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第63話.お前がいてくれて……

「あ……」


 暗闇の向こうから、ランタンを手に持っている誰かが現れた。そしてその誰かは俺たちの存在に気付き……背を向けて走り出す。


「やつを追え!」


 俺も指示と同時に走り出した。たぶんやつは、『黒幕』に俺たちのことを知らせようとしている。面倒なことになる前に……ここで制圧しなければならない!

 ランタンの光に頼って、俺は暗い洞窟の内部を疾走した。俺に追われているやつも同じく必死に走っているが、少しずつ距離が縮まっている。

 白い光が見えてきた。洞窟の入り口だ。俺に追われているやつは入り口をくぐり、俺もその後を追ったが……いきなり岩石が落ちてきて、轟音と共に入り口を塞いでしまう。


「ちっ!」


 やつらは万が一に備えて、いつでも洞窟の入り口を封鎖できるように仕掛けておいたのだ。


「レッド!」


 ドロシーと組織員たちが駆けつけてきた。


「レイモン、つるはし!」

「はい!」

「みんな、下がれ!」


 俺はレイモンからつるはしを受け取って、入り口を塞いでいる岩石を思い切って叩きつけた。


「うおおおお!」


 2回、3回……そして4回目、岩石が粉々になって飛び散る。俺はレイモンにつるはしを返して洞窟を出た。


「どこだ……」


 外は眩しかった。俺は逃げたやつの痕跡を探した。地面に縄や板などが落ちていたが、これはたぶん岩石を落とす仕掛けに使われたものだ。


「こっちだ!」


 俺はやつの足跡を見つけて、それを追跡した。ドロシーと組織員たちも俺に続いた。

 予想通り、ここは山の奥だった。俺たちは数時間も歩いて、いつの間にか北の山脈まで来ていたのだ。

 険しい道を走り続けると、山の崖にそうように建てられた建物が見えた。木造の建物だ。さっき逃げたやつはこの中にいるだろう。俺たちは戦闘を予感して、慎重な足取りで建物に近づいた。


「レッド」


 傍からドロシーが小さな声で俺を呼んだ。


「この建物、規模が……」

「ああ、本拠地にしては小さすぎる」


 俺は頷いた。1階建ての木造の建物は、せいぜい10人程度が生活できる規模だ。『黒幕』の本拠地にしては小さすぎる。


「地下室が広いのかもしれないが……たぶん本拠地ではない。拠点の一つだろう」


 それを確かめる方法は一つしかない。俺は建物の扉を蹴っ飛ばし、罠がないことを確認してから内部に侵入した。

 建物の内部には十数人の男たちが俺を待っていた。全員覆面で顔を隠して、手に武器を持っている。


「やつを殺せ!」


 一番後ろの男が命令すると、他のやつらが俺にかかってきた。俺は拳を振るってやつらの顔面を強打した。


「ボス!」


 組織員たちも建物に入ってきて、俺に加勢した。ドロシーも腰から細剣を抜いて戦い始めた。


「ぐおおおお!」


 俺はナイフを持っている男の横腹を蹴った。やつはあばらが折れて、そのまま倒れてしまった。しかし……すぐ起き上がる。


「レッド、こいつらは……!」


 俺の傍からドロシーが声を上げた。


「ああ、実験の犠牲者たちだ!」


 こいつらは……俺と戦った時のデリックと同じだった。『天使の涙』の実験に利用され、自分の意志はほとんどないまま……ただ殺意だけで動いている。拳で殴られようが細剣で刺されようが……構わず攻撃を続ける。おかげでドロシーも組織員たちも苦戦を強いられていた。


「ぬおおおお!」


 こいつらを倒すためには……意識を完全に奪うしかない。俺は正面の男の武器を蹴っ飛ばし、右手でそいつの首を掴んだ。やつは少し抵抗したが結局倒れてしまう。


「はああっ!」


 組織員たちが俺を真似し、敵を武装解除させて首を絞めた。一番強いレイモンはもちろん、衰弱しているデリックも勇敢に戦った。


「ちっ……!」


 一番後ろで命令を出していた男は、戦況が不利になると素早く階段を降りて地下室へ逃げてしまった。俺はみんなと一緒に逃げた男を追った。

 地下室は広く、化学実験道具などが散らばっていた。逃げた男は大きい机の前に立って俺を睨んできた。彼の後ろには多くの文書が溜まっていた。

 俺は男の目を注意深く見つめた。この男は俺と洞窟で遭遇したやつだ。しかもこいつだけ『天使の涙』による実験を受けていない。たぶんこの拠点の管理者なんだろう。


「お前がここの管理者なんだな?」


 俺の質問に、男は何の反応も見せなかった。


「この件の『黒幕』……つまりお前のボスはどこだ? 素直に話せば命だけは助けてやる」


 1階に倒れている実験の犠牲者たちは、たぶん『黒幕』について何も知らない。具体的な情報を持っているのはこいつだけだ。何とかしてでも……白状させなければならない。


「早く返事しないと、お前は……」

「ふふふ」


 男がいきなり笑い出した。それは諦めた人間の笑いではなく……悪意に満ちた笑いだった。俺がその事実に気付いた瞬間……男は机の上の実験道具を地面に叩きつけて、その上にランタンを投げ出した。


「こいつ……!」


 瞬く間に炎が燃え上がり、周りの全てを焼き尽くし始めた。男はもちろん、彼の後ろに溜まっていた文書も炎に包まれた。やつは自分自身を含めて……『黒幕』に関する情報を全て消滅させたのだ。


「ボス、ここは危険です!」

「くっそ!」


 炎の勢いが強すぎる。ここにいては全員危ない。悔しいけど、みんなを連れて脱出しなければ……。


「うおおおお!」


 その時だった。組織員の中の誰かが……燃え上がる炎に飛び込んだ。それは……デリックだった。


「デリック!」


 俺が慌てて叫ぶと、デリックが炎の中から飛び出てきた。彼はまだ燃えていない文書を抱えていた。


「くっ……!」


 俺はデリックを抱えて、みんなと一緒に地下室から抜け出した。しかし炎はもう建物全体を燃やそうとしている。組織員たちは倒れている実験の犠牲者たちを背負って建物から脱出し、俺もその後を追った。


「おい、デリック! しっかりしろ!」


 燃え上がる建物の前で、俺はデリックを見下ろした。もう衰弱していた彼は……全身に火傷を負っていた。


「デリック!」

「ボ、ボス……」


 デリックが細い腕を動かし、俺に文書を渡してくれた。


「デリック!」

「私は……役に……」


 それがデリックの最期の言葉だった。

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