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エルフの森へようこそ  作者: やゃや
5章「When You Wish upon a マーズ」
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4話「火星に願いを2」


 灯がぽつぽつと点き始めた、ハナビの後のエルフの国。

 時刻はもうすぐ夜の10時。


 真っ暗だった街並みは、次々に電灯が光り始めて昼間と変わらない明るさを取り戻した。

 街に響き渡っていたハナビの音は、家路へ着く車と歩行者・飛行者の混じった群衆の喧騒に差し替えられていた。

 非日常から日常へ、その移り変わりの過渡期の空気が、エルフの街に蔓延していた。


 そんな祭りの後のような空気の、熱気の残滓が漂うエルフの国。

 警察署を飛び出したルチアさんと元凶さんを追い、街へと繰り出した俺とクリス。


 積もりに積もった問題を、"解決してやる!"等と啖呵を切って飛び出した、のだが……


「……エリちゃん、ここ、前に通らなかった?」

「ヤバい、迷子だ」


 ハナビ大会から引き返す群衆と、大雑把にしか把握でき無かったルチアさんの逃走方向。

 以上二つの要因から、「多分こっち! なんかそれっぽい人影が見えた!」と、普段使わないような路地に入ったのが運の尽き。


 入り組んだビルとビルの狭間の路地で、完全に現在地を見失っていた。


「どどど、どーするのエリちゃん!? ルーちゃん"火星に行く"って言ってたんでしょ!? もたもたしてたら永遠にサヨナラだよ!?」

「お、おおおおーお落ち着け!!! こういう時は……こういう時は……」


 手っ取り早くルチアさんの居場所がわかる手段は……いや、最悪連絡をとるだけでも……


「……あ、よく考えたら電話かければいいだけじゃ……?」


 !? 

 その手があったか!? こいつ、天才か!


「あ、でもでも、ルーちゃん手錠したまま外に出ちゃってるから出られないかな?」

「元凶さんも一緒にいるから、電話くらいなんとか出られるだろ」


 さっそく胸ポケットのスマホを取りだし電話を入れる。

 "友人"のタグに分けられた、"ルチア"の表示をタップする。

 ぴ・ぽ・ぱ、と耳元で音が鳴ると、すかさずプルルと電波が発信され……


"おいルチア! 電話! 電話なってるぞ!" 

"あ、ちょっと!? 大きい声だしちゃダメっすよ!? ウチの「アレ」にみつかちゃうっす!"


 すぐに当の本人たちの声が聞こえた。

 スマホからはまだプルルと音が鳴っているのに。


「い、意外と近くにいたね……」


 なぜこんな所にいるのか、等はこの際後回しだ。

 まずは合流せねば。

 パイプだらけの父親が、ルチアさんを追ってきているのだから。


「でもこんな入り組んだ所でどうやって合流するの?」

「それは簡単。大声で叫べばいい」

「叫ぶ?」


"おい、ルチア! 着信が途絶えたぞ!? いいのか!? 電話、居留守使ってるけど大丈夫なのか!?"

"だから静かにしてって言ってるんすけど!?"


 おそらくまだこちらに気づいていないであろうルチアさんたちの声が、ビル街の路地裏に響いている。

 むこうからの声が届くという事は、こちらの声も届くはず。

 なので……


「ルチアさんの今日のパンツはぁあああ!!! ちょっとお高めの白い……」

「ぬあああああああ!!? 何て事口走ってるんすかこんボケぇえええ!!!」


 このように向こうから探し出してくれるのだ! 必死こいて!


「おお!」

「のだ! じゃないっすよ!? 殴っていいっすか!? 殴っていいすよね!? というか殴ります!」


 俺の顔面が軽くひしゃげる音が響いたが、まあ仕方がない。


「うぐぐ……いいかクリス……これがいたしかたない犠牲、コラテラルダメージというものだ……」

「おお! かっこいい!」

「もう一発殴られたいんすか」

「すんません調子こきました勘弁して下さい、今ので首の骨がギシギシ言って冗談抜きに死にそうです」


 首が少し変な方向に曲がったが、無事合流できたのでよしとしよう。


「まあいいすっけどね、あとウチの今日のパンツは白じゃないんで」

「え? じゃあ何色なのだルチア?」

「なんでアクエさんが気にするんすか!?」

「いや、謎は謎のままにするなんてもやもやするだろう?」

「それパンツの色に対してする疑問じゃないっすよ!?」

「謎と言えば、なんでルーちゃんがここに居るかも謎だね」

「やめろクリス、話題をコロコロ変えるな!」


 いかん、このままでは話がとっちらかる。

 ”今日の”クリスとルチアさんは自由奔放が過ぎてヤバい。


「落ち着いて下さいエリちゃんさん! ここは話題変えていいやつっすよ! むしろ無理矢理変えるべきっすよ!」

「でもだよルチアさん……」

「でもも糞もねえっす!!」

「……で、何の話をしていたのだったか?」

「ルーちゃんのパンツの色……」

「ウチのパンツから離れろぉ!!」


 ……このままでは埒が明かない。 


「よしクリスそこまでだ! ただでさえルチアさんの父親が、いつ現れるかわからないんだから」

「え、でも謎は謎のままにしちゃ、痛い痛い!! 耳! 耳引っ張るの止めて!」

 

 実力行使もやむを得ない。


「そうっだったすよ、ヤバいんすよ、ウチの"アレ"が先回りしてたんすよ!」


 せっかくクリスが黙ったのに、今度はルチアさんが要点の掴めない会話をし始めた!

 アレとはなんだ! アレがどこに、先回りしてたのか、どうヤバいのかを、まず言えっての!


「ルチア、それではダメだろう、まずは我々がどこへ行こうとしてたのかを言わないと!」


 おお、流石アラフォー! ナイスフォローだ!


「そうだな、まず説明するに、火星へのゲートというのがあって、それで機関の施設から私は来たんだが、そこで私は保護という名の監視を……」


 畜生、この人どうあがいてもポンコツだった!

 この人からの説明は期待できない!!


「えーっとよく分かんないけど、要するにルーちゃんは火星へはいけなくて、ここで隠れてたって事?」

「そう! それだ! いやー伝わってよかった……」

「待て待て待て、それで終わるな説明不足だ!」


 ツッコミが! ツッコミ要因が足りない!


「いいか! 説明は! 一つずつ! 順番にしろ!」

「どうしたのエリちゃん? 説明なんて今ので十分伝わっ、痛い痛い!?」

「とりあえず、ルチアさん達は火星に行こうとした! そうだな!」

「あ、はいそうっす」

「で、元凶さんがこっちの世界に来た原因の、"ゲート"って奴に入ろうとしたと」

「ああそうだ、あと、元凶さんと呼ぶのはやめ」


 そして最後に、そのゲートにルチアさんの父親が先まわりしてて、慌ててこの路地に逃げ隠れた、という事がルチアさんから告げられる。


「まあざっくり言うとこんな感じっすね」


 やっと……やっと状況確認が終わった……たったこれだけなのに、ものすごい疲労感だ……


「……で、これからどうしようって時に路地裏でパンツを叫ぶ変態さんっすよ」


"なるほど、それはさぞ大変だったろうね"


「はい、そうなんすよ、まったく酷い友人もいたもん……っす……?」

「……!?」

「……なあ、今の発言は、どこから来た発言だ? 誰の発言だ?」

「私じゃないよ?」


 後ろからでも、前からでもなかった。

 まるで頭上から降ってきた言葉のような響き方だった……


"大変だったのなら、そんなバカげた事はやめて、家に帰りなさいルチア"


 まるで、ではなく、間違い無く、頭上からの言葉だった!


"警察には話を通した、何もかも不問にするよう根回しもした、だから……"

"もう無駄なことは止めなさいルチア"


 数分前に聞いた、パイプ男とは別の声まで響いた!

 恐る恐る頭上を見上げると、そこには予想通りビルの屋上に立つパイプ男!

 それに加えて隣には、メタリックなスーツを着た、全身の配管から蒸気を吹きだす女性のような何かがいた!


 組織的な航行が不可能な危険極まる宇宙へ、個人で到達しうる異常人が、二人もいた!


「お母さん……」


 予想通りというかなんというか、やはりあの蒸気女はルチアさんの母だった。


"ルチアごめんなさい、私達にもわかっているの、今日この日に家族と一緒にいられない事がどんなに辛いか、でも……"


 父親とは対照的に、母親の態度はかなり柔らかいものだった。

 包み込むような、抱擁するような、そんな態度、だが。


「もういいっす、何も言わなくてもいいっす」


"ルチア……!"


 ルチアさんは明確な拒絶をした。

 学校で習った、反抗期という奴なのだろうか。

 俺には親が居ないので具体的なものはわからないが。


 経験のないが故に、親子の関係というものに口出しできない。

 こればっかりはしょうがない、できるのはルチアさんへ味方する事のみ。


 しかたない。

 仮にあの人外生物と戦闘になろうともしかたない。

 こうなればルチアさんが気の済むまで付き合って、そこから解決の糸口をゆっくり模索……


「もう花火大会に一緒にいる必要もないっす! だって、ウチには、もう本当のお父さんとお母さんがいるっすから!」


""!!?""


 ちょっと待った、急に新事実が飛び出した!

 嘘だよな!? そんな重い話に付き合えるほど、俺は経験豊富ではないのだが!? 


「る、ルーちゃん何言ってるの!?」

「ウチには家族がいるっす! だからもう構わないでください!!」


"な……!? え……!?"

"何を馬鹿なことを言っているの!? 貴女は私がお腹を痛めて……"


「ここにいる、エリちゃんさんとアクエさんが、うちの新しい家族っす!」


 !?


""!?""


「これから火星で新しい家族計画を立てるんすよ、だからもう、構わないでください」


 支離滅裂だ、論理もくそもない。

 反抗期とはこれほどか、親子関係とはこれほどか。

 可愛さ余って憎さ百倍という奴なのか、愛憎反転か。

 愛されたことがないのでわからないが。


 困惑するこの場の全員を尻目に、ルチアさんはスマホのワープアプリを起動した。

 そのまま流れるように俺とクリスと元凶さんを、魔法陣に放り込んだ。

 手錠されたままの手首は、少し赤く腫れていた。




 数分後。

 長い白い光のトンネルを抜けて、どこか明るい場所に出る。


 長距離ワープの反動でぼやける頭を何とかはっきりさせて、辺りの状況を見回す。


 とても高い天井、キラキラ光るシャンデリア、壁、壁、なにやら豪華なインテリア、壁、高そうな絵画、テーブル、椅子、ドア、壁。


 そこまで見回して、ようやく最初に目に入った知り合いはルチアさんだった。

 なにやら壁に顔面からもたれ掛かり、海老ぞりのような体勢でブツブツと呟いていた。


「やっちまったっす……なんか勢いで、とんでもない事を……」


 どうやら先程の「新しい家族」発言は、その場の勢いで、感情のままに言ったデマカセらしかった。

 とても助かる。家族になって下さいなんて言われても、家族として接する方法なんて知らないのだから。

 誰かを愛する方法なんてエロ本の中でしか知らないのだから。

 なのでとても助かる。


 まあその辺は置いておいて、とりあえず。


「おーい、大丈夫か白パンティ」

「……白じゃないって言ってるじゃないっすか」


 ツッコミに勢いがないが、ルチアさんは無事なようだ。

 メンタル面以外は無事なようだ。


「クリスと元凶さんは?」

「もう起きてどっかいったっす」


 そしてどうやら俺は、俺だけは少し意識を失っていたらしい。

 他の二人も無事、問題なし。


「で、これからどうするんですか黒パンティ」

「あの……パンティって呼ぶのはやめて欲しいんすけど」

「これからどうするんですか赤パンティ」

「……もしかして怒ってるっすか……?」


 ルチアさんが恐る恐ると言った表情でこちらを窺う。

 感情のまま、無計画に、我々を巻き込んでしまった自覚はあるのだろう。


 別にそのことで怒っているわけではないが、流石にそろそろ俺とクリスを何も語らず振り回すのはやめて欲しい所。

 まあ、最初の方は説明させないようにした俺も悪かったが。


「いやぁ怒ってはないよ? でもね? 何か重要な決断する時には相談くらいしてもいいんじゃないですか青パンティ」


 そう、ワンクッション、会話を置いてほしい。

 そしたらいくらでも助ける。

 友達としての接し方は、俺でもちゃんと知ってる。


「す、すいませんでした……」

「うむ、謝ったので許す、これでさっきのはチャラな! だからもう謝ったらだめな!」

「あ、はい……」

 

 こういうウジウジしている奴相手には強引な方がいい。

 実際自分がそうだった。

 ……"だった"ではなくおそらく現在進行形だが、それは後回し。


「じゃ、そういわけで次は貴女は何するんですか黒パンティ」

「パンティは止めないんすか!?」

「早く言え食パン」

「ついにパンツですら!?」


"それについては私が説明するわ!!!"


 ルチアさんとの会話で遊んでいたら、ドアの外から大声が響いた。

 ……なんだか聞き覚えがある声だ!


"いや、私達と言うべきかな!!"

"あらパパ今の表情素敵!"

 

 聞き覚えのある声がまた増えた!

 そういえば、ワープした先がどこなのかまだ聞いていなかった。


 いや、なんとなく予想はつくが。

 ルチアさんの行動範囲内で、異世界の火星にいけるほどの技術がある人の場所。

 そんな所などひとつしかないのだが。

 魔法も科学もどっちもいける、青肌角付きのあの友人宅しか有り得ないのだが。


「話は大体聞かせてもらったわ!!」


 見慣れた青髪青肌角付きの友人が、ミシェルさんがドアの向こうから現れた。


「なんて水臭いんだ君達! そういう事柄の事件なら、相談してくれればいいじゃないか! 娘の友人は私達の友人も同然だ!」

「そこは娘同然っては言わないのねパパ! 素敵!」


 いつかみた変態パパさんと、ナイスバディな青肌の女性のバカップルが、なぜか天井から降りてきた。

 なぜドアから入らない!?

 

「私達が!」

「君達を!」

「火星に連れていって差し上げるわ!!」


 そして、やたらテンションの高い前髪さん家族が、なぜかすでに俺達の火星行きを決定していた!


「あの……事情を話したらなぜかこういう事に……なっちゃったっす……」


 "なっちゃったっす"、じゃないだろう!?


「どうせ理屈で説明してもあーでもないこーでも無いって言うだろう? 特にアリエル君は」


 いや!? 納得のいく説明をしてくれれば素直に行きますけど!?


「それに時間も無いものねぇ」


 時間がない?

 確かに、ルチアさんの両親なら、きっとワープの座標を探しあてたりできそうだけど……


「あーそっちじゃないのよアリエルちゃん」


 ?


「まあ何はともあれ火星へ行くためのゲートは既に作って有る! 時間も無いし無理矢理にでも放り込むぞ!」

「ちょっと待てパパさん、せめて説明を!」

「せっかくだし、君も自分の過去としっかり向き合ってきなさい、そうすれば胸のもやもやも取れると思うよ」

「!?」

「貴女の全てを調べたって前にもいったでしょう? 妹さんの事も、その体の事もお見通しよ!」


 このバカップルは、一体何を知っているというのだ!?

 どこまで知っているというのだ!?

 説明してくれないかな!?


「あの、ウチも行くんすか……?」

「はっはっは! 何を言っているんだ! 君が言い出しっぺだろう! 最後までアリエル君の事、アクエさんの事、しっかり責任持ちなさい!」

「というわけでこちらが私が作ったゲートよ!」


 困惑している俺をよそに、いつの間にか目の前に、ドア状の機械が部屋に設置されていた。

 ついさっきまでは無かったはずだが!?


「12時までには戻ってきなさいね? それがタイムリミットだから」


 一体何のタイムリミットだ!?

 せめて説明を……


「それじゃあルチア君は異世界旅行、アリエル君は故郷帰り、楽しんできなさい」

「後の二人は先に行ってるから、安心してね?」


 有無を言わせぬとはまさにこのことか。

 ワープから意識を取り戻してものの数分。


 あれよという間に俺とルチアさんは、火星へと飛ばされた。


 ここに来てさらに問題が増えた気がするが、果たして大丈夫なのだろうか!?


 そんな俺の心配をよそに俺の両足は、二度と来るはずの無いと思っていた、火星の土地を踏みしめていた。


 火薬の臭いが鼻につく、倒壊した建物の並ぶ火星の国。

 俺は、この星にこの世界に、ついに帰ってきてしまった。

 軽いノリで帰ってきてしまった!

 

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