反省だけならトカゲでも出来る
感想欄で人数ガバをご指摘いただきましたので、修正しました。
ご指摘いただいた方、ありがとうございます。
来夢夫妻とゲッコーが次の街のポータルに登録して戻ってくるまで暇なので、死に戻ったメンバーは雨避けと休憩を兼ねて手近な喫茶店に入っている。店のテーブルはゲーム的都合を優先して無限に拡張可能なため、大勢で駄弁るには丁度良いのだ。
これまでそういった事態にならなかったので気にしていなかったのだが、このゲームではボス戦で死んだ場合でも、パーティメンバーが戦闘に勝利すれば経験値が入るらしい。オズのレベルは17に上がっていた。ちっとも嬉しくないが。
パワーレベリングでAPの貯まったカブータスとジョージ夫妻にアビリティについて相談されたので、自分なりの見解を話しながらオズもアビリティの取得画面を眺めている。レベル12から5レベル分、つまりは10AP貯まっているのだが、正直欲しいアビリティが多すぎる。
範囲魔法の取得を考えるなら、もう2~3程度の属性魔法は欲しい所だ。また、今回の反省を踏まえれば【鑑定】も欲しい。今更だが、このゲームでは敵を【鑑定】しないとHP残量すら見えない。それが原因で今回事故っているので、優先順位は高めだろう。
他にも、ソロ活動用の【気配察知】や後回しにしていた格闘系の補助アビリティ、ゲッコーにお勧めされた【料理】など、候補は色々あるのだが当然ながら全部取得できるようなAPは持っていない。器用貧乏なだけにどれを取得しても一長一短で、悩ましいところだ。
横から来夢眠兎とゾフィーがアドバイスを入れてくる。
「【魔法拡張】と【多重起動】はそれ自体の取得に必要なAPもお高いので、今から慌てて目指すのはあまりお勧め出来ませんね。
【運搬】【調息】【鑑定】【歩行】【耐久走】が鉄板アビリティと言われているので、取ってないアビリティがあるならそちらから揃えるのが無難かと」
「【気配察知】はアタシのがあるから、オッさんは取っちゃ駄目」
「そんな意地悪言うない」
ゾフィーのそれは、アドバイスと言って良いのか微妙な所だが。
パーティ内での役割分担を考えるなら、察知系のアビリティ持ちが多すぎてもあまり意味がないのは事実だ。ただ、死角へ魔法や尻尾で攻撃する事を考えると、レーダーがあるに越したことはない。レーダーが無いゲームも多いので、プレイヤースキルで補えないこともないのだが。
【歩行】と【耐久走】はレベルの上げやすさもさることながら、素早さとスタミナが伸びるので種族関係無しに取得して損は無いそうだ。素早さは勿論のこと、魔法攻撃を多用するならその分【調息】が途切れる事も多くなる訳でスタミナも伸ばしておきたいステータスではある。
色々と考えた末、結局は【鑑定】【歩行】【耐久走】と【料理】を取得することにした。このゲーム、肉を塩漬けにするにも【料理】アビリティが必要になるので、今後も肉を家に置いておくなら必須だろう。それぞれ2APだったので合計8AP消費し、残りの2APは取っておくことにする。
そんな事をしているうちに、来夢夫妻とゲッコーが戻ってきた。
「やあ、お待たせ。美味しいとこ取りしたみたいで悪いね」
「ま、「手ぇ抜いて負けろ」とも言えんしな。俺らが死んだのは主に俺の所為だし、そっちが気にするこっちゃない」
「そう言って貰えると、こっちも気が楽だよ。ついでに、さっきの戦闘の感想戦とかしたいんだけど、良いかな?」
「それは構わんが、その前に一旦解散しよう。ジョージさん達は初の死に戻りで気疲れしてるだろうし、ゲッコーも自分の店があるだろうからな。
感想戦は、有志だけの参加って形にさせてくれ」
「っと、そうだったね。失礼失礼。無理強い出来る物でもないし、全然構わないよ」
と言う訳で、パーティを解散する。先程の戦闘を来夢夫妻が撮影していたとの事なので、そちらを全員に配った後で皆それぞれの用事の為に喫茶店を後にした。ちなみに、ボスのドロップアイテムは大量のクズ鉄鉱石だったため、その場で捨ててきたそうだ。さもありなん。
残ったのは、来夢一家とオズ、それにプロ二人とキリカマーの計7人だった。
来夢夫妻の撮った動画を見ながら、それぞれ思った事を言っていく。最初の方の作戦については来夢夫妻には伝わっていなかったので、発案者のオズが代表して説明した。右腕の自切についてはかなり驚いていたが。
オズが死んだ後の事は大体カブータスから聞いていたとおりだったが、動画を見て気付いたこともいくつかあった。最初に気付いたスーホが指摘する。
「これ、よく見ないと分かりにくいが、ゴーレムの動きが段々速くなってるな」
「そうなんだよ。その所為で、最後はジョージさん達すら追いつかれるようになっちゃってね。正直、ボクらもゲッコーさんが居ないと危なかったろうね」
「最終的に、全力疾走してるゲッコーさんを《リジェネレート》と《リーフヒール》をありったけつぎ込んででスタミナ回復してましたからねぇ」
石竜巻状態のゴーレムは最初の内こそ牛歩の歩みだったが、ダメージを受けるにつれて段々と動きが速くなっていた。そもそもが半径20m近い竜巻なので、それがそれなりのスピードで移動するとなると逃げるのも至難の業で、最終的にはゲッコーだけが何とか逃げ切れる状態だったらしい。
発狂モードのボスが更にダメージで加速すると言うのは中々に鬼畜仕様であり、相対した人間は気が気でなかっただろう。
クマゴローとオズが嘆息する様に言う。
「こうしてみると、腹マイト案もどうやら不正解っぽいね」
「だな。爆弾突っ込んでから発狂時の爆発を避けるのは相当速く動かんと無理だし、石竜巻から逃げるのも無理そうだしな」
ゴーレムに核があるという仮説は正しかったが、その後の対応に関してはどうやら外れだったらしい。ほぼ情報が無い状態から仮説に仮説を重ねて立てた作戦なので、仕方の無い部分もあるが。
そうこう言っている内に、動画が終了した。最後は只ひたすらに石竜巻間近で魔法を撃っているだけで、迫力満点ではあるのだが戦術的に見るべき物はあまりなかった。
来夢月が改めて質問してくる。
「と言うと、正解ルートは何だと思う?」
「恐らく、核の周りの石を引っ剥がす手段が有るんだと思う。で、それ使って核を丸裸にすれば、その後の爆発も竜巻も無効化出来るって算段だろ」
「だろうね。怪しいのは、【採掘】とかの採取系アビリティかな」
「攻略組はともかく、モーションサポートに頼ってる一般プレイヤーがゴーレムの攻撃避けつつツルハシ突き立てるってのも中々厳しいと思うが」
オズが自分の意見を述べれば、クマゴローとスーホも追随してきた。
防壁を引き剥がして露出した核を攻撃するというのもアクションゲーム等ではよくある攻略法なので、これは思いつかなかったオズの落ち度ではある。仮に思いついたとしても、実行は不可能だったので実質無意味ではあったが。
「ただまあ、それはそれで攻略組が試してないってのも不思議だが」
「多分、試したくても試せなかったんじゃないかな。ツルハシ自体はスータットでも手に入るけど、耐久値のある消費アイテム扱いの上に結構壊れやすいからね」
「ウチでも一度やってみましたが、ボスにダメージが入らない上に手に入るのもクズ鉱石なので、早々に諦めた記憶があります」
オズの疑問には来夢夫妻が答えてくれた。
改めて動画を見返してみると分かるのだが、スーホのランスやオズの最初の貫手ではゴーレムにダメージが入っていない。どうやら、あの石人形は核を守るための鎧兼武器でしか無く、ダメージ自体は核への攻撃でのみ発生しているようだ。ゾフィーの《アーマーピアース》が刺さっていたのもそれが原因だろう。
この物資不足の状況で消耗アイテムをぶっ壊れるまで使って検証しろというのも酷な話で、それはそれで運営の悪意が見え隠れしている様だった。
総括すれば、不正解ルートを進んだものの人海戦術とゲッコーの【乗騎】でなんとか帳尻を合わせた形で、つまりは運が良かったとしか言いようがない。分かってはいたことだが、なんとも締まらない勝利である。
大体意見が出尽くした所で、来夢月が場を閉めるため手を叩いて合図する。ウサギの掌には毛が生えているので、ぺふっという気の抜けた音しかしなかったが。
「さて、と。どうにも、ボクらだけ取り分が多くなっちゃった形だけど」
「ま、良いんじゃないか? ジョージさん達も煙管はロストしなかったって事なんで、大体の面子はそれなりの配分を受け取ってるしな」
「最終的に勝てたのはそっちの機転のお陰だし、それ位の役得はあって良いと思うぞ」
来夢月の心配には、オズとスーホが答える。ぶっちゃけ、オズとしてはそこまで不均衡が出たとも思っていないので、そこについて文句は無い。
「あと、これは後で参加者全員に確認するつもりだけど、今回の動画って有料で配布して良い? 勿論、利益は分配するけど」
「上げるのは構わんが、税金が面倒なんで俺の分の配当は要らん」
「俺達三人もオズと同じだな」
「プロは特に、色々面倒が多いからね」
日本では浸透していないが、eスポーツが世界中に広まっているだけあってゲーム動画を有料で配布する手段というのはかなり多い。たしか、このゲームでも公式ページに有料動画を上げる仕組みがあったはずだ。大抵の場合は、精々安いランチメニュー程度の値段までしか付けられないようになっているので、そこまで荒稼ぎというのも出来ないのだが。
オズは本業の他にいくつかのゲーム大会で賞金を得ているので、税金計算を自分でやっている。海外の小さな大会はネットオンリーで参加できるのでその点はとても良いのだが、賞金は円建てではないので計算が非常に面倒くさい。これ以上手間を増やすくらいなら、配当をスッパリ諦めた方が気が楽で良い。
ふと、思い出したようにキリカマーが言った。
「そう言えば、昼間のオズのPKも動画あるけど」
「無料配布しとけば、虫除け程度の効果は期待できるんじゃない? あと、今日の参加者にも配っとくか」
「配るなら、ハルとゾフィーは宛先から抜いといてくれ。一応はPK動画なんで、見せるかどうかの判断をジョージさん達に委ねたい」
「りょーかい」
ゲーム内での表現に関しては何段階かフィルターがあり、当然と言えば当然だが未成年だと全てのフィルターを外すことは出来ないので、そんな衝撃的な映像にはなっていない筈だ。どちらかと言えば、親側に『配慮した』という気遣いを見せるのが重要である。
実を言えばカブータスも未成年なのだが、彼の場合はオズとゲームで対戦して『殺し合い』になったことも何度もあるため、今更PK程度で動揺することもあるまい。それよりは、プライバシー保護を優先した。
ちなみにこのフィルター、有効にすると血と内臓の表現が非常にファンシーになるため【狩猟】で得たモンスターの解体が逆にやりにくい。オズも一度だけ試しに有効にしてみた事があるが、二度とやるまいと心に誓った。
そんなこんなで話し合いは終わり、「せめてものお礼」と言うことで来夢月に飲み物代をゴチになって喫茶店を後にしたのだった。




