表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
桜紅初恋(オウコウ・チューリエン)1月24日番外更新☆  作者: 白師万遊
══⊹⊱••❖火鬼外伝❖••⊰⊹══
37/134

第零集:神は君だけ(後)

 「……本当にいた」


 (ほむら)の呟きは震えていた。背中越しに抱き締められているタリアは身を捩り、焔と向き合う形で、彼の左頬に触れる。


 「どうしたんだ?」


 上目遣いで聞いたタリタの虹彩(こうさい)に反射する、長い睫毛を半分下げた焔は、悲しいような嬉しいような複雑な表情を浮かべていた。タリアは不安げに、焔の顔を覗き込んだ。


 「――(ほむら)?」


 「…………」

 

 タリアが自分を心配している、それが焔は嬉しい。タリアがいなければ、「生まれてきて良かった」なんて思える日は永遠に訪れなかった。


 焔はタリアの左手に自分の右手を重ね、擦り寄り、溜息交じりに答える。


 「……ちょっと思い出してたんだ、五百年前を」


 「五百年前って、キミが天上皇(てんじょうおう)に封印されたときか?」


 「まあね、あの花はタリアだったのかな」


 封印されて眠りにつく間際、彩り豊かな花びらが飛んできた。いまでも憶えている。温かくて優しい香りはタリアにそっくりだ。


 「花……うーん……。ああ、うん、そうだ。五百年前のあれは、私がキミに捧げた癒しの花だよ。キミが村を襲っている最中(さなか)天上界(てんじょうかい)は慌ただしくてね。私も地上に降りると言ったんだけど、エルに止められて、私は地上に降りられなかった。だからせめて人間と神官(しんかん)に弔いの花を、癒しの花はキミの傷付いた心を和らげ――」


 「――ありがとう」


 タリアの言葉を遮り、(ほむら)は礼を告げた。タリアの手の平に唇を寄せ、天地で唯一の愛しい存在、自分の居場所を確かめる。タリアの肌は滑らかで肌理(きめ)が細かい。


 「……っ、焔……」


 「タリアだけが俺の神だ」


 五百年前、一度、すでに焔はタリアに助けられていた。慈悲の花々はやり場のない怒りを鎮め喪失感(そうしつかん)を埋めてくれた。それは紛れのない事実だ。


 タリアを堪能する焔は気が付いていなかった。上位神(じょういしん)タリアは触れられることに慣れていない。故に茹蛸状態(ゆでだこじょうたい)だ、沸いた頭がプスプス湯気を出している。


 「………っ、焔、その……擽ったい……」


 タリアの絞り出した精一杯の抗議は、恥じらいに溢れていて可愛い。不慣れ感が焔の男心を(くすぐ)った。


 「これは癖になる」


 火鬼(ひおに)(たわむ)れは(たち)が悪い。無視する焔に、困った様子でタリアは眉尻を下げる。


 「ほ、むら、……!!」


 上位神タリアは純粋で無垢、善の塊だ。一方で焔は不純で残忍、悪の塊だ。


 「……もうちょっと、大丈夫、俺とタリアしかいない」


 焔は甘美(かんび)な声音で囁いた。


 「……っ」


 蠱惑(こわく)する眼差しで射抜かれたタリアの心臓は爆発寸前だ。色気を伴う妖しい朱色の目がタリアを捉えて離さない。


 甘い雰囲気が二人を包んだ。焔の左手が自然と動き、タリアの桜色の髪を巻き込んで細い首裏を支える。

 蝶々が好む蜜の如く艶めいたタリアの唇に焔が引き寄せられ、合わさる5㎝手前で、タイミングよく邪魔が入った。


 天上界の神官、武官(ぶかん)のウォンヌとハオティエンだ。


 「――孤魅恐純(こみきょうじゅん)!! おま、タタタリア様に!! 上位神(じょういしん)タリア様に!! 失敬千万(しっけいせんばん)な!! 今日こそ蜂の巣にしてやる!!」


 「――タリア様が居ないと捜し回って正解だったな、辺鄙(へんぴ)なところにタリア様を連れ出し、(あまつさ)え不埒極まる振る舞いを……!! 孤魅恐純(こみきょうじゅん)!! お前を断罪する!!」


 和弓(わきゅう)に矢を(つが)えるウォンヌ、軍刀を抜刀したハオティエン、二人の登場に焔が急に黒い影を背負う。焔はタリアと出会い初めてが増えた分、五百年で、した経験のない後悔も多くなった。両肩が炎で揺らめいている。


 「……消滅させておくべきだった」


 「(ほむら)だめだ、落ち着いて」


 タリアも展開の移り変わりに情緒(じょうちょ)が忙しい。赤かった耳輪(じりん)がいまは青白い。


 「待っててタリア」


 焔はタリアに微笑んで告げ、継いでハオティエンとウォンヌを睨んだ。鋭い眼光で断言する。


 「――殺す」


 「こっちの台詞だ火鬼!!」


 「決着つけてやる害虫が!!」


 「あああ、誤解だハオティエン、ウォンヌ!! 焔もっ、やめなさい三人共!!」


 三人は相容れない犬猿の仲だ。案の定、定番となりつつある喧嘩が勃発した。蒼天(そうてん)(もと)、四人の戦いが始まる。勝者は言わずもがな、上位神タリアであった。

最後まで読んで頂きありがとうございます!

次回から、二章になります。お付き合いして下さる読者様、よろしくお願いします<(_ _)>


感想、ブクマ、評価、レビュー等、頂けると励みになります!

また次回もよろしくお願いします<(_ _)>

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ