181日目(2)
181日目(2)
「私は別にね、話の出来る変異体――死者まで、狩り取られるべきだとは考えていないんですよ」
白髪混じりの髪をオールバックにした海老名は、高地に鷹揚な笑みを見せる。
「ただね、けじめは必要じゃないですか。何だってそうでしょう」
急に海老名は笑みを消し、高地の顔を覗き込む。
その間、高地は無表情だった。
「権利、保証、安全、快適さ。何でもかんでも、色んなものに与えていればねえ、まっとうな国民のリソースがなくなってしまう」
ぼそぼそと、高地の背後で何か聞こえる。
川下と史塚が小声で何か話していたらしい。
高槻は腕を組んで目を閉じ、曖昧な表情で会話に耳を傾けている。
「たとえデマでもいい。でっち上げられた妄想でも良い。まずアナウンスが必要だったんです」
海老名は高地に笑いかけたまま、ますます調子の乗って来た舌で言葉を続ける。
「『彼らは不当に私達のものを奪おうとする』『彼らの理性は無いか、あっても極度に低く、平気で犯罪を行ない私達に危害を加える』こういう事をね、様々な形で印象付け、国民に周知させて行くべきだった」
また背後から小声で呟く声。
「ふざけるな、そんなのが必要だと思ってるのは国神会派だけだ」
「アーマゲドンクラブはよくやってくれたけど、もうそろそろ、次の段階への発展が必要なんですよね」
「俺にそれを理解しろっつうの?」
ようやく高地が口を開いた。
呆れた様な声と共に彼は首を縮め、海老名を一瞥する。
「いや、あんたらがそういう考えだってのは、昔から知ってましたけど。まさか、同意を求められるとは思わなかったぜ」
「分からんかね。これは君達の様な、理性ある死者の為でもあるんだ」
海老名の声に力が籠る。
愚か者を導いてやろうという、思いあがった感情を隠さない声。
「はいはい、それも俺知ってる。話の分かるユダヤ人。話の分かる知識階級。話の分かるシーア派。あいつらは結局どうなった?」
「はい、話が進まない様ですので、私から」
少し苛立った様な声で、高槻が割って入った。
海老名も高地も、既に険悪な空気を露わにし、睨み合っている。
「我々、部局の向伏支局としては、海老名先生に今度のアーマゲドンクラブの大掛かりな行動を、止めるとまでは行かなくとも、少し自重を呼び掛けて頂ければと」
海老名はふんと鼻を鳴らしながら、営業スマイルを浮かべた高槻を凝視していたが、ふいに尋ねて来た。
「この地域では、変異対象者のリスト化が、一向に進んでないじゃありませんか」
「え? まあ……その」
「信頼関係が構築されていないんじゃありませんかね? プライバシー保護について十分な説明はされてます?」
「はあ、説得を重ねて……周辺地域から僅かにでもと、試行しておりまして」
気まずげに言葉を選びながら返答する高槻へ、溜息混じりで海老名は言う。
「どうにもむず痒いですね。だから、彼らの中から話の出来る者を呼んで交渉の場を設けましょうと、私は言ったのですが」
「いやあ、すいませんねえ。俺、戸籍上『まだ生きてる』事になってるもんで」
少し馬鹿にした様な感じで、高地が横から声をかける。
「分かってます。そんな事は、リストにおいて一項目でしかありません」
海老名が高地へ顔を向け、馬鹿にし返す様に答えた。
「いちいち病院で死亡を確認した後、指定変異による活動を確認された者――だけのリストなんて、一体何の役に立つんですか?」
「俺としちゃ、そんな手続き無視の不適切なリストを、お上が何の役に立てるのか聞きてえんだけど」
今度は高地の問いを無視し、再び高槻に声をかける。
「日出君達にはね、まあすぐとは言わないが、ほどほどで引き上げる様に話しておこうと思うんですよ」
「ありがとうございます、是非ともこれからは、先生のこういったお力添えが大きな助けになるかと――」
「そうでしょうとも。これからはああいう放し飼いの灰色の暴力に国が支えられるべきではない。部局だって、施設も人員も半年前の三倍になったんですから」
「ほう、デカくなったなとは思ってたけど、三倍っすか。そりゃすげえ」
高地が口を挟んだ。
海老名は彼を無視したままだが、高槻が苦笑しながら振り返る。
「県内でもね、向伏、織子山、佐久川、苗海、合葉の五か所に支局事務所が新設された。隣県でも年内には宇柄津、酔座とかに出来る予定だ」
「それほど増員しているんなら、別に偉い先生に頭下げなくても、自分達だけでどうにか出来るんじゃないですかね」
高地も本心でそう思ってる訳ではないが、質問を振って見る。
対策部が今後どれだけ増えて、どう動かせるのかも、この『偉い先生方』の意向次第。
そんな状況はこれからも続くのだろう。
「いずれにしても、彼らは向伏入りしたと同時に、我々が全力でマークする。だが、それでも撤収させたり検挙させたりするに十分ではないんだ」
「人間をどうにかするには、まず警察呼ばなくちゃっすからね、対策部さんでも」
「そういう事だ。海老名先生にご協力いただければ、やはりこちらとしては非常に助かる」
「それは、フロートにとってもだろう? そうじゃないのか?」
先程にも増して横柄な態度で、海老名が高地へ問いを投げる。
「へっ」
高地は鼻で笑ってから、薄笑いを浮かべて答える。
「俺達は、目の前の厄介払いに役立ってくれるなら、何だって歓迎しますよ……それが次の厄介事になるまではな」
「それだけじゃない」
海老名は高地の反応を見て、少し語気を和らげながら言葉を続けた。
「我々は、社会から孤立して点在している変異体の集団にも、十分な知性を有し社会貢献度の高い集団には、法的支援があるべきだと考えている」
高地は、表情を消して海老名をじっと見ている。
海老名は一旦言葉を切り、少しトーンを下げた声で続きを言った。
「そして、その中でも特に新しいレジームに協力的であるなら、別途に格別の援助を――」
「……日出を飼ってた位の額は出んのか」
高地は海老名の話を遮る。
さっきまでよりも一際低めの声で。
海老名はふんと鼻を鳴らし、慇懃に聞き返す。
「まず、リストを完成させろ。そして、定期的に検体を供出出来るかね?」
「どんだけだよ」
「月ごとに数体、1~2週間拘束の検査だ。何、危険な実験などではない」
「それを信じろって?」
高地は更に低い声で聞くが、海老名はまた話題を変えた。
「第二種変異体のおよそ50%が半年以内に、70%近くが一年以内に第一種変異を発現し、崩壊に至っている」
高地も、勿論高槻も、フロートに関する基礎知識として知っている事だった。
次の言葉を待つ二人と対称的に、川下と史塚は顔を見合わせている。
「しかし、一年を越え、二年以上に渡って維持し続けている個体もいて、それがどういう原理で成立するのか、一向に解明されていない」
「へえー……何かあれですね。まるで、死体が動く仕組みの方は、もう解明済みですみたいな」
海老名の言葉に、高地は含みを持たせた声で聞き返す。
言いながら彼は、海老名ではなく高槻を見た。
「も、勿論、そんな事はない。死者の変異による蘇生の原理も現時点では――」
高槻は幾分引き攣った顔で、首を横に振る。
苦笑しながら雑に返事して、高地は海老名に視線を移す。
「はいはい。それで……まあ、何とか年を越した奴ら、二年目、三年目を迎えるなんて奴もうちにはいますがね……そいつらをよこせと?」
「研究スタッフの諸君は、大喜びだよ! なあ? そうだろう?」
対策部の人間でもない海老名がやけに自信満々に答えたが、すぐに高槻に同意を求めた。
『え、ええ』と、直接に面識がある訳ではない研究機関職員について、高槻は焦りながら答えている。
「松根教会の光の子、うちにいるんだけど、ちょうど三年目ですよね。ああいうのがほしいんでしょう?」
高地がそう言った時、海老名と高槻、両方の顔が凍りついた。
「あいつにも聞いてみましょうか? 何て答えるかわかんねえけどな」
「や、やっぱり……彼女は向伏に……目視情報が全くなかったのに」
「あ……ああ、あの九十九里ラボは……直接的な部局、行政関与のない……公式には製薬企業の」
顔を伏せてぶつぶつと何かを呟き始めた海老名に、小さく頷いて高地は言った。
「覚えておきな。あんたらの人権意識や人道性は、いつまでも法に問われねえんだろうけど、その代わり俺達に問われるんだ。俺達がどういう態度に出るか、実際の所あんたら次第って事だよ」
「ところで、柴崎の野郎は? こういう話なら、うちの丸岡も呼ぼうか?」
高地はふと、高槻に尋ねてみる。
丸岡の名前を聞いて、高槻はかなり嫌な顔をした。
何度かあった事があるらしいが、あまりいい対話じゃなかったらしい。
大体どんな感じだったのかは、高地にも想像出来た。
高槻によれば、柴崎はここしばらく、どこにいるかすら分からないらしい。
「二回電話したら一回位繋がるんだけどね」
「柴崎君と言うのは、あの森県議の?」
海老名が横から、とぼけた顔で尋ねて来たので、高地は軽く睨みながら聞き返す。
「あんた知ってるんじゃねえのかよ」
「ん……どうだったかな。まあ、この場にああいう極左がいないから、話も捗ります」
「森さんは、左派とすら言えないと思うけどね。良くも悪くも、絵に描いた様な無党派リベラルの人でしょ」
そう水を差したのは、同じ主権自由党の川下だった。
「だって共社党が! 彼女の選挙協力に共社党だよ! 共社党! 共社党の地区委員長と仲良いじゃない! あいつらと関係あるなら極左の過激派でしょ! ほらあ、彼女の正体は明らかなんですよ! きょ、共社党っ!」
「近年、どこも野党はそんなもんでしょ。そうしないと存在すら見えなくなってしまうからね」
森椎菜の話になると、突然海老名の様子が変わった。
同じ党の川下に反駁されたのが、相当気に障ったのか、顔をぴくぴくさせながら最近話題にも上らなくなった左派系の野党の名前を連呼する。
「共社党、共社党だぞ……部局にだってスパイの彼女を通じてあいつらが」
海老名を見ながら、少しだけ溜息をついて川下は言う。
「私は、むしろ共社党にもっと伸びてもらいたい位だよ。そうすれば、我が党も少しは目を覚ますだろう……全てが手遅れになる前に」
海老名は黙り込んだかと思うと、川島を睨みながら小声でぶつぶつと呟き始める。
『売国奴』がどうとか言ってるらしいのは、高地にも聞こえた。
「ところで、柴崎君なんだが。そう言えば、北君や郷田君の事務所で見たかもしれませんね。今月に入ってから」
「北、郷田……平賀派の県議じゃないっすか」
「ええ、彼らの秘書になったという訳ではなくてお客だったみたいですが」
「アーマゲドンクラブ北九州が?」
「はい。宇柄津や苗海で先週末、その関係者が徘徊していたという報告が入っています」
史塚からもたらされたその話は、高地だけでなく、高槻にも初耳だった。
「自分達の出番があると思ったのか……勿論、彼らの好きそうな話は全部終了しているが」
「さすがに第一種変異体の群れや、凶蘭会がまだ動いているとは思っていない様ですが。地道に『何が起きていたのか』を情報収集していた様です。宇柄津では海岸テントの変異体に接触もしたらしいです」
「フロートに接触? アーマゲがかよ?」
「九州地方のフロート狩りは、ここや東京と全く様相が違います。特に北九州の彼らはもう、日出会長のアーマゲドンクラブとは別団体同然でしょう」
「彼らも話せる死者とは対話の出来る若者達だよ」
史塚の言葉の後に、海老名が妙に自信ありげな声で口を挟んで来た。
「なるほど、あんたもこれからはそっち推しって事か。それと、出番なしっつえば、対策部の特殊部隊か何かも、出番逃がしてばっかりだったな」
高地は言いながら海老名を一瞥し、次に史塚を見た。
高地と同年代位の若い役人は、少し考え込んでから苦笑を浮かべて高地に返した。
「防衛省の部局への関与は、ああいう作戦部隊の設置に関するものもありますが、主軸は情報本部との協力体制にあります。僕の出向もその辺の事情でして」
海老名に目立った表情の変化はない。
丸岡は海老名の関与を疑っていたが、彼もあまり関心のない分野だったのか。
それとも何かを隠しているのかは、高地には分からなかった。
「遥に話してみるよ」
海老名の持ちかけた話に対し、高地は全てその返事で押し通した。
「そんな厳つい顔で、いい年して子供の使いかね。だったら始めから、そのリーダーを呼んでおけばよかった」
顔をしかめながら嫌味を言う海老名。後半の言葉は高槻に対してだった。
高地は不機嫌そうな海老名にも、何か噛み潰した顔の高槻にも気にしない様子を保つ。
「呼べばいいんじゃねえ? 俺は知らねえよ」
「どうなっても知らないぞは、私が君らに言う事だ。このままでは、アーマゲドンクラブの暴走にも、こちらに打つ手がないという結果にもなりかねん」
憤然としながら海老名が去って行った後、苦い顔のままの高槻が高地へ言った。
「まずいよ。最後の最後で、あんな喧嘩腰」
「いいんじゃねえ? 奴らが野放しじゃ、あの先生に一番都合悪いんだから。俺ら関係なしに、何かはやってくれんだろ」
「全くだ。彼の様な人間は、彼が低く見ている相手からガツンと言われた方がいいんだ。そういうのに慣れていないんだから、民間は誰もが自分の機嫌を窺ってくれると思っている」
そう言って高地に頷いたのは、川下だった。
高槻は両腕を組みながら、高地を睨んだまま言葉を続ける。
「だけどね、海老名先生が勝手にやる事が、僕や君の望む事とは限らんのだぞ」
「あんたや俺? あんたの考えも俺らにとって最善とは言えなさそうだがな……ところで、余計な奴が消えた所で、あんたにもう一つ確認しときてえんだけど」
高地は言葉を切って、最後の質問へと話題を変える。
元々、海老名が現れなければ、今夜はまずこれを高槻に聞こうと思っていたのだった。
「対策部の中では『先岸梨乃が今は佐久川にいる』事になってるらしいな。『向伏から佐久川へ避難した』という情報を元にしている様だが、その情報は一体どうやって手に入れた?」
「一体部局のどこでそんな話を」
「フロート化したフロート狩りが、あいつに復讐しようと佐久川へ来た」
高地の答えに高槻は顔を伏せる。
「――避難計画を、誰があんたらに話した?」
「そんな協力者はいないよ。局員がたまたま移動中の一体を見つけ尾行し――『かのり』だったかな。彼女が子供達にそういう話をしていたのを聞いたんだ」
「そうかい。遥があんたに教えたんじゃないかって疑ってる奴がいる」
「僕は、その位、彼女にも協力的であってほしいけどね! 僕は、海老名先生に『一番話の出来る者を』と要請されて君を呼んだんだ。君にも先生にも、もっとその辺を理解してほしいよ」
まる一日経ったが、昨夜の会合の内容について、高地はまだ誰にも伝えていなかった。
遥にも、同じ向伏にいる丸岡や匠、花紀や鏡子にも話していない。
別件で忙しかったからでもあったが、それ以上に、昨夜の話には整理が必要だった。
何を誰に伝えて、何を誰に伝えないか。
取材先からの帰路、車で国道を流していた時に久しぶりな顔を見かけた。
彼女が向伏市に戻って来ているのは、SNSで知っていた。
高地は路肩に車を止め、窓を開ける。
向こうも彼の車に気付いた様だ。足を止めて、全身をこちらに向ける。
「よお」
津衣菜は車へと無言で近付いて来る。
彼女にも、彼に聞きたい事がある様子だった。
市中心街の入口付近で高地のエルグランドと合流した津衣菜は、彼から遥への言伝を依頼された。
驚いた事に高地は昨夜、対策部向伏支局の高槻、防衛省の役人、そして与党の国会議員二人とで話して来たのだという。
その中の一人は、全国のフロート狩りの扇動者の一人、アーマゲドンクラブの黒幕、海老名光秀だった。
その話し合いの内容が、津衣菜の預かった言伝だった。
「そんな重大な話なら、伝言じゃなくて、メールで書類を送ればいいじゃない」
「後でそうするよ。今、作ってるヒマねえんだ。おめーは今の概要だけ遥に言っとけばいいからよ」
「えっと、海老名はアーマゲ止めてくれって高槻に頼まれてた。海老名はリスト作れって高地に言って来た。高地は遥に聞いてやると答えたら、何かキレてた――で、いいの?」
「おお。おめーの頭じゃそれ以上詰め込めねえだろ」
「ムカつくけどその通りね。それで……忙しいって、ひょっとして、裁判の事?」
「やっぱり分かったか? それを聞きたかったんだろ?」
西高訴訟について、津衣菜達が宇柄津から戻ってきた頃には、テレビも新聞も毎日の様に取り上げていた。
しかし、最初の頃の様な期待させる空気は、殆ど残っていなかった。
「地裁の審議は予定通り行われている。もう少しで判決が出るけどよ……多分、ダメだな」
「ダメって、判決前で分かるの?」
「裁判長が、完全に向こう寄りの奴だった。これは新聞にも書いてねえけど、分かる奴にゃ分かる位露骨だ」
高地や彼の知人が取材した限り、市内の世論も原告の学生は悪者扱いか、『大人に利用された可哀想な子供』扱いだった。
「おめーもこっちは分かってると思うが、ネットの全国の世論はもっとひでえ。学校の体質やいじめ側を擁護する言論が、一部のネットコメンターから煽られ、アフェリエイトブログがそれを加速させてる」
「『学校を改善する為の建設的な代案を挙げない』『文句だけ言う訴訟』『何で歩み寄らずまず否定するのか、和解せず戦おうとするのか』『いじめを許さない若者の学校いじめ』『嫌なら出て行け』……」
津衣菜が、モニター画面に躍る言葉を見つめていると、高地がふと顎をしゃくる。
ミラー越しにそれを見て、眉を寄せた彼女の耳に微かに子供達の声が聞こえて来た。
低学年の児童が下校前らしい、近くの小学校から響いている唱和の声だった。
「お父さんお母さん、ありがとう」
「日本に生んでくれて、ありがとう」
「日本人に生んでくれて、ありがとう」
津衣菜が呆然としている間に、同じ文句が三度繰り返されて止まり、あとは耳慣れた下校時のがやがや声に変わり始めていた。
「何よ、今の……」
彼女の『クソみたいな』生前の記憶でも、こんな事をやらされた覚えはない。
「首相の岸末が、十数年前から提案していた国民教育改革の一環だ。震災後から、それまで以上の勢いで推進されて、この合唱なんかも今年の4月から、全国の公立小学校で運用開始されただろ」
「知らない」
「ちゃんと言えるかどうかがポイントだ。文句を言う子供や元気良く言えない子供は、指導対象となる」
津衣菜は、聞いた覚えがない。
本当に小学校の近くで聞く機会がなかったのか、聞いたけど樹に止めていなかったのかは、自分でも分からなかった。
高地は津衣菜を馬鹿にする様子も見せず(もうどうでも良くなって来たのか)、校門から出て来始めた子供達を横目で見ながら呟いた。
「自分の居場所に、悪い事も危険な事も言ってはいけない。子供だけでなく大人も、国民全員に、そういう教育をしなくちゃなんなかったのさ。十年かけて、教育の成果がばっちり出ているぜ」




