全面対決は避けられた(残念)
「……で、そんときにサルデス君が持ってたアイテムが、アイツらの言ってた夜魔の宝玉って訳だ」
「なるほどなぁ」
ボスエリア前のポータルの傍で、ゲッコーに知る限りの情報を説明する。
あの後、ゲッコーと別れてすぐさま御礼参りがしたいオズと、とりあえずスータットに戻って釈明がしたい店長の都合がかち合ったため、未だポータル前にたむろしているのだった。
オズとしては、高レベルNPCが向こうから喧嘩を売ってきてくれたので、この機会を逃したくない。オズ一人ならNPC殺害や敗北時のリスクはまあ許容出来るし、悪魔族の村には入れなかったので思い入れは無く、殴り込むのを厭う理由も無い。
一方の店長としては、村は店員達の故郷であるので、あまり無体な真似はして欲しくない。今回は村側に非があるのだが、それはそれとして穏便に済ませたい、と言うのが言い分だ。
で、話が平行線を辿りかけた所で、事情が分からず一人置いてかれているゲッコーに気付いて、慌てて事情を説明したのだった。
偏りの無いよう両者から話を聞き終えたゲッコーが、考えを述べる。
「まあ、大体の事情は分かった、と思う。俺としちゃ、この先外に出る度に襲われるかも知れないってのは、流石に勘弁だな」
「ですが……」
「あー、まあ、ホープさんの言い分も分かるよ。俺の屋台が商売続いてるのも小悪魔の子達のお陰な部分はあるし、あの子達を泣かせたくないってのは全面的に同意する。
ただまあ、ホープさんがどう思ってようと、アッチが喧嘩売ってきたらどうしようもないってのも事実なわけだ」
店長はレベルドレインでは最高責任者だが、村で権威が有るというわけではない。店長がいくら頭を下げても、今後村人が同じ事をしないという保証は出来ない訳で、このまま帰ればオズもゲッコーも泣き寝入りになる。
その事実を告げた上で、ゲッコーは折衷案を提示した。
「つー訳で、今から3人で村に行って、和解する余地があるかどうか確かめようぜ」
「えー……」
ゲッコーの発言に、オズが嫌そうな声を上げる。正直、一番出されたくない案だった。
「ホープさんが間に入って、村側が和解を呑むならそれで良し。和解する気が無いとか、そもそも門前払いを食らうなら、そん時は俺としちゃ下の人を止める理由が無くなる。
ホープさんは、まあ双方の言い分を聞いて、村に味方するかどうか決めれば良いんじゃねーの」
「先に俺だけで様子を見てこようか?」
「流石に、それを信じるほど俺も馬鹿じゃねーよ」
諦めの悪いオズの提案を、ゲッコーが一蹴する。
話を聞いていた店長が、口を開いた。
「私も少々、頭に血が上っていた様です。確かに、我々だけで解決出来る話でもありませんでしたね。
……分かりました、村へ行きましょう」
そういう事になった。
ボスエリアを抜けると、早速2人の門番が駆け寄ってきた。
「ホープ殿、一体何事です!? 後ろの竜隷共は!?」
「村長とギヴァに話があるの。門を開けて頂戴」
「いや、まずこちらの質問に――」
「開けなさい」
「…………はい」
店長の瞳が妖しく光り、門番達から表情が抜け落ちる。
そのまま、のそのそ動いて門を開け始めた。
「ふう、まずは問題無く村に入れるようで、何よりですわ」
「いや、良いのアレ!?」
「ええ、勿論。平和的に済んで良かったと言うべきでしょう」
「魅了無効を持ってないのが悪い」
ゲッコーは軽く引いているが、店長としてはここで変に問答して村を襲撃する大義名分を与えるわけにはいかない。
オズとしても、『まあ、そうなるだろうな』と思っていたので、特に文句は無い。夜魔の宝玉は、小悪魔のサルデス少年が使ってもボスモンスターを操れるのだ。神子の店長が持てば、こうなるのは予想出来る。
そのまま、開かれた門をくぐる。あまり大きな門ではなかったので、オズは文字通り頭を低くしてくぐり抜ける事になったが。
デビルマウンテンは、その名とは裏腹に絵に描いたような『貧しい寒村』といった風情だった。道を歩いていた悪魔族は、驚いたようにオズとゲッコーを見た後、店長を見て逃げるように立ち去っていく。
村の大通りを歩いて行くと、いくらも行かない内に一人の老爺が立ち塞がった。髪は白くなり腰も曲がっているが、角と羽がやたらと立派なのがアンバランスな印象を受ける。
「久しいな、ホープ殿。またぞろ、若い娘を拐かしに来たのかね?」
「あら、ご挨拶。あれは、あくまで本人の希望を聞いた上でのスカウトですわ。それに、あの子達の仕送りで、村も大分潤ったのでなくて?」
「それを言われると、耳が痛いわい」
老人は口調こそ穏やかだが、オズ達を前に一歩も引く気は無いようだった。
村の人間達も、老人の後ろで遠巻きに様子をうかがっている。怯えた様子ながらそれ以上逃げようとしない辺り、老人は慕われているのだろう。察するに、彼が村長だろうか。
「今日来たのは、また別件ですわ。ギヴァが、こちらのトカゲさん達に喧嘩を売ったの。
大きい方の黒いトカゲさんは、喧嘩が大好きで村に攻め入る気満々だったのだけど、流石にそれは見過ごせないので、私が仲裁に入った次第よ」
「初めまして、オズ悪人と言います! ご老人、いっちょトカゲ退治とかどうっすか!?」
「こりゃまた、えらい剛毅な御仁だのー。儂はこの歳じゃし、そういうカロリー高いのはちょっと」
4m越えのオズに対しても、老人は特に怯えた様子はない。多分、笑えるくらいにレベル差があるのだろうな、と当たりを付けた。
店長が言葉を続ける。
「彼等は異邦人だから、死んでも蘇るし、撃退しても飽きるまで襲ってきますわ。ついでに言うと、昨夜ウチの店を出たときはレベル1だったのだけど、今はもうレベル34になってる程度にはやり手でしてよ」
「流石に、そんなのと喧嘩するのはしんどいのー。まずは話を聞きたいので、ウチまで来て貰えんかね」
「行くのは構わんけど、お宅の玄関は村の門よりは大きいって思って良いのかね?」
オズが頭の角を指差しながら尋ねる。
交渉決裂は大歓迎だが、その理由が『オズが村長宅の天井を突き破ったから』と言うのは少々ばつが悪い。
老人もオズの言葉の意味を理解したらしく、嘆息した。
「そんな立派な屋敷は、この村には無いのー。仕方ない、誰か、ゲーティスとギヴァ殿をここに呼んできてくれ」
老人が声を掛けると、何人かの村人が走り出す。
店長が、疑問を口にした。
「ギヴァは分かるけど、ゲーティス?」
「ウチの娘が、アイツと結婚してのー。次期村長じゃし、後学のためにも立ち会わせたい。
そちらの方々も、それで良いかね?」
「別に隠したい事も無し、何人増えてもこっちは構わんよ。出来れば、トカゲを見るだけで剣を抜くような好戦的な人物だとありがたいね」
「そんな血の気の多いのに、村の未来を託したくはないのー」
村長の問いに、オズが答える。ゲッコーも、特に異論は挟まなかった。
二人が来るまでに、簡単にこれまでの事情を説明する。主に店長が話し、所々オズが補足する形だ。
「デシレか…… 村に居た頃もお転婆な子ではあったが、眷属を作るとは思わんかったのー」
「実を言えば、私もですわ。お互い、見る目が無かったわね」
村長の一番の驚愕ポイントは、宝玉が盗まれた事でも悪魔が誕生した事でもなく、『あのデシレが』という部分だったらしい。
眷属化をメニューに入れたのは店長で、注文したのはオズなので、デシレが進んで眷属を作ったわけではないのだが。その点に関しては、誰も口にしなかった。
説明が終わる頃に、丁度二人がやって来る。ギヴァは先程ボスエリアに居た老婆で、ゲーティスの方は割とガッシリした体格の中年男性だ。
村長が口を開く。
「ギヴァ殿、こちらの方々に話は聞いた。夜魔の宝玉の事、デシレのクラスチェンジの事、儂の耳には届いておらなんだ。
この事について、何か申し開きはあるかね?」
「ホープ! 貴方、村に竜隷共を入れるなんて、恥を――」
「ギヴァ殿」
村長の声は大きくも強くも無かったが、それでもギヴァは弾かれた様に村長を見た。その表情には、怯えが混じっている。
神子のギヴァをもってして、村長は畏怖の対象であるらしい。どうも、その辺の力関係はオズ達にはよく分からなかったが。
「儂は、『何か申し開きはあるか』と聞いたのだが?」
「報告を私の所で止めるようにしたのは事実です。ですが、夜魔の宝玉はもう間もなく奪還出来ますし、悪魔の誕生についてはそもそも認められるはずも――」
「分かった、もう良い」
尚もギヴァが言い募ろうとするのを、村長が押しとどめる。ギヴァは、大人しく黙った。
次に村長は、ゲーティスの方へ向き直る。
「ゲーティス。サルデスが夜魔の宝玉を盗み出して出奔したそうだが、知っていたかの?」
「ええっ!? 僕達、昨日まで必死であの子を探して山狩りしてたんですけど!?」
「その、ギヴァ殿と組んで、儂に報告が届かんようにしたとかは?」
「お義父さん、ご存知でしょうが、ウチで一番強いのはお義母さんで、次が嫁さんです。
僕は村と家族のために命を賭けられますが、ギヴァ殿のためには命は賭けられません」
「じゃよねー。知ってた」
ゲーティスが少々情けない事をキッパリと言い切る。中々のカカア天下の様だ。
「その情報が入ったという事は、今どこに居るかも分かってるんですか?」
「スータットのホープ殿の店で、保護されとるらしい」
「はー。まあ、生きてるなら良かったですよ」
ゲーティスは安心したように嘆息し、胸をなで下ろした。
村側での事実確認が終わった村長はこちらに向き直り、おもむろに頭を下げる。
「そちらの言い分通り、こちらの監督不行き届きで多大な迷惑を掛けたらしい。まずは、その事について謝罪を。
大変申し訳ない」
「申し訳ありませんでした!」
村長に続き、ゲーティスも頭を下げる。
ギヴァは頭を下げなかったが、それでも文句を言わず黙っていた。どうにも交渉決裂の目は無さそうだという事で、オズは密かに落胆する。
「で、和解出来るというのであれば、こちらとしても出来る限りの事はしたい」
「ではまず、こちらの要求をお伝えしても?」
「その前に、一点だけ確認せねばならん事がある」
交渉を進めようとする店長を遮って、村長はオズ達の方に向き直った。
「仮に我々がそちら側の要求を十全呑んだとして、そちらのお二方が矛を収めるという保証はあるのかの?
特に、オズ悪人殿はこちらとの喧嘩がお望みの様だが」
村長の心配はもっともではあるが、同時に『お前が言うな』案件でもある。
オズとゲッコーは顔を見合わせたが、何度かの目配せの後で、オズの方が口を開いた。
「それはお互い様では? そもそも、そこのババアが俺らを襲ってきたのが事の発端な訳で。
聞く限り、ババアは村長に黙って勝手に動いてたって話だし、今後もそうならないってのは誰が保証するんだって話だろ。その辺どうなんだ、ババア?」
オズが軽く煽れば、ギヴァはこちらに聞こえそうな強さで歯軋りしていたが、激昂して襲いかかってくるような事は無かった。
最後の望みも潰えたので、オズは真面目に答える事にする。お互いの不信ばかり言い合っていても、交渉は進まない。
「村長さんにはさっき言ったが、俺はデシレの眷属だ。喧嘩はしたいが、デシレに嫌われるのと店を出禁になるのは困る。
仮に和解が成ったなら、デシレの機嫌を損ねたり店長さんの面子を潰したりするような真似はしないと誓うよ」
「ウチの屋台も、小悪魔の子達は常連客だからな。売り上げ落としたくないし、客に嫌われるような事はしない」
「お二方とウチの店員達の関係については、私が保証しましょう」
オズとゲッコーがそれぞれの事情で矛を収める事を誓えば、店長がそれを補足した。
村長はそれを聞いて何事かを考えているようだったが、自分の中で結論が出たのか、何も言わずに交渉を進めようとする。
「ふむ。では、そちらの要求を聞こうか」
「こちらの要求は3つ。
1つ、この件に関する全員の罪を問わないと約束する事。
2つ、オズ悪人とゲッコー、お二方に対して村はこれからも門戸を開く事。
3つ、子供達のクラスチェンジを、大人の勝手な采配で止めない事。仮に、『悪魔に成りたい』と望む小悪魔とその眷属が現れたなら、彼等に対しても村は門戸を開く事。
これらを受け入れて戴けるなら、こちらは矛を収め、ついでに夜魔の宝玉もお返ししますわ」
店長の要求はオズから見てもかなり吹っ掛けていると思われたのだが、村長とゲーティスは即座に突っぱねたりせず、何事かを話し合っていた。
やがて結論が出たらしく、村長が口を開く。
「3つ、確認したい事がある」
「村長!?」
「まず1つ目。3つめの条件である、眷属の受け入れについて。
そちらの御仁は異邦人だそうじゃが、仮に眷属が現地人、我らの宿敵たる竜隷だとしても受け入れろ、とそう言う事かの?」
「村長、お考え直し下さい! 時は巻き戻せないとしても、これ以上の悪魔の誕生など――」
「ギヴァ殿、黙って貰おう」
ギヴァの説得を、村長は一方的に打ち切る。今までに無い強い口調に、ギヴァも押し黙った。
店長が、真剣に問いに答える。
「正直、そのような事態があるのか、私自身分かりませんが。それで拓ける未来があるのかも知れないとなれば、そのように」
「これも、時代かのー」
村長が遠い目をする。オズ達には分からない事だが、この世界の竜裔と悪魔族は余程仲が悪いらしい。
流石にアレなので、オズが横から補足する。
「一応言っとくと、眷属化した時点で眷属側は主のスキルに対する抵抗力を失うから、《エナジードレイン》は言うに及ばず、魅了や捕縛も100%成功するようになる。
余程上手く出し抜かない限り、眷属が暴れても小悪魔が取り押さえられるだろ。
小悪魔も一緒になって暴れるなら、そりゃもうそういうテロだから、そん時は両方取り押さえるしか無いが」
「なるほどの。とりあえずは、了解した。
では次に、1つめの条件について。『全員』とは、どこまで指すのかの?」
この質問に関しては予想出来ていたらしく、店長が間髪入れずに答えた。
「文字通り、『全員』です。こちらのお二方は言うに及ばず、デシレ、私やレベルドレインの店員達、それから村側で関わった人間に関しても」
「サルデス君もだ」
「ええ、勿論、彼もですわ」
ドサクサに紛れてオズがねじ込めば、店長も分かっているとばかりに追認する。
正直甘い気もするが、ギヴァのやらかしをこちらが見逃すのだから、それならサルデス少年も許されて良いだろう。彼は彼で覚悟しての行動だろうが、それはそれとして村に戻るという選択肢があるのは悪い事では無い。
「では、最後の確認。オズ悪人殿、お主は、デシレの眷属になった事をどう思っとる?」
「どう、とは?」
「『小悪魔如きに隷従するなんてー』とか、『どうせならもうちょいボインが良かったー』とか、そういうのは無いのかの?」
正直、自分に質問が来るとは思ってなかったので、オズは間抜けな問いを返す。
質問内容自体はおちゃらけているが、村長の目は真剣だ。正直、何を問われているかもよく分かってないが、オズも自分なりに真剣に答えた。
「俺は異邦人なんで、こっちの世界の悪魔とトカゲの確執は知ったこっちゃない。俺自身が望んで眷属になったんで、隷属するのがどうとか言うのも別に。
あとはまあ、胸より尻派なんで、アイツのケツは結構気に入ってる」
「ふむ。他には?」
「他にと言われてもなぁ……
まあ、眷属になったら劇的な変化があるのかと思えば案外そうでもなかったり、かと思えばあいつのクラスチェンジで羽生えたり、なのに未だに【飛行】覚えてなかったりと、ままならん事も多いかな。
ただ、俺の人生ままなった事の方が少ないし、そういうもんだと思えば、それなりに楽しんでるよ」
「ふぅむ。よう分かった。ありがとう」
正直何が分かったのかよく分からないが、相手が満足したようなので、オズも余計な事を言うのは控えた。
村長はしばし瞑目していたが、やがて結論が出たのか、重々しく口を開く。
「先程の3つの条件。一つだけ、呑めん物がある」
「そうですよ! 悪魔を生み出し、竜隷を村に入れるなど、許されるはずも――」
村長がギヴァに向かって左手をかざしたのと、ほぼ同時。黒い杭が、彼女の胸のど真ん中に突き立った。
あまりの早業に、オズもほとんど反応出来ていない。
「《デモンズシール》」
村長がスキルを発動させると、杭は黒い縄の如く長く伸び、そのままギヴァの身体に巻き付いたかと思えば、まるで染み込む様に消えていく。
ギヴァは、何の抵抗も出来ないままその場にドサリと倒れ込んだ。
「1つめの条件、この件に関わった『全員』の罪を問わないという部分。
そちら側の罪を問わないのはまあ仕方ないとして、村側の人間の罪を問わないとなれば、村の法治に関わる。故に呑めぬ」
「特に、発端となったギヴァは、と言う事かしら?」
「うむ。宝玉を盗まれた件については、彼女一人の責任というわけではない。が、そこは大して重要でもない。
子供のクラスチェンジという、村の未来に関わる事項を自分一人の判断で差し止めた事。ミスを誤魔化すために、勝手に外の人間に対して争いを仕掛けた事。
この2点に関しては無罪というわけにはいかぬ。よって、ギヴァ殿はアビリティ封印の上、神子の役職を解任するものとする」
何人かの村人達が慌ててギヴァに駆け寄る。周囲の反応を見るに死んだわけでは無さそうだが、それでも助け起こされている間も彼女はピクリとも動かなかった。
村長は、そちらには見向きもせず言葉を続ける。
「次に、サルデス。流石に、村の宝玉を盗み出したとあっては、『子供の悪戯』で済ます訳にもいかん。スータットまでとっ捕まえに行く訳にもいかんし、このまま村外追放とする。
そちらでそのまま預かるならそれで良し、追い出すとしても『村に戻れると思うな』と言っといてくれ」
「それは……」
「それはまあ、そっちの裁判に口出すとなると、モロに内政干渉だしな。ババアが罰を受けたのは見たし、サルデス君だけ特別扱いが出来ないのも分かるから、そちらは譲歩しよう」
サルデスの処遇に対しては店長が伺うようにオズを見たが、オズとしても吹っ掛け過ぎだとは思っていたので、仕方が無いと諦める事にする。
これが、ギヴァは無罪放免でサルデス少年だけ罰するというのであれば、文句の付けようもあったが。先にギヴァの裁定が入っているので、ゴネようもない。
「で、最後に儂じゃな。結果として平和的解決が望めそうだとは言え、これだけの事が起こっていながら『知りませんでした』は村の長としても通らん。
ちゅーわけで、儂は役職剥奪の上しばらく謹慎しとるから、後の事は新村長のゲーティスと決めとくれ」
「せめて、委譲するにしてもこの場をまとめてからにして欲しいんですがね……」
「いやいや、儂がこの場をまとめたとして、『新村長になったから旧村長の決めた事なんぞ知らねー』とか言い出す奴居たらアウトじゃろ。
そもそもの話、相手の条件突っぱねてまでギヴァ殿とサルデスの裁定をこの場で行ったのに、儂だけ後回しにしたら何のために法治を優先したのか分からなくなる」
村長の裁定を聞き、ゲーティスが嘆息する。急な政権交代だが驚いた様子が無いのを見るに、既定路線なのだろう。先程話し合っていたのは、このことか。
まあ、責任という話をするのであれば、村の最高責任者は村長ではあるが。あるいは、ゲーティスを呼び寄せた時点でこうなる事を予見していたのかも知れない。
仕方が無いといった様子でゲーティスが前に出て、店長との交渉を開始する。
「1つめの条件については、先に前村長が話したとおり。そちら側の無罪は認めるが、村側は村の法に従い裁定を行う事とさせて戴きます」
「わかりました。まあ、良いでしょう」
「2つめの条件については、この村の長として、そちらのお二人に対して門戸を開く事を約束しましょう」
「ええ、お願いします」
「3つめの条件ですが…… 少々、問題が」
ゲーティスが難しい顔をして、先程までギヴァが倒れていた辺りを見る。既に彼女は運び出され、そこには何も無かったが。
「ギヴァ殿が解任されたため、この村には神子が居ない。よって、そもそもクラスチェンジ自体が執り行えない、と言う事になります」
「後任は?」
「サナがギヴァ殿の跡継ぎとして学んでは居たが、彼女もまだレベルが足りないので……
よって、3つめの条件を受け入れる代わり、ホープ殿には後継者が育つまで神子の代行をお願いしたく」
「私は、村を出た人間ですよ?」
「他に適任も居ませんし…… その代わりと言っては何ですが、我々が子供達のクラスチェンジを不当に差し止めていないかどうか、ホープ殿自身の目で確かめて戴けます。
それと、話を受けて戴けるのであれば村の外に居る人間…… 例えば、事情があって村に帰れない子のクラスチェンジに関しても、ホープ殿の判断で行って戴いて構いません」
「……分かりました。お受けしましょう」
ゲーティスが言外にサルデスの事を臭わせたためか、少し考えた後、この件に関しては店長が折れた。
さて、とりあえずは条件のすり合わせも終わったと見て良いだろうという事で、オズが口を開く。
「んじゃ、和解成立って事で良いのかね。それなら、俺はもう帰るが」
「和解成立に関しては、その通りで。もし良ければ、ささやかながら和睦の席を設けようと思うのだが」
「お気持ちだけ戴いとくわ。この図体じゃ家にお呼ばれって訳にも行かんし、外でこれ見よがしに飲み食いしてたら、サルデス君の家族やババアの部下は面白くないだろ」
「……そうか。この村の門戸は開いておく。何かあれば、私を訪ねてくれ」
和解が成ったからといって、今すぐ仲良しこよしという訳にもいかないだろう。村側の人間が罰を受けたのに対し、オズ達は結果として無罪放免な訳だから、理屈は分かっても感情は別だ。
あちら側は急な政権交代で色々とやる事もあるだろうし、オズはそのまま村の出口へ向かって歩き出した。




