たい眼差しは容赦がない。


 「アハハ……、普段はとてもいい子なんだよ」


 タリアは(ほむら)を庇う。焔はタリアの高評価に鼻を高くした。


 「アナタが益々(ますます)、心配でなりません」


 「……ハハ。あー……ウリ? 何故、届伝力(かいでんりき)を?」


 目頭を押さえるウリは眉間に(しわ)を刻んだ。タリアは説教を避けるべく、本題に入った。天上界の神々は用件なく上位神に連絡はしない。


 「ああ、僕としたことが申し訳ありません。タリア殿に至急、下界(げかい)の任務に当たってほしいのです」


 下界で生じた案件は下界にいる神か、(また)は自ら志願する神が解決しなければならない。位階(いかい)は関係なく、問題の重大さで五事官(ごじかん)が判断し、神々に任務を振り分ける。


 タリアは上位神、階位(かいい)の低い一介神(いっかいしん)に頼めない事態だと予測はついた。


 「わかった。私が行こう。内容は?」


 「下界の西にある柳緑村(りゅうきょくむら)で、数週間に数十名の人間が行方不明となっています。信仰心がある国です。多様な宗教、言語、文化を持つ民族で、柳緑村(りゅうきょくむら)は国の最西端(さいせいたん)にあります。情報では青銅(せいどう)面具(めんぐ)をした軍隊の霊が()(こく)に人間を(さら)っているとか……」


 ウリの掻い摘んだ説明に焔が異存(いぞん)を唱える。


 「ハッ、軍隊の霊ね。何でわざわざタリアが? 行方不明で死者はいない。幽霊退治なんて下っ端に行かせればいい」


 焔の意見は最もだ。上位神に限定する特段の重要性は感じない。


 「二凶鹿(にきょうじか)緑鹿(りょくじか)の報告があるんです」


 「……チッ」


 焔はウリの弁明(べんめい)露骨(ろこつ)な舌打ちをした。


 緑鹿(りょくじか)――大地が生んだ鹿だ。火鬼(ひおに)雷狐(らいこ)同様、神の天敵で宇宙創生以前の渾沌(こんとん)鹿神(しかしん)に等しい存在である。二凶鹿(にきょうじか)鹿界(しかかい)で残忍なふたりの鹿で、どちらも緑鹿(りょくじか)だ。恐らくは上位神(じょういしん)と同等の強さだろう。


 「成程、下界にいる上位神は私ひとりかな?」


 上位神エルを含め、上位神は地上に滅多に降りない。既知(きち)の事実だ。一応の確認で聞いたタリアにウリは首肯(しゅこう)した。


 「はい。タリア殿ひとりです。上位神は皆、平常通りの務めで天上界におります」


 「わかった。今日、柳緑村(りゅうきょくむら)(おもむ)く」


 「はあ……」


 タリアがした決定に焔が嘆息(たんそく)する。約束していた凛活街(りんかつがい)を回る計画が水の泡だ。タリアも楽しみにしていたがこればかりは仕方がない。


 「(ほむら)すまない、気を落とさないで。今度、埋め合わせする」


 「タリアのせいじゃない。二乗(にじょう)のせいだ」


 「二乗(にじょう)……、彼はウリだよ焔」


 変なあだ名に一瞬、疑問符を飛ばすタリアだったが、すぐに検討がついた。


 「俺も行く、いいでしょ」


 焔の唐突な申し出に断る理由はない。

 火鬼の監視は天上皇(てんじょうおう)より拝命したタリアの任務のひとつだ。能動的な焔にタリアは感謝する。


 「キミは私の監視下にある、傍にいてくれたら助かるよ」


 「もちろん、傍にいる」


 「ありがとう。ウリ、護衛はいるのかい?」


 昔は自分について地上に降りたがる武官(ぶかん)はいなかった。ウリは「誤解だ」と気遣ってくれたが、上位神(じょういしん)タリアのための優しい嘘に違いない。今回はもしやとある二人が脳裏に過り、問いかけた。


 「はい、おります。武官の神兵(しんぺい)ハオティエンとウォンヌが、此度(こたび)もタリア殿の同行権利を勝ち取りました。書類提出が異常に速いのです」


 予想が的中する。やはりハオティエンとウォンヌだった。タリアは慣れ親しんだ二人に不満はない。


 けれど(ほむら)は二人と犬猿の仲だ。迷惑顔で突っ撥ねる。


 「護衛はいらない」


 「アナタにどんな権限が?」

 

 天上界の中級三神(ちゅうきゅさんしん)神官(しんかん)ウリが鬼界(きかい)火鬼(ひおに)孤魅恐純(こみきょうじゅん)の命令に従う義務はない。


 「タリアの未来の旦那、の権限かな」


 焔がタリアの左耳に垂らす、自分とお揃いの菊結(きくむす)び、タッセルに触れた。三百年後、タリアが自分に嫁ぐ前約の証だ。


 「……未来の旦那? アナタは未来が夢物語にならない自信がおありですか? タリア殿、孤魅恐純(こみきょうじゅん)と恋仲を解消する機会はあるんですよ」


 「……解消」


 タリアは自分にないウリの発想に、意図せず「解消」の単語を拾ってしまう。ウリがタリアに薦めた「別れ」に焔は怒り、灼熱(しゃくねつ)の火の玉を投げた。


 「――殺す」


 「ちょっ、焔!?」


 ドゴーン! と壁が崩壊する。ウリはホログラムで傷はつかないが、辺りは大惨事だ。大きな穴が空き、開放的な窓になった。そこに雑鬼(ざっき)(うつろ)が窓の瓦礫(がれき)を登り、駆け付ける。


 「――どどど、したんすか!?」


 「消滅しろ」


 「ちょっ、孤魅恐純(こみきょうじゅん)様!? ギャアアア!!」


 「ああっ、いけない(ほむら)!!」


 収拾が付かない。二発目を放ち、(うつろ)が犠牲になったのだった。

 

最後まで読んで頂きありがとうございます!


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また次回もよろしくお願いします!

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