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桜紅初恋(オウコウ・チューリエン)1月24日番外更新☆  作者: 白師万遊
第二幕:~.。.:*✽桜紅の結び✽*:.。.~
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第三集:雑鬼の虚

 鬼界(きかい)の中心――凛活街(りんかつがい)にいたタリアと(ほむら)の姿は現在、火鬼(ひおに)孤魅恐純(こみきょうじゅん)が統治する東の領域にあった。

 凛活街(りんかつがい)と東の領域、通常は数十時間かかる距離だ。しかし焔は能力で、火輪道(かりんどう)を使い、一分と満たない瞬間的移動を可能にした。火輪道は焔が作り出した火の輪っかで、潜ったら、本人が行きたい場所に繋がる。鬼界内限定の、とても便利で羨ましい能力だ。


 「タリア、気を付けてね」


 「平気だ、ありがとう」

 

 自然豊かな林の中を抜け、広い敷地内に入った。辺りは真っ暗だ。(もや)もかかって視界が悪い。タリアは(ほむら)に導かれるがまま、木々が生い茂った坂道を上り、古い煉瓦(れんが)の通路を進んだ。


 「――タリア、俺の家、炎紅城(えんこうじょう)だよ」


 「……わあ!」


 高さ90mの岩上の山頂に建てられている、ロマネスク様式の山城(やましろ)に辿り着いた。四方を谷に囲まれた、ひっそりと(たたず)んだ炎紅城(えんこうじょう)は神秘的だ。岩と一体化した建築になっている。


 「俺も五百年、帰っていない。きっと汚れてる、ごめんねタリア」


 「急にお邪魔するんだ。私は気にしない。立派な城だね」


 赤土(あかつち)や石で堅固に固められた朱色の城壁(じょうへき)、十二本ある居住可能な(とう)の先の三角に(とが)った黒い屋根は、ハーフティンバー様式だが、ロマネスク様式やバロック様式、ゴシック様式の建築様式も混在しており、孤高(ここう)(かも)し出す雰囲気は天上界(てんじょうかい)にない、地上の時代を彩る歴史を感じさせた。

 天地で共通する家の役割は、要塞(ようさい)、政治、御殿(ごてん)、の三つだ。ここは防御に特化した、城塞(じょうさい)の構築物となっている。


 「築城(ちくじょう)、数千年かな。難攻不落(なんこうふらく)で有名だった、鬼界(きかい)で最古の城だよ。幾度となく増改築(ぞうかいちく)がされてある。最盛期(さいせいき)の名残りと象徴だ」


 地上は継承戦争(けいしょうせんそう)が多い。破壊された痕跡のない、当時を物語る城は貴重だ。


 「ねえ焔、そんな鬼界の財産と言える城を五百年、キミは封印されて空けていたんだ。誰かに荒らされた形跡はない?」


 タリアは玄関の門の前で立ち止まり、綺麗な双眼(そうがん)()らし周囲を窺った。風に揺れる葉音、野鳥の鳴き声、妖しい気配はしない。


 真剣な面持ちのタリアは自分の危険ではなく、(ほむら)の身を案じている。焔は言わずもがな、タリアの言外(げんがい)の意を察していた。タリアを腕中(うでなか)に閉じ込め、安心させる。


 「心配しないでタリア、禁侵札(きんしんふだ)を森に張ってある。誰も入れない」


 禁侵札(きんしんふだ)は敵の侵入を防ぐ札だ。幻覚の効果で炎紅城(えんこうじょう)は、森に溶け込み目視できない。万が一に備え、結界を踏み越えた際は炎で焼かれる仕掛けになっていた。


 ――はずが突如、第三者の(きし)んだ濁声(だみごえ)が響き渡る。


 「誰が入れないって?」


 玄関の門、花崗岩(かこうがん)の柱の上に影がひとつあった。影はくるっと身軽に空中で前回りし、二人の正面に着地した。角が二本ある、鬼だ。


 顔立ちは彫が深い二重のたれ目で、上下の睫毛は左が青で右が黒、鼻筋は高く唇は薄い。下唇の下側にラブレットピアスがしてある。髪型は左が青、右が黒の爽やかなソフトモヒカンだ。両耳が特徴的で、ヘリックス、インダストリアル、ロック、ダイス、コンク、トラガス、イアーロブ、と沢山のピアスをぶら下げていた。

 服装は青と黒の漢服(かんふく)だ。(えり)があり襟に続く(おくみ)を、ボタンを使用せず青と黒の帯で締めている。形は上衣下裳(じょういかしょう)で、靴は前部が跳ね上がった黒い革のブーツだ。

 男は太刀紐(たちひも)帯執(おびとり)に結び、大太刀(おおたち)を背負っている。蛇腹糸(じゃばらいと)で巻いた蛇腹組(じゃばらぐみ)(つか)、青と黒の(さや)に収まる全長約5メートルの刀剣が、空の月を真っ二つに遮断していた。

 

 (ほむら)がタリアを自分の後ろに押し込める。


 「ハッ、青鬼(あおおに)黒鬼(くろおに)雑鬼(ざっき)か。面白い」


 雑鬼(ざっき)赤鬼(あかおに)青鬼(あおおに)黒鬼(くろおに)交配種(こうはいしゅ)だ。交配種の身長は100㎝~4mと幅があり、容姿も人型(ひとがた)から獣形(じゅうぎょう)と一貫性はないが、目の前の雑鬼(ざっき)は人型で身長は180㎝と目線が合わせやすい。


 雑鬼が滑らかに反った太い太刀柄(たちづか)を右手で掴んだ。仁王立ちで吠える姿勢は勇ましい。


 「禁侵札(きんしんふだ)をどうやって突破してきた!? 何者だお前達!!」


 上下二本、計四本の牙が光った。雑鬼の質問を(ほむら)がおうむ返しする。こちらは至って冷静な語調(ごちょう)だ。


 「お前こそ、どうやって入った? 何が目的だ?」


 「はあ!? 目的ってお前なっ、俺は炎紅城(えんこうじょう)の番人だ!! 数百年、守ってる!!」


 彼の主張にタリアが焔に耳打ちする。


 「本当に? 彼は番人?」


 「いや、番人はいない」


 (ほむら)は迷わず否定した。こそこそ小声で話す二人に男は叫んだ。


 「炎紅城(えんこうじょう)火鬼(ひおに)孤魅恐純(こみきょうじゅん)様の城!! 侵すヤツは俺が相手になる!!」


 立場がまるで逆になっている。厄介な状況だ、押し問答に成り兼ねない。

 

 「――俺の炎紅城(えんこうじょう)だ。部外者はどっちだ?」


 「…………っ!?」

 

 溜息を吐く焔が実体に戻り、火鬼(ひおに)の証、紅い鬼火(おにび)を四つ放った。鋭い眼光で射抜かれる雑鬼(ざっき)驚愕(きょうがく)し、口内に溜まった唾液を飲み込んだ。


 天上界が三災鬼(さんさいき)と名付けた鬼界(きかい)最恐(さいきょう)の鬼のひとり孤魅恐純(こみきょうじゅん)の、冷徹非情な眼差しに雑鬼は両肩を震わせ突然、その場で平伏(へいふく)する。一呼吸し、名を名乗った。


 「小鬼(こおに)に変化なされていたと露知らず申し訳ありません!! 失礼致しました孤魅恐純様!! 俺は(うつろ)と申します!! 必ず帰還すると信じ、勝手ながら、炎紅城(えんこうじょう)を守っておりました!!」


 「見逃してやる、消えろ」


 焔は取り合わない。二言で会話を終わらせる。


 けれど、雑鬼(ざっき)は諦めず食らい付いた。


 「アナタを尊敬しています!! 俺の憧れなんです!! 百年間、毎日、毎日、禁侵札(きんしんふだ)に燃やされました。二百年目でようやく炎紅城に……、アナタにお仕えしたいんです! アナタの配下にならせて下さい!!」


 要するに(うつろ)は百年間、猪突猛進に禁侵札(きんしんふだ)と戦う日々を送り、二百年目に偶然、突き抜けたに過ぎない。不器用で乱暴、無鉄砲で浅はかな方法だ。でも運を手繰り寄せた(うつろ)の根性は尊い。


 心を打つ懇請(こんせい)だ。焔は地面に(ひたい)を擦り付ける虚を一瞥し、何事もなかったかのように左腕でタリアの肩を抱き寄せる。


 「タリア、寒くない? 中に入ろう」


 (ほむら)(うつろ)を完全に無視した。虚を度外視する態度に情けはないが、タリアを愛おしむ微笑みは優しい。


 「あ……、焔……待って」


 (うつろ)の涙がぽたぽた、煉瓦(れんが)の地表に落ちている。タリアは焔の胸元に手を当て、制止させた。眉尻を下げるタリアの上目遣いに焔は弱い。


 焔は右手でタリアの潤う髪を一筋、掬いあげる。


 「……はあ、なにタリア」

 

 「彼はキミに憧れている。炎紅城(えんこうじょう)も守ってくれていた、(ないがし)ろにしないで」


 タリアの瑞々(みずみず)しい桜色の瞳に「お願い」されては、焔も断れない。否、タリアの「お願い」は絶対に首を振らない。


 「……わかった、タリアが言うなら」


 「ありがとう。(うつろ)キミも泣かないで、ほら」


 焔の渋々な返事にタリアは礼を告げ、(うずくま)る虚に駆け寄り、立ち上がらせた。虚は孤魅恐純(こみきょうじゅん)に夢中でいま初めて、タリアをまじまじと正視(せいし)する。白い鬼角(おにづの)を生やした見目麗しいタリアは天女だった。


 「……どもッス」

 

 緊張する(うつろ)は動きがぎこちない。

 

 「キミは焔のどこに憧れているんだ?」


 タリアの問いかけに虚が答える。照れ臭い笑顔だ。


 「え、と、殺戮術(さつりくじゅつ)に!!」


 直後、(うつろ)が燃えた。火だるまになって転がる。


 「アチチチチ!! アチチチッ!! 助けッ、助けて!!」


 「ああっ、焔!! いけない!!」


 犯人はもちろん(ほむら)だ。焦るタリアに免じて鎮火させた。鬼体(きたい)は丈夫(ゆえ)(うつろ)は死んでいない。

 

 ただ丸焦げの灰状にっている。漢服(かんふく)(すす)けていた。


 「ハア、ハア、ハア」


 「俺のタリアに汚い言葉を聞かせるな、謝れ二度目はない」


 (ほむら)に睨まれ(うつろ)が直立する。


 「はっはい!! タ、タリア様すみません!!」


 焔の命令に従い、虚は焔のタリア(・・・・・)に謝罪し拱手(きょうしゅ)した。タリアが片頬(かたほお)を掻き、戸惑う。「様」の訂正を求めたいが、機嫌を損ねた焔を刺激したくはない。


 「私は平気だ、気にしないで」


 苦く笑いつつ、タリアは許しを演じた。


 「中に入ろう、タリア」


 焔の催促に(うつろ)が機転を利かせる。


 「俺は外にいます!! 見張りが俺の仕事なんで!!」


 虚は(こぶし)を掲げた。彼の信念だ、タリアも無理強いはしない。

 

 「ありがとう虚、おやすみ」


 タリアの挨拶で話は終わり、焔がタリアを家の中に入れる。虚ろは名残惜しげに扉を凝視し、(ひと)()ちたのだった。


 「ありがとうか、変わった女鬼(めおに)だな」

 

最後まで読んで頂きありがとうございます!


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いつも読みに来て下さる読者様に感謝……!

次回もよろしくお願いします<(_ _)>

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