表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
フローティア  作者: ゆらぎからす
9.零日の蝉
90/150

154日目(5)

 154日目(5)




「おい……なしたん?」

 思わずミサキは尋ねていた。


 ナイフを彼女の手へ突き出そうとしていた梨乃。

 その動きが突然止まり、何故か視線もミサキから外れてしまう。

 好機だ。

 ナイフの刃先までもが反れたのを見た時、ミサキはまずそう思った。

 おもむろに地面を蹴って立つと、梨乃の横まで踏み込む。

 押し込む様に彼女の膝裏を脛で蹴った。

 痛みも重さも感じない『彼ら』

 通常の急所狙いより、重心を崩す事の方が有効だとは気付いていた。

 あっけなく膝を折った梨乃の両肩を、身体を捻ったミサキが伸ばした右腕で叩く。

 直後にその腕を曲げて、ダメ押しに胸の中心へと肩を当てる。

 梨乃は何の抵抗も見せず、その場に転倒した。

「あ……あ……ああああああっ!」

 突然叫びながら両足をバタバタと何度も地面に叩き付け、最後にその勢いでぜんまい人形の様に飛び上がる梨乃。

 しかし、それで身構えたミサキを一瞥さえせず、左手と折れた右手首を頭の両横に当てながら、明後日の方角へと歩き出していた。

「ああああ……何だよ……あっち行け……よ……」

 ふらふらと足を運ぶ梨乃の口からは、何か呻く様な声が漏れている。

 誰も――何も見ていない彼女は、ミサキには見えない『何か』を必死で振り払おうとしている。


「なあしたんよ? なあ……梨乃……?」

 ミサキがその背中に声を投げた直後、梨乃は一人で転倒した。

 だがすぐに、這いずって彼女は前へ進もうとする。

 無様な姿も意に介さず、『何か』から逃れようとするかの様に。


 右手を伸ばし梨乃を追いかけようとして、躊躇ってしまったミサキの耳に、背後から『ぼんっ』とか『ばんっ』とかいう感じの短い発火音が飛び込んで来た。

 振り返ると倉庫の角向こう、正面側からゆっくりと黒煙が上り始めているのが見えた。

「はあ? 煙……火……どうして……」

 ミサキは呆然と煙を凝視する。

 ここに集めた味方に、警察に抵抗して暴れ続ける指示などしてはいない。

 警察が到着すると同時に撤収を始め、他のチームから先に逃がしている。

 現在ここにいるのは、ラビリンスのメンバーと、親交のある男のチームの数人ぐらいだ。

 皆を逃がす為の足止めとなり、役目を終えたら彼らも逃げる手筈となっている。

 最後まで残って今夜の騒ぎの責任を取るのは、ミサキとラビリンスの元幹部の数人だけ。

 その予定だった。

 そして、ここで火を使う用意をした覚えはないし、そもそも許可した覚えも無い。

 今夜は信登連合を叩くだけの筈だった凶蘭会本隊も、火の準備はなかった様だ。

 敵味方共に、火炎瓶やガソリンタンクを持って来た者は一人もいない筈だった――今までは。

「ぎゃああああああっ!」

「―――梨乃っ!?」

 倉庫前へ戻り、出火を確かめようと思いかけたミサキの耳に、一際高い梨乃の絶叫が響いた。

 立ち上がっていた梨乃は、更地の縁、少し高くなったコンクリートの堤防の上にいた。

 左手も、折れた右手も滅茶苦茶に振りまわして、暴れ狂っている。

 その身体がもんどりうって堤防の向こうへ消えたのは、数秒後の事だった。




ここ(・・)にいるのはこの私一人だ!」

 梨乃は声を張り上げて、『それ』に怒鳴りつけていた。

「『戻れ』って……何の事だよ!? 入んなよ(・・・・)……入って来んじゃねえっ!」


 じじじっじじじじじじじじじ

 しぃいいいいいいい、いいいいいいいいいい


 『彼女』は梨乃の目の前に立っている様でもあり、眼球の裏に貼り付いている様でもあり、空の上に浮かんでいる様でも、地面に溶け込んでいる様でもある。

 意識の中に『彼女』の声が紛れ込んだ時、頭痛と耳鳴りは最大となった。

「てめえなんて知らねえ――さっさと出て行け!」

 その姿は、幼い子供の様でもあり、姿を持たない影の様でもあり――

 何から何まで梨乃自身にそっくりの姿でもあった。


 ちちちちちちちちち

 ちちちちちちちちち

 みいいいいい ししししししし


『それは、その筈の、あなたの知る』

 『彼女』の声が中と外から、波と蝉に紛れて響く。

 単語と単語の繋がりがおかしい、どこかで聞いた気のする言葉だった。

 理解し難い筈のその言葉は、何故かすんなりと意味が通って来る。

『それは、私の知るその、あなたのそれを知るのが』

 目の前に感じた『彼女』を殴り付けようと、梨乃は折れた右手を構わずに突き出す。

 手首は虚空にぶらぶらと揺れ、その試みは徒労に終わった。

『その理由がそれ、あなたは……私だから』

「ああああああ! 嘘だあああああ黙れえええええ!」

『それはそうではないのが、もう一人の私とか、別のどこかの私とかのそれら』

『それは一つの、あなたと私』

「うるっせええええええ! 黙らねえなら、ぶっ殺してやらあああっ!」

 掴みかかろうとして転倒し、また起き上がっては、感じたままに手足を振り回す。

私は(あなたは)なしの(・・・)

『先岸梨乃は、その日死者(フロート)として生まれ、なしの(わたし)となった』

「私にそれ(わたし)以外の何か(おまえ)なんてねえんだよ! 別の生き方(わたし)なんてねえ! そんなもの(てめえなんて)望んでねえ!」

『私は知るそのあなたが知るそれを――(あなた)同じ生(りの)を望まない』

「だまれ、この……こ……」

 言葉途中で、くぐもった声を上げ、梨乃は咳き込み(・・・・)始めた。

 その目は灰色に濁り、瞳は白くくすんでいる。

 そんな梨乃を『彼女』は静かに見つめながら、やがて声を響かせた。

『梨乃、あなたは知るそれを、私のここに生まれて選んだそれを』


 じいいいいいいいいいいいいいいいいいいい

 いいいいいいいいいいいいいいいい

 いいいいいいいいいいい


 原因なんて今でも分からない。

 お母さんは笑っていた。

 返り血を浴び(おとうさんをころし)て、こっちを見て笑っていた。

 でも、あの笑顔は私なんて見てはいなかった。

 お父さんは血まみれでこっちを見ていた。

 目を見開いていたけど(あれがしぬってこと)、私を見てはいなかった。


 私は虚ろな視線に囲まれ、虚ろな言葉に囲まれて、ずっと一人だった。

 苦痛と屈辱、尊厳が傷付けられる瞬間だけが、私の生きる意味だった。


 これが人間の言葉。

 これが人間の視線。

 これが人間の生きる世界。

 だから私は、その中で笑わなければならなかった。


 虚ろな言葉と虚ろな視線を、自分のものにするんだ。

 ここで、血まみれで笑うんだ。



 だけどほんとうは―――


 いつの日だっただろう。

 お父さんもお母さんもきちんと笑っていた。

 ふたりとみぎてとひだりてをにぎって、わたしもわらっていた。


 あのひもあつくて、せみがないていた。

 ことばなんていらなかった。



 ――――じっ

「―――ああああ………ああああああっ!!」

 視界にはどこまでも青い空が焼き付いていた。

 のけぞって絶叫する梨乃には、その意味すらもうどうでも良かった。

 もつれた足元も、振り回す両手にも、感覚は無い。

 耳いっぱいに、あの時の様に蝉の声だけが響いていた。

 刹那。

 梨乃の開いた瞳孔には、幼い女児の姿が写っていた。

 『彼女』は、動かない視線を梨乃へと注いでいた。


 わたしは、いやだった。

 こんなひどいばしょに、こんなすがたでとりのこされたくなかった。

 こんなせかいきえてしまえ。

 こんなわたし、きえてしまえ。


 わたしはただ、しあわせになりたかった

 わらいたかった

 ほんとうは、ないていたんだ

 ずっと、つめたくくらい、ちのそこで


 梨乃は『彼女』へ手を差し伸べる。

「おいで、梨乃(りの)――なしの(わたし)に戻る」

 『彼女(りの)』がその手を取った時、梨乃(なしの)の全身は、堤防の上から虚空へと躍り出ていた。




「――けほっ」

 どこかで、咳き込むみたいな声がした。

 津衣菜の意識は、それでも半分以上飛んだまま戻らない。

 がさがさ、がさがさ、首周りで何かされている音がして、初めて現実が戻って来る。

 薄く開いた目の視界が、どこかおかしい。

 ようやく津衣菜は、自分のギプスが壊れた事、その直前にあった事を思い出す。

 そして、花紀がせっせと彼女の首の位置を戻そうとしてくれていたらしいと気付く。

「花紀……」

「おめざめだねっ」

 津衣菜と視線を交わした花紀は、嬉しそうに笑った。

 自分を呼ぶ津衣菜の声がかなり枯れていたのに、少し不安げな表情を浮かべて尋ねる。

「おはなし、できる?」

「うん……短くなら大丈夫、多分」

「おこして、だいじょうぶ?」

 花紀の問いに津衣菜が頷くと、両手に津衣菜の後頭部を置いたまま背中に回した腕を寄せる。

「わわわっ」

 上半身を起こし切る寸前、津衣菜の首が前に倒れそうになる。

 それを津衣菜自身の左手が前から押さえた。

 花紀は、安堵の顔と共に、視線を上に向けて二人の飛び出して来た倉庫外壁を見上げる。

「あんな所から落ちたんだね……無茶し過ぎちゃダメだよぅ」

「いや、仕方ないでしょ」

「どうして?」

「え……?」

 津衣菜は花紀の問いかけに驚いた表情を浮かべる。

 意味が分からないので、答えられない。

「あいつはあそこを破って外へ出るつもりだったんだ。私は天井で梨乃を押さえようとしたけど――」

「ついにゃーは、なしのんとお話しようとしてたんでしょ?」

「お話って言うか……ここで私が戦わないと――」

「私を守るため?」

 言葉途中で、花紀はそう尋ねて来る。

 笑みが消えて、何故か憂いを含んだ表情だった。

「ついにゃーは、誰かを守りたいの?」

「え?」

「ここでずっと言ってたもん……今度こそ、私に守らせてって」

「あ……」

 津衣菜は絶句する。

 自分の意識を横切っていた悪夢はまだ覚えている。

 花紀にも聞かれていた。

 だが、花紀は悲しげな顔のまま首を横に振って言った。

「でもね、花紀おねーさんは、誰かに守られたいんじゃないんだよ」

 津衣菜の後頭部から片手を離して、前を押さえている彼女の手を握りながら、花紀は言葉を続ける。

「勿論、困ってる時や大変な時に助けてもらえたら、そして、助ける事が出来たら嬉しいんだけど」

 津衣菜は、自分がどんな顔をして花紀の話を聞いているのか、分からない。

 そもそも、どんな感情が湧いているのかも自覚できない。

 だけど花紀は、津衣菜の顔を見て微笑を浮かべ、大人びた声で囁く。

「でも、花紀おねーさんはお話がしたいんだよ。ついにゃーともなしのんとも」

「花紀……」

「私が津衣菜(・・・)梨乃(・・)の帰る場所なら、そのことを覚えていてほしい」

 囁きながら、津衣菜の頬に自分の頬を寄せる。

 されるがままの津衣菜は、少し硬直した表情で瞳だけを花紀に向けようとする。

 花紀は津衣菜から顔を離し、再び向かい合う。

 幼い声で、やや真面目な表情で言った。

「みんなにもっとみんなのことを話してほしい………そして、聞いてほしいんだな、私の話を」


「よいしょよいしょ」

 花紀に両手で後頭部を支えられながら、津衣菜は立ち上がる。

「ひょっとして……このままで歩くの?」

 顔の前、額の辺りを今度は右手のギプスで押さえながら、津衣菜は背後の花紀に尋ねる。

「大丈夫だよっ」

「いや、歩くのは私でしょ」

 わが事の様に自信たっぷりに答える花紀。

 津衣菜は突っ込むが、この体勢で歩くという予定に変更はないらしい。

「曽根木さん来るまで待った方が……梨乃はこの先に」

 言いかけた津衣菜の耳に、遠い絶叫が飛び込んで来た。




 堤防の先では打ち返す波が白く泡立っていた。

 数メートル下に無数のテトラポッドが積まれ、その隙間から物凄い勢いで海水が出入りしている。

 宙に躍り出た梨乃の身体は、そのままその中へと落ちて行こうとしていた。

 彼女の視界には、遠ざかる空しか写っていない。

 彼女の耳には蝉の声しかない。

 それだけで十分だった。

 だけど、そこに赤い二本の腕と呻き声が挿入された。

「くっそ、また(・・)やっちまったよ……梨乃おっ!」

 梨乃の左手をミサキの右手が握っている。

 ミサキは身を乗り出して、一年前そうした様に梨乃を繋ぎ止めていた。

 空を見ていた双眸の焦点が、1メートル頭上へと移動する。

 掴んでから『一年前』を思い出したミサキは、緊張した視線を眼下へ向けている。

 その手が強く握り返された。

 ミサキは驚愕の表情を浮かべ、梨乃を凝視する。

「梨乃……いや……」

 ミサキは呟き、すぐに言い直した。

「あんた、誰だ?」

 自分の手を握り返している『先岸梨乃だった誰か』へ尋ねる。

 梨乃は無言のまま、じっとミサキを見返している。

 その目に悪意は感じられないが、彼女の問いへの答えも無い。

「――ぐっ!?」

 ミサキの身体が、数センチ縁へと引き込まれる。

 梨乃が何をしたのでもなく、彼女自身の体力が限界を迎えたのだ。

「や……やっべ……」

 息を切らしながら踏ん張るが、ひしゃげた左手は地面を押さえる事も出来ない。

 右腕の付け根から胸までが、下へ引き込まれていた。

 そのまま全身が滑り落ちそうになった瞬間、その胴体を二本の手が掴む。

「あんたら……!?」

 背後へ視線を走らせるミサキ。

 後ろから津衣菜と花紀が片手ずつ伸ばして、ミサキを掴んで繋ぎ止めていた。

 そのままゆっくりと後ろへ梨乃ごと引き上げて行く。

 梨乃の全身が引き上げられた時、はっきりとした爆発音が倉庫の向こうから響き、さっきよりも大きな黒煙と炎が噴き上がった。




 来ていた救急車の一台が燃えている。

 警察を牽制していたラビリンスも、根こそぎ捕まっていた凶蘭会本隊の面々も、遠巻きに半ば呆然と見ているだけだった。

 紫のシルビア、そしてバイク数台で敷地内に躍り込んだハマダ達には、敵も味方も眼中にない。

 パトカーの間を縫って走り回り、警察を翻弄しながら、何の躊躇も無く火炎瓶を投擲する。

「直属部隊、濱田だ! おらあっ、残ってる奴どんどん突っ込んでけよ! てめえら全員ぱくられてでも、梨乃さん逃がすんだよ! 梨乃さん残りゃあ、凶蘭会も残るんだっての!」

 パトカーの一台が新たに炎上する。

 機動隊の隊列は、検挙済みの少年少女からハマダのシルビアへと狙いを変えていた。

「警察ナメるんじゃねえっ! くそがきゃあ!」

 そんな怒声と共にバイク数台が転倒し、シルビア車内のハマダは、首と背中へ衝撃を覚える。

 パトカーの一台がノーブレーキでシルビアへ追突していた。

 隊列は動かず車からも距離を取っている。

 だが、今では彼らも出口の全てを封鎖し、視線をハマダ達の動きから外さない。

 暴走パトカーは、更に二度三度とハマダのシルビアに追突し、更に一台のバイクに接触して転倒させる。

 ハマダは薄笑いを浮かべながら窓から顔を出し、ミラー越しに後ろのパトカーを見る。

 助手席のシートに置いたケースから、新たな火炎瓶を引き抜く。

 ここから自分が逃げ伸びるつもりなど、とっくになかった。

 自分が囮となって梨乃を逃がす。

 その為だけに彼女は、ここへ駆けつけたのだ。

 ハマダの呼びかけに動いた凶蘭会メンバーは殆どいなかった。

 それも今の彼女にとっては、もうどうでも良いこと、半ば覚悟していた事だった。



 この一年、あたしはまるで死人だった。

 今度こそ無力なままじゃない。

 あたしは、何も出来ないチンピラなんかじゃない。

 最悪、あたしが全てをひっかぶる。

 囮になって、あの人を逃がす。


 どいつもこいつも、梨乃さんに怯えて、あるいは凶蘭会の稼ぐ金目当てで従う様な奴ばかり。

 あたしだって、んな事は知ってたさ。

 だけど、誰もがそうだと――恐怖か金で、あの人について来たと思ってるんなら、大間違いだ。


 あたしもあの人も空っぽだった。

 中学生の頃から、一緒に暴れ、盗み、放火した。

 どこかで誰かを袋叩きにしていた。


「梨乃さん、りのさあん」

「ああ? 何やってんのハマダ、っだよそれ」

「たいやきっすよ、なかむらやっすよ」

「何人分だ、ここで食う気かテメエ……え……んだよ……うまいな」

「でしょ!」


 だけど、あの陸橋の下で。

 あのクソうるさい中、何度も二人で食ったたいやきの事を忘れない。

 あたしはあの人が、梨乃さんが大好きで、ついて来てたんだ。




「ハマダが……マジか」

 携帯で仲間から倉庫前の状況を聞いたミサキは、顔を強張らせた。

「奴が逃げてこっち向かってるって聞いた時に、こうなる事は考えられたよな」

 かぶりを振って、電話の向こうの相手に次の行動の指示を出す。

「うちらで捕まった奴は、まだいないな? ラビリンス幹部以外は奴にも構うな。出来たら、その騒ぎも利用して逃がしちまえ」

「ミサキ……あなたは、捕まるつもりなのか」

 津衣菜の問いにミサキは振り向いて、一瞬だけ彼女の状態にぎょっとした顔をしてから、苦笑して答える。

「落とし前付ける奴が要るんだ。ハマダも無事じゃ済まねえだろうけど、奴だけに背負わせるつもりもないさ」

「それはここにいるのは……そうするべき者のつけるこのけじめ」

「――へ?」

 背後からの声に、ミサキは振り返り、声の主を確認して尋ねる。

「梨乃……何だって? つうか何だよ? その……」

「私はするのは助ける、彼女(・・)を」

「助ける……彼女って……ハマダやあの子らを? え……あんた…が?」

 ミサキは呆然と梨乃へ尋ねる。

 言われている内容が――あの先岸梨乃がそれを言うって事が、全く理解出来ない。

 無表情でミサキを見返し、梨乃はいつもの様に(・・・・・)ぼそっと答えた。

「それが要る、落とし前は今夜のここの」

 短く返事しながらも、梨乃は立ち上がって倉庫の煙を見上げる。

 次の瞬間、彼女は何も言わず駆け出していた。

 ミサキも、花紀と津衣菜も、慌てて彼女を追う。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ