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少年老い易くゲーム成り難し

 約束の5分前にジョージ夫妻の家に着くと、他の面子は全員揃っていた。

 オズを見つけたゾフィーが、こちらを非難してくる。


「オッさん、遅い!」

「いや、まだ5分前だぞ」


 先週もこんな感じだったなと思い返しつつ、弁解を試みる。例によって例のごとく、他の面子は装備の調整もあるために早めに集合していたらしい。全裸のオズには関係の無い話だったので、呼ばれなかったのだ。

 オズとて全裸で居ることに強い拘りがある訳では無いのだが、腰布は防御力があまり高くない反面、足運びの邪魔になることが多いため装備としては「無い方がマシ」レベルである。下半身装備で守れるのは下半身のみのため、重要器官の多い上半身は無防備なままだし、そもそも蝉の催眠やロボットの物量を相手にするのに多少の防御力は意味が無い。

 ゴーレムの核を食う事で【竜鱗】という種族アビリティを覚えたこともあって、防具を装備するよりもアビリティレベルを上げた方が効果がありそうだということもあり、未だにヌーディストを続けている。まあ、装備に金が掛からないと言うのは、ありがたいことではある。

 武器の受け渡しを終えて一段落していたジョージを捕まえて、今朝取得したゴーレム核を渡す。デスペナルティを負った状態でミドルオークと戦っても結果は見えているので、時間つぶしを兼ねてゴーレム狩りを繰り返していたのだ。お陰で、ゴーレム核は5つほど手に入っている。

 代金については、ひとまず後払いにすることで合意している。品の受け渡しだけして去ろうとした所で、逆に呼び止められた。


「そう言えば、ワルト君に渡しておきたい物がある」

「これって、クロスボウですか?」

「ああ、君が持ってきてくれた部品を組み合わせて作ったのだが……」


 話を聞いてみれば、ゾフィー用の装備としてクロスボウを作ったは良いのだが、発条(ばね)の力が強すぎて彼女のSTRではセットする事が出来なくなったらしい。ドロップアイテムであるロボットの部品を流用しているため、「パーツを変えて出力調整」みたいな器用な真似は難しいらしく、設計図から引き直す必要があるそうだ。

 その分、威力のみを見ればこれまでのゾフィーのスリングショットよりは大分強力だし、アビリティの補正も載るため奥の手として見れば悪くないとのこと。ただし、金属パーツを使っているため魔法との相性は悪く、現状だと《アーマーピアース》を撃ち出す時以外はアイテムバッグに仕舞っておく運用になるだろうとのことだったが。

 何故それをゾフィーではなくオズに渡すかと言えば、「娘に渡すとやたらと使いたがるだろうから」との事。父親だけあって、娘の事をよく分かっているようだ。まあ当たり前か。

 試してみたが、レバーを引いてボルトをセットするだけなら、オズでも問題無く行えるようだ。アビリティ補正は効かないので、恐らくそのまま使っても石コロより残念な結果にしかならないだろうが。冷静に考えれば、セットしたクロスボウをゾフィーに渡すだけと言うのはかなり情けない役目に思えるが、まあ今でも乗騎として尻に敷かれている訳で、今更と言えば今更だ。

 ゾフィーの《アーマーピアース》は役に立つ場面も多いので、それに特化した武器というのは有用な場面もあろう。ボルトも鉄製で、威力を重視したのか先端が瘤のように大きくなっている。敵を貫通するスキルの特性上、ボルト自体には貫通力が不要と判断されたのだろう。

 金属製のボルトは、10本用意されていた。雑魚戦に使うには心許ない数だが、ボスを相手にするなら貫通高火力の攻撃手段が有るというのはありがたい。どの程度威力があるのかについては、実際に試射して確かめる必要があるだろうが、パワーアップには違いあるまい。

 礼を言って、クロスボウを受け取る。ゾフィーの装備でオズが礼を言うのもおかしな話だが。

 そのまま、装備の整った面々と供に出発した。



「で、何で俺がリーダーになっとるんだ?」

「遅れてきたのが悪い」

「いや、リーダーってそういう役職じゃないからな?」


 何故か知らないが、今日もパーティリーダーはオズだった。てっきり、ラインハルト達のパーティメンバーの誰かがやるのだと思っていたのだが。

 ゾフィーが頭をペチペチ叩きながら正当性を主張してくるが、今日に限って言えば、オズがリーダーをやるのはあまり良いことではない。指揮官役を鍛えるためにも、一通りの事はやらせておきたかった。

 フォローするかのように、スーホが口を開く。


「まあ、今日一日で何もかもやらせるってのも無理があるし、とりあえずは一番重要な指示出しに集中した方が良いだろ」

「なら、お前がリーダーやれば良いんじゃ?」

「嫌だ、面倒くさい」


 即答だった。

 実を言えば、このメンバーだと戦利品は一括でジョージ達に渡して金を頭割りするだけなので、利益のすりあわせなど殆ど起きないのだが。それでも、何かあった際の方針決め等があるので、出来ればリーダーなんぞやりたくないと言うのがオズ達の共通する本音だ。

 まあ、決まってしまった物は仕方が無い。デスペナの所為でしばらく戦闘にも参加出来ないので、その不均衡を思えば、リーダーを押し付けられるのもやむなしであろう。

 建設的な方へ話を進めるべく、口を開く。


「で、結局の所、ハル達のパーティでは誰が指揮官やってるんだ? まあ、多分キリカマーだろうが」

「……何で、そう思った?」

「それ以外、適任が居ないだろ」


 キリカマーへの回答に、説明を加えていく。

 カブータスとゾフィーは、それぞれタンクとスカウトという役割上、指示出しをやるのは無理がある。ラインハルトも、飛んでる間はパーティメンバーから離れるので、こちらも同じだ。

 そうすると、指示出しを出来るのは来夢眠兎かキリカマーになるのだが、メイン火力の来夢眠兎とサブ火力のキリカマーのどちらが指示出しに向くかと言えば、どちらかと言えばキリカマーに軍配が上がる。このゲームでは【調息】によるMP回復があるので、魔法使いが他人に指示を飛ばすというのはあまり良い手ではない。

 来夢眠兎は知識を蓄えるのは得意なのだろうがそれを戦術面で活かすという点についてあまり得意では無さそうだと言うのもあり、恐らくはそうなるだろうなと言う予想は前からあった。

 果たしてオズの予想は正解だったようで、キリカマーは諦めたように息を吐いた。


「正解。私が指示出しをやってるんだけど、あまり上手く行ってない」

「言うても、誰も指示出してなかった頃にくらべりゃ大分マシになっとるし、そこまで気にせんでもと思うけどな」


 カブータスが横からフォローを入れる。実際問題、指示出し役はそれなりに難しく、プロでも出来ない人間は多い。多少でも幾分か状況が改善しているのであれば、キリカマーは良くやっていると言って良いだろう。

 話によれば、クワトロガッターは何とか安定するようになったが、昆虫の総攻撃はまだ不安定だそうだ。悪いことに、全員の種族レベルが上がって20になってしまったので、これ以上のレベルアップは見込めず、その状態で雑魚退治が安定しないのは問題だという認識が、オズ達へ相談をする動機となったらしい。

 一応、まだ育ちきって居ないアビリティを鍛えれば多少のステータス改善は見込めるが、後々の事を考えればプレイヤースキルも鍛えておきたいというのがラインハルト達の意見だった。

 MMORPGではそこまで重視されることの少ないプレイヤースキルだが、あって困ることも無い。後になればミドルオークのような敵とも出会うことになるので、早めに鍛え始めるのはむしろ良案ではある。オズとしても、教えるのに否やは無い。

 一旦、今どれだけ動けるかを確認するためにも戦闘をしてみようと言うことになり、森に向かった。



 一時間ほど狩りを続けて、キリカマー達の動きを確認する。オズ達3名は、危なくなりそうならフォローに入るものの、それ以外は基本的に見物である。

 キリカマー達の基本戦法は、水曜にオズが入った時とほぼ変わりがない。カブータスのレベルが上がったことにより、クワトロガッター単体なら一人で抑え込める様になったため、交代要員なしでも何とかなるようになったのが、違いと言えば違いか。

 当人達の申告通り、クワトロガッター単体なら危なげないのだが、昆虫総攻撃になると不安定さが増す。飛び回るカナブンとモスが邪魔をするため、蝉に有効打を与えられるのがゾフィーだけで、そのゾフィーにしても1分毎に使える《アーマーピアース》頼りなので殲滅速度は高くない。

 蝉が生きている間はラインハルトが飛べないので、敵の圧力をカブータスが一身に受けることになる。防御力に優れた種族とは言え、クワトロガッターを含む総攻撃を受け続けるのは流石に厳しく、運が悪ければそのまま落とされそうになるというのが、パーティ崩壊の良くあるパターンのようだった。

 昆虫総攻撃を5回ほど攻略した所で、休憩兼批評に移ることにした。ちなみに、クマゴローのフォローが入ったのが2回である。試行回数が少ないが、レベルキャップに達して4割負けかけると言うのは、状況としてはよろしくない。

 あまりオブラートに包んでも仕方が無いので、オズも少々厳しめに切り出す。


「ふむ。とりあえず、思ったより厳しい状況なのは分かった。雑魚でこれなら、それこそボス攻略はほぼ無理だろうしな」

「オズさん、もう少しソフトに……」

「いや、お願いしたのはこちらだし、変に気を遣われると課題が見えなくなる」


 カブータスが表現をマイルドにするよう頼む言葉を、キリカマーが遮る。オズとて必要以上に厳しくしたい訳では無いが、この状況だとあまり手心を加えても問題が解決しないのも事実だ。ラインハルトにゾフィー、来夢眠兎も状況は把握しているようで、オズの言葉に強く反発した様子はない。

 そのまま、キリカマーにいくつか質問をしていく。


「とりあえず、敗因は分かってるか?」

「蝉の所為でラインハルトが飛べないから、カブータスに攻撃が集中している。言ってしまえば、こちらの得意パターンを封じられている」


 本来はラインハルトも回避盾として、カナブン等の攻撃を引き受けるのがパーティの基本戦法だ。ただ、地上に居る鳥人にはその役目は到底務まらないため、結果として負荷がカブータスに集中している。それは事実だ。


「まあ、間違っちゃいないが、それだと50点だな」

「というと、もう一つ原因がある?」

「もう一つと言うよりは、今の敗因の地続きだが。本題じゃないから正解を言っちまうと、得意パターンを封じられた後の次善策が講じられていないってのが、今回の敗因だな」


 当然と言えば当然だが、敵の特性によってパーティの得意パターンが封じられるというのは、RPGでは珍しいことでは無い。今回のように状態異常を使ってくる敵というのは珍しくないし、その他にもラインハルトを飛ばさないだけなら方法はいくつもある。

 その状況で上手くパーティが機能するようなプランBを用意出来ていないのが、今キリカマー達が直面している問題だった。

 これには、いくつか要因がある。一つは、彼女たちのパーティが5人である事。最近の流行では、MMORPGのパーティは5~7名で組むのが一般的で、5人というのもそこまで少ない訳ではない。ただ、人数的に『予備人員』と言うのが用意しにくいのは事実で、今回もラインハルト以外のサブ盾が居ないため、カブータスに負荷が集中している。

 もう一つは、このパーティが組み始めて1週間経っていない事だ。当たり前だが、各メンバーの取得アビリティはこのパーティで稼働する前に取得したものが大半なので、構成もその為に最適化されている訳では無い。プランBを用意しようにも、必要なアビリティを揃えるのも難しいというのが実情だろう。

 キリカマーが、落ち込んだ様子で口を開いた。


「それだと、現状では解決策は無いのでは?」

「いや、それは流石に諦め早すぎだ。プランBが用意出来ないにしても、現状の改善案は出せるだろ。

まあ、こればっかりは現物見せないと納得できんだろうから、手本を見せるか」


 とりあえず、作戦をメンバーに伝えていく。と言っても、そこまで劇的な物では無く、単に今遊撃に回っているゾフィーと地上戦をしているラインハルトをカブータスのフォローに専念させて、その上でパーティ全員でクワトロガッターを最優先撃破するというだけだ。

 カブータスに入るダメージの大半はクワトロガッターからの攻撃なので、それさえ無くしてしまえば状況は安定する。パーティの得意パターンを封じているのは眠眠ゼミだが、そちらを撃破せずとも状況を打開する手は有るのだ。


「ハルはカブータスの回復優先、ゾフィーはヘイトが溜まりすぎない程度にクワトロガッターの攻撃優先。来夢眠兎は、土魔法でクワトロガッターを攻め続ける。

キリカマーは全体的な状況を見て、必要そうだったら来夢眠兎やゾフィーに回復や攻撃中止の指示出しとけ」

「クワトロガッターの弱点属性は、火ですけど……」

「森への延焼を考えると、軽々しく火は使えんだろ。クワガタ虫の構造上、腹の部分は弱いから《ストーングレイブ》使って腹を攻撃しとけ。上手くやれば、ひっくり返せるかも知れん」


 来夢眠兎が予想通りのツッコミを入れてきたので、予想通りの答えを返しておく。

 《ストーングレイブ》は地面から1m程の石槍を生やす【土魔法】のスキルだ。威力はそこそこあるのだが、地面からの真上に攻撃するという特性上、敵に当てにくいのが難点だ。ただ、クワトロガッターは横長だし、カブータスも一撃なら突進を受けることは出来るので、その瞬間を狙えばそこまで難しい事も無かろう。

 オズ自身は検証したことが無いので、それでクワトロガッターをひっくり返せるかは知らない。ただ、トロッコであれば上手くやればひっくり返せるので、もしかしたらと言う程度だ。

 黙って聞いていたスーホにも、意見を求める。


「ひとまず、俺の考えつくのはこんな所だが、何か他にあるか?」

「いや。俺も、似たような事は考えていたしな。一点加えるなら、出来ればカブータス君辺りがクワガタをひっくり返すような手段を用意出来れば、もう少し有利になるかな程度か」


 クワトロガッターの無力化に関しては最優先課題ではあるが、そこまで教えてしまうと当人の考える力を奪ってしまいかねない。

 ひとまずは、オズの作戦だけ試してみようと言うことで、休憩を終えて再び敵を探し始めたのだった。

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