第六集:堕ちた神
天上皇の命令に背き、ルキとリイガウは聖天の間を出、内城に降りた。十二枚の翼を畳んだふたりは苛立っている。
「クソッ、ジジイのヤツ!! なにが人間だ!!」
「土の魂に父さんの寵愛を奪われちまったな、屈辱だぜ。どうする、ルキ」
「あ゛? どうするもねえよ。俺はアイツに跪拝しねえ、絶対だ」
「父さんは俺達を許さねえぞ」
「ああ、跪拝しねえ限りな」
天上界の掟、天上皇の下命に従わなかった罪は重い。未だ誰も経験していない、現実味を帯びる「追放」が二人の脳裏を過った。
「……私達上位神は無垢な炎で生まれ、人間は不純な土だ。人間に私達以上の権威や神力は無い。父さんの愛情が注がれたアイツにルキ、俺も跪拝はしねえ。私は自らの意思で天上界を去る」
「は!? 去る!? ジジイは地を這う生き物を支配させるためアイツを土で創ったんだぞ!? ジジイの計画は明明白白だっ、地上で人間と暮らす気か!?」
天上皇の御心によって動物が支配した名も無き地上は、下界と名を改められ、土で創造された人間の住まう土地になる。
リイガウの唐突な語根は予想外で、ルキが美声を荒げ睨んだ。ルキが勢いで掴んだリイガウの雄黄の漢服の衿元はぐしゃぐしゃで皺は深い。
「勘違いすんじゃねえよ、ルキ。地上じゃない、まだ見ぬ異界に行く。なあルキ、私達は上位神だ。父さんの神力に近しい私達だって新たな界域を築けると思わねえか? 私達は父さんの神力を凌ぐ神力があるかもしれねえんだぜ」
それは崇高で尊い、上位神にあってはならない、傲慢や嫉妬の主張だった。
「……ジジイの神力を凌ぐか」
考えた試しのない「もしも」だ。溢れる想像の欲は大きい。
「中位神も数十は誘う。使いは必要だろ」
「……なあリイガウ、ジジイがいなくなりゃ済む話じゃねえか?」
ルキが辿り着いた極端で大胆な発想は純粋な穢れだ。首を傾げ口角を上げる輝きに満ちていたルキの白い虹彩が黒く濁っている。
「……おいルキ、お前……目が……」
濁りのなかった強膜も斑模様だ。リイガウが何に驚いているか、ルキは察しが付いていた。特段、焦った様子はない。
「ああ、わかってる。黒いんだろ? 堕ちた不思議な、まあ感覚はする。まさか俺が第一号とはな」
鼻で笑うルキが見上げる先は青に塗られた天空だ。光を司る男神ルキの、全きものの典型で美を極めてた神魂は堕落し、堕神になっている。堕神は胴欲や自由意志で天上皇の愛を裏切った神の称呼だ。
天上界の誕生以来、堕ちた神はいない。堕ちる神はいないと、信じられてきた。
「私も堕ちてるか?」
「ああ」
「道理で血が滾るワケか……」
しかし歴史も又、流転する。ルキに続いてリイガウも堕神となってしまった。神体を侵食する闇の幼声がする。
「――全部を黑で染めよう」
「うるせえ、俺に指図するんじゃねえ。俺の尊厳は自分で示す、二度と喋りかけるな」
「私もキミに興味がねえな。寝てろ、腐った塊め」
ルキとリイガウ、ふたりの精神は強い。引き摺られて当然の常闇を瞬殺で黙らせた。
「俺は俺でジジイを蹴落とす。リイガウ、飛翔道で待ち合わせだ。ジジイに負けりゃ俺はお前と新天地に行く。俺が来なきゃ待たずに行け、勝利すりゃ天上界の新皇が直々にお前を迎えに行ってやる」
飛翔道は上位神のみが通れる天と地を繋ぐ謂わば道だ。天上皇に授かった翼が十二枚ない下位神は風速、風向の異なる風帯が混じり合った乱流の中を飛べない。
「言うねえルキ、じゃあ私は私で神々を収集し、飛翔道に向かおう」
リイガウは上位神らしいルキの矜持に片眉を吊り上げ、一拍置き、言葉を紡いだ。
「タリアは――」
「天上界 を去る場合は連れて行く」
リイガウの一声でルキは質問の主旨を把握し、断言する。ルキの一番はタリアだ、残してはいけない。離れたくはない。
「拒絶され、馬頭され、憎まれようが、俺はタリアを連れて行く」
「――タリアは諦めろ、ルキ」
ルキの願望を打ち砕く男神が現れた。上空で十二枚の翼を羽ばたかせ、ルキとリイガウを眼下にする人物は、ルキと同じ炎で誕生した双子、正義を司る上位神エルだ。
エルは二等辺三角形に等しい剣身、アーミングソードを抜剣している。剣身の中央の溝、フラーに刻まれた天上皇の御言葉を撫でる太陽の金光は眩しい。
「……行け、リイガウ。エルは俺に任せろ」
「ああ。じゃあなエル、私はお前を愛してるぜ」
上位神の絆は血より濃厚で千切れない。リイガウはルキに微笑み、一弾指、低空飛行で場を後にした。
エルは追わない。エルの眸子は余裕で笑んだ、堕神ルキを映している。
「……ルキ、父上に懺悔しろ。間に合う、父上は寛大だ。俺もお前と共に罪を償ってやる」
「ハッ、相変わらずお前はジジイに忠実だな。俺はジジイが愛す人間が大嫌いだ、ジジイも大嫌いだ。俺を跪かせれる者は、もう誰ひとりいねえんだよ」
ルキは能力で光を纏う刀剣、バスタード・ソードを取り出した。刺突と斬撃の両方が可能な刃を備えた刀剣で、握り部分は長い。扱い難い形状だが、ルキ本人が鍛えた神剣だ。
「……俺は俺の正義を貫く」
「上等じゃねえか、エル」
ふたりは同時に踏み込み、刃をぶつけ合う。天上界の調和と秩序が振動し、空気は痺れ、天は揺れ動いたのだった。
おはこんばんは、白师万游です(∩´͈ ᐜ `͈∩)
最後まで読んで頂きありがとうございます!
感想、レビュー、評価、いいね、ブクマ、フォロー等々、
頂けると更新の励みになります(*´︶`*)♡
また次回の更新もよろしくお願い致しますヾ(´︶`*)ノ♬




