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桜紅初恋(オウコウ・チューリエン)1月24日番外更新☆  作者: 白師万遊
═════⊹⊱❖黑の章❖⊰⊹══════
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第六集:堕ちた神

 

 天上皇(てんじょうおう)の命令に背き、ルキとリイガウは聖天(せいてん)()()内城(ないじょう)に降りた。十二枚の翼を畳んだふたりは苛立っている。


 「クソッ、ジジイのヤツ!! なにが人間だ!!」


 「土の(たましい)に父さんの寵愛を奪われちまったな、屈辱だぜ。どうする、ルキ」


 「あ゛? どうするもねえよ。俺はアイツに跪拝(きはい)しねえ、絶対だ」


 「父さんは俺達を許さねえぞ」


 「ああ、跪拝(きはい)しねえ限りな」


 天上界の掟、天上皇(てんじょうおう)下命(かめい)に従わなかった罪は重い。未だ誰も経験していない、現実味を帯びる「追放」が二人の脳裏を過った。


 「……私達上位神(じょういしん)は無垢な炎で生まれ、人間は不純な土だ。人間に私達以上の権威や神力(しんりき)は無い。父さんの愛情が注がれたアイツにルキ、俺も跪拝(きはい)はしねえ。私は自らの意思で天上界を去る」


 「は!? 去る!? ジジイは地を這う生き物を支配させるためアイツ(・・・)を土で創ったんだぞ!? ジジイの計画は明明白白(めいめいはくはく)だっ、地上で人間と暮らす気か!?」


 天上皇(てんじょうおう)御心(みこころ)によって動物が支配した名も無き地上は、下界と名を改められ、土で創造された人間の住まう土地になる。


 リイガウの唐突な語根(ごこん)は予想外で、ルキが美声を荒げ睨んだ。ルキが勢いで掴んだリイガウの雄黄(ゆうおう)漢服(かんふく)衿元(えりもと)はぐしゃぐしゃで皺は深い。


 「勘違いすんじゃねえよ、ルキ。地上じゃない、まだ見ぬ異界(いかい)に行く。なあルキ、私達は上位神(じょういしん)だ。父さんの神力(しんりき)に近しい私達だって新たな界域を築けると思わねえか? 私達は父さんの神力(しんりき)(しの)神力(しんりき)があるかもしれねえんだぜ」


 それは崇高で尊い、上位神(じょういしん)にあってはならない、傲慢(ごうまん)や嫉妬の主張だった。


 「……ジジイの神力(しんりき)(しの)ぐか」


 考えた試しのない「もしも(・・・)」だ。溢れる想像の欲は大きい。


 「中位神(ちゅういしん)も数十は誘う。使いは必要だろ」


 「……なあリイガウ、ジジイがいなくなりゃ済む話じゃねえか?」


 ルキが辿り着いた極端で大胆な発想は純粋な(けが)れだ。首を傾げ口角を上げる輝きに満ちていたルキの白い虹彩が黒く濁っている。

 

 「……おいルキ、お前……目が……」


 濁りのなかった強膜(きょうまく)(まだら)模様だ。リイガウが何に驚いているか、ルキは察しが付いていた。特段、焦った様子はない。


 「ああ、わかってる。黒いんだろ? 堕ちた不思議な、まあ感覚はする。まさか俺が第一号とはな」


 鼻で笑うルキが見上げる先は青に塗られた天空だ。光を司る男神(おがみ)ルキの、全きものの典型で美を極めてた神魂(しんこん)は堕落し、堕神(だしん)になっている。堕神(だしん)胴欲(どうよく)や自由意志で天上皇(てんじょうおう)の愛を裏切った神の称呼(しょうこ)だ。

 

 天上界の誕生以来、堕ちた神はいない。堕ちる神はいないと、信じられてきた。


 「私も堕ちてるか?」


 「ああ」


 「道理で血が(たぎ)るワケか……」


 しかし歴史も又、流転する。ルキに続いてリイガウも堕神(だしん)となってしまった。神体(しんたい)を侵食する闇の幼声がする。


 「――全部を(ヘェイ)で染めよう」


 「うるせえ、俺に指図するんじゃねえ。俺の尊厳は自分で示す、二度と喋りかけるな」


 「私もキミに興味がねえな。寝てろ、腐った(かたまり)め」


 ルキとリイガウ、ふたりの精神は強い。引き摺られて当然の常闇(とこやみ)を瞬殺で黙らせた。


 「俺は俺でジジイを蹴落とす。リイガウ、飛翔道(ひしょうどう)で待ち合わせだ。ジジイに負けりゃ俺はお前と新天地に行く。俺が来なきゃ待たずに行け、勝利すりゃ天上界の新皇(しんおう)が直々にお前を迎えに行ってやる」


 飛翔道(ひしょうどう)上位神(じょういしん)のみが通れる天と地を繋ぐ()わば道だ。天上皇(てんじょうおう)に授かった翼が十二枚ない下位神(かいしん)は風速、風向の異なる風帯が混じり合った乱流の中を飛べない。


 「言うねえルキ、じゃあ私は私で神々を収集し、飛翔道(ひしょうどう)に向かおう」


 リイガウは上位神(じょういしん)らしいルキの矜持(きょうじ)に片眉を吊り上げ、一拍置き、言葉を紡いだ。


 「タリアは――」


 「天上界 (ここ)を去る場合は連れて行く」


 リイガウの一声(ひとこえ)でルキは質問の主旨を把握し、断言する。ルキの一番はタリアだ、残してはいけない。離れたくはない。


 「拒絶され、馬頭され、憎まれようが、俺はタリアを連れて行く」


 「――タリアは諦めろ、ルキ」


 ルキの願望を打ち砕く男神(おがみ)が現れた。上空で十二枚の翼を羽ばたかせ、ルキとリイガウを眼下にする人物は、ルキと同じ炎で誕生した双子、正義を司る上位神(じょういしん)エルだ。


 エルは二等辺三角形に等しい剣身(けんしん)、アーミングソードを抜剣している。剣身の中央の溝、フラーに刻まれた天上皇(てんじょうおう)御言葉(みことば)を撫でる太陽の金光(きんこう)は眩しい。


 「……行け、リイガウ。エルは俺に任せろ」


 「ああ。じゃあなエル、私はお前を愛してるぜ」


 上位神(じょういしん)の絆は血より濃厚で千切れない。リイガウはルキに微笑み、一弾指(いちだんし)、低空飛行で場を後にした。


 エルは追わない。エルの眸子(ぼうし)は余裕で笑んだ、堕神(だしん)ルキを映している。


 「……ルキ、父上に懺悔(ざんげ)しろ。間に合う、父上は寛大だ。俺もお前と共に罪を償ってやる」


 「ハッ、相変わらずお前はジジイに忠実だな。俺はジジイが愛す人間が大嫌いだ、ジジイも大嫌いだ。俺を(ひざまず)かせれる者は、もう誰ひとりいねえんだよ」


 ルキは能力で光を纏う刀剣、バスタード・ソードを取り出した。刺突と斬撃の両方が可能な刃を備えた刀剣で、握り部分は長い。扱い難い形状だが、ルキ本人が鍛えた神剣(しんけん)だ。


 「……俺は俺の正義を貫く」


 「上等じゃねえか、エル」


 ふたりは同時に踏み込み、刃をぶつけ合う。天上界の調和と秩序が振動し、空気は(しび)れ、天は揺れ動いたのだった。

おはこんばんは、白师万游です(∩´͈ ᐜ `͈∩)

最後まで読んで頂きありがとうございます!


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