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フローティア  作者: ゆらぎからす
10.リービング
123/150

193日目(2)

 193日目(2)




 カシャッ

 ピーッ……ガチャッ

「ふふ、本当にあれだね。近所のスーパーのレジで、ポイントカード読ませるやつ」

「……」

「新省庁になるとかいう割に、予算かなりやばいんじゃないの?」

 遥の軽口に返事する者はいない。

 彼女に捕えられたままの柴崎も、彼女の前を歩く白衣の女――名札もカードもなく今まで分からなかったが、伊藤という名前らしい――も、ずっと黙っている。

 扉の向こうで、年嵩のフロートの女性は驚いた顔を向けた。

「えっ……遥さん?」

「今回はここの居心地とか残留希望とか聞きませんよ。まとめてチェックアウトの時間です」

 手前から、並んだ扉が順番に開いて行く。

 扉の前を通り過ぎるごとに、遥の後ろの人数が増えた。

「あんた、めっちゃツイてるよね」

 柴崎を人質に取ったままの姿勢で、遥は再び伊藤に声を掛けた。

「まず、ここの鍵が指紋認証じゃなかった事」

 伊藤のカードを挟む指に力が入った。

「二つ目は、人質がいるから迂闊にNOと言えない状況。三つ目は、ここの待遇が割と悪くなかった事。トリプルラッキーだよ」

 話しながらも一番奥の部屋の扉を開けさせる。

 ベッドに座っていた日香里は、開扉すると同時に立ち上がった。

「はるさんっ!」

「何だい、準備がいいねえ」

 呆れたような口調だが、遥の笑みが幾分柔らかくなる。

 日香里は、厚めの聖書を両腕に抱きながら頷いた。

「予感がしたんです。主が教えて下さったのでしょうね」

「多分ね、あんたの神様は結構いいアンテナ持ってるみたいだから」

 九十九里の収容所でも、彼女はそれ一冊だけを持って遥について来たのだ。

 彼女の脱出準備は完了していた。

「これで、君の仲間は全部だな?」

 日香里を廊下に出した後、柴崎が尋ねて来る。

 遥は視線を横へ振って答えた。

「まだ開けてない扉があるね。私ら(・・)とは言ったけど、元々の仲間だけ(・・・・・・・)なんて言ってないよ」

「何だって……それじゃあ、第二種(フロート)の収容者全部って事じゃないか」

「そうだ、私ら(・・)さ」


 遥たちのいた部屋の向かいに、同じ様な扉が三つ並んでいた。

 それらも次々と開け放つ。

 中にいたのは知らない顔のフロート数名。

 他所からここへ連れて来られたらしい彼らも、突然現れた見知らぬ顔の同胞に、不安を露わにしていた。

 彼らの合流によって、狭い通路は混み始める。

 遥は一度彼らを振り返ると、当たり前の様に『じゃあ、行こっか』とだけ言って通路の奥を見る。

 20メートル程先の突き当たりから、右へ折れ曲がっている様だった。

 角付近は、照明が弱いのか薄暗くなっている。

「私さ、普通に正面玄関から入って、外来受付してここに来たんでね。尋問とかも全部あっちの方向だったし、こっち側の経路が分からないんだけど……あれは曲がっちゃっていいんだよね?」

 日香里が遥の前へ出て、歩きながら彼女の問いに答える。

「はい。私は裏の救急入口……ともちょっと違う……どちらかと言うと搬入口みたいな所を通されました」

 日香里の言葉に、他のフロート達も頷く。

「その後、狭く曲がった廊下を通って、別々の階段も二三度昇り降りして、あの角からこっちへ」

「ふーん……その経路は、全部思い出せそうかい?」

「……ちょっと、自信ありません」

「……非常口から二つ目を右だよ」

「いや、非常口の前に左の扉出ました。その次にゴミ置き場から右手を」

 日香里はしょんぼりと答え、背後のフロート達からもざわめく様に、経路を話し合う声が聞こえた。

 柴崎も伊藤も、彼女らを遠巻きに追尾するセキュリティも、相変わらず押し黙っている。

「まあ、来た通りに帰る必要もないけどね。ただ確認は必要だから……おや?」

 言葉途中で遥は短く声を上げ、足を止める。

 今しがた突き当たりまで来て、角を曲がった所だった。

 角の先では蛍光灯は消灯され、僅かな非常灯ランプだけが灯っていた。

 闇と言う程ではないが、かなり暗い。

「皆は、ここから来たんだよね……行き止まりとかじゃなかったよね」

「そんな筈はっ……でも確かに……これは」

 日香里が通路の先を塞いでいる壁へ駆け寄った。

「どう見ても、来た時と全然違います。これは……防火ドア?」

「にしては頑丈過ぎるね。まるで核シェルターか金庫室のドアだよ……あるいは、刑務所」

 角からおよそ7~8メートル先の通路途中。

 普段は開扉され、壁の一部になっていたと思われる厚い鉄の扉が、左右から閉じて通路の終点となっていた。

「言った筈だ。我々を舐めるなと――『以前の様には行かない』ともな。サイレンが鳴らなければ、何もしていないと本気で思っていたのか」

 伊藤がここで初めて、嘲る様に口を開いた。

「こっちにも階段への道があります!」

 日香里が鉄扉手前の横にあったドアの、表示板を指差しながら開ける。

「そんな……」

 開けた先、1メートルの所でリングシャッターが降り、その通路も封鎖されていた。

「こっちよりは開けやすいかも知れないぞ、お前らの馬鹿力で曲げられるか試してみたらどうだ? もっとも、もうじき向こうから開くだろうがな。非公然の部局のセキュリティではない、病院の警備隊がここへ向かって来ている」

「なるほど」

「いい事教えてやろうか。この特別区画でサイレンだの放送だの流す必要なんてないんだ。一般区画では既にきちんと流れている。『特別区画で火災が発生しました。一般区画への延焼、煙流入の恐れはありません』とな。お前らがちんたら脱走ごっこしている間、ここは完全に隔離されていたんだ」

「来るのは結構だが、人質どうするんだい? どこの誰が大勢で来たからって、柴崎さんやあんたを見殺しにする訳じゃないんだろう?」

「ふん、いつまでそんな幼稚な話しているんだ」

 伊藤は遥の問いに鼻で笑って答える。

「もしも要求が通らなかったとして、それでお前が彼を殺せる訳がないだろ。一人しかいない人質を殺してしまえば、お前はもう終わりなんだから」

「まあ、そういう事だね……人質が僕一人だけの時点で、君はこの先の交渉なんて出来ない」

 柴崎が肩の力を抜きながら続けて言った。

「あんたらそれ分かってて、今まで黙ってたのかい……人が悪いね」

「分からない方が馬鹿なだけだと思うぞ」

 笑いもせず、伊藤が遥に返す。

「まあ分かってたけどね……あそこでは、柴崎さん捕まえるのが限度だったってだけさ。それで、次はどうなるんだい」

「……特E管理の伊藤だ。急行班は最終何名だ、現在どこまで来ている」

 遥の質問を無視して、伊藤はシャッター横にあったインターホンで会話している。

 電話途中で彼女は遥ではなく、その腕の中の柴崎へ声を掛けた。

「防災センターに確認しました。現在本社増援で4班20人が駐車場に到着し、東B階段より……」

 彼女の言葉は最後まで続かなかった。

 その目の前で、通路を塞いでいた鉄扉がゆっくりと開き始めたからだ。

「おい、どうした? どうして今、隔離ドアを開けるんだ?」

 白衣の女がマイクに怒鳴るが、スピーカーからの返答はない。

 リングシャッターの向こうにも、警備隊が到着した様子はなく、ひっそりと静まり返ったままだった。

 シャッター向こうの扉の一つが、ふいに音を立てて開いた。

 セキュリティと同じ会社名の入った、もっと軽装な制服に『警備担当』のIDを首から下げた男が一人だけ出て来る。

 彼は両手を頭の後ろに組んでいた。

 その背後からもう一人、背広姿の男が出て来る。

「貴様……どこから入って来た!? いつ戻って来た……」

 後ろの男を見て、伊藤は驚きの声を上げた。

「いつもやるみたいに、日の出前に壁の配管を伝って登り、窓から診察室の一つに入った。君らなら分かるだろうけど」

 曽根木はそう言って、警備担当の後ろで握った拳銃を彼女達へと見せる。

「その後、警備に捕まって防災センターに連れて行かれて……こっちへ案内してもらったんだ」

「曽根木さん、こちらはその銃の入手先も聞きたいらしいよ」

「へえ。それもここのフロート研究なのか、何か違和感あるけど」

 遥が声を掛けると、曽根木は眼鏡を直しながら伊藤と柴崎を見る。

「私もそう思ったんだけどね。確かにそういう研究もあるだろうけどさ、こっちはどう見ても医学部門じゃない」

「最近はそうなんですか、柴崎さん。免疫や代謝の研究部門がそういうフィールドワークデータを必要とするんですかね」

「うーん……まあねえ」

 曽根木は一応面識のある柴崎に、普通そうに尋ねる。

 柴崎も曽根木には世間話の様に返しつつも、返答自体は唸って内容を濁した。

「そうだ。我々の研究は、お前ら変異体の総合的な分析に生まれ変わるのだ。分かっているのなら、それ以上動くな」

「おや」

 不意に投げられた女の言葉で、曽根木が前を見る。

 通路の先に並んでいたのは、セキュリティではなかった。

 どんな非常態勢でも、彼らが紐付きの拳銃を持っている筈がない。

「当病院では警察官も常駐している。調べるまでもなく、正面玄関に掲示してあった筈だがな」

 一斉に構えている彼らの銃口は、曽根木と遥だけに向けられていた。

「我々のマニュアルに警察への通報はないが、防災センターの方で即座に通報したのだろう」

「この先どうするんだ。『どいてくれなければ、こいつを殺す』と言って、彼らがどいてくれると思うかい?」

 苦笑を浮かべながら、柴崎は皮肉げに遥へ尋ねる。

「僕を殺したなら、向こうはただ君を蜂の巣にすればいいだけなんだ。彼らも、それを最大限避けなくちゃならないから、迂闊に近付いて来ないだろうが……君の要求も聞いてはくれないだろうね」

「はるさん、どうするんですか……」

「うん、曽根木さん、どんな感じかな」

 日香里が不安げに尋ねて来る。

 勿論、彼女以外のフロート達も、並んだ銃口に怯えきっていた。

 『ついて来るんじゃなかった』『何なんだよ、こいつ』

 遥を責める声もひそひそと背後から聞こえて来る。

 得体の知れないフロートに勢いでついて行ったら、ロクでもない目に遭ってしまった。

 他所のフロートからすれば、そういう認識になるだろう。

 遥はそんな背後の疑問を曽根木に軽く振ってしまった。

「準備中だ。もう少し待ってくれ」

 彼は彼で、そんな妙な返答を彼女に返しながら、片手のスマホでどこかに電話を掛けている。

 もう片手の銃は警備担当者に向けたままだ。

 やがて、彼は顔を上げて遥へ呼びかけた。

「遥」

「うん、準備OKかい。まず柴崎さんの所属番号が9802、コードがGdF708t、そっちの津衣菜っぽい感じのお姉さんがこの施設の担当者で、所属番号は9804、コードがeRw2547」

 遥が前もって押さえていた、柴崎と伊藤の対策部内での番号らしきものを曽根木に伝える。

 曽根木は言われたままに、その番号を復唱してどこかへ送っていた。

 途中、遥の言葉で伊藤の顔を二度見し、吹き出しかける。

 曽根木が電話を切ってから、柴崎と伊藤の携帯へ同時に着信が入るまで、一分程しかかからなかった。

 電話を持ったままだった伊藤はすぐに出て、柴崎は遥が頷くのを見てから、電話を取り出して出る。

「はい、え……それは、現状を……分かりました、ですがその優先は、ああ、はい」

 両方とも、かなり一方的に何かを通達されている様子で、二人は多少聞き返したりしながらも、二つ返事で頷いている。

 先に電話を切った柴崎へ遥は尋ねる。

「どこからのお電話で、何だって?」

「東京の準備会再編の担当だ。さっきの彼と同じ二部の人だ。今からここに来る、対策部(・・・)本部室、本部長一行の指示に従ってくれと」

「対策部……『対策局準備何とか』じゃないのかい?」

「うん、対策部の(・・・・)本部だ。旧組織の業務を移行まで継続する機能だ」

「私には院長からで……やはり同じ内容です。本部巡察の指示を受けろと」

 伊藤が柴崎に報告する。

 この病院の院長は、遥の尋問にも立ち会っていたという。

 あのモニタールームに並んだ連中のどこかにいた筈だった。

「君達も警察も、本部長が着くまで、そのままこの場に留め置く様にとさ」

「警察も? いくら偉くたって、警察が対策部の指示に従う筋合いはないだろう」

「本部長と……正確にはその上(・・・)が来るんだ。警察からも来る」

「へえ」

 力の抜けた声で、遥が返事する。

「じゃあ、もういいんじゃないか。向こうも銃を降ろしているし」

 曽根木が警官隊を見ながらそう言うと、遥も柴崎の首に回していた腕を外した。

 左手のメスもしまって、彼から離れる。

 ようやく身体の緊張を解いた柴崎が、疲れた声で遥に尋ねた。

「これが、君らの用意していた『最後の一手』だったのか……?」

「準備していたというとちょっと違うけどね。本当に動くかどうか、実際に動いた今まで分からなかったし」

「あのさ、人質の用ないなら、僕だけここから離れてもいいかな?」

 突然、柴崎がそんな事を言い出す。

「なんで?」

「このままここにいると、何かとても居心地悪い事になりそうな予感がして」

「良い勘しているね。私もそんな気していたよ」

「そうだろう? だからさあ」

「私は構わないけど……そこで待ってろって、あんたが向こうに言われたんだろう? 向こうに聞きなよ」

「やっぱり」


「おはようございます。対策部本部室です」

 丁寧なあいさつと裏腹に、どこか怒っている様な声。

 不機嫌そうな声の黒スーツの男が、柴崎と伊藤、遥と曽根木、警備担当にまで手早く名刺を配って回った。

 50歳前後位の顔立ちだけど挙動はキビキビしている彼が、その『本部長』らしい。

 彼の周りにも何人か同行者がいた。

 本部長より更に年長らしい、ラフなポロシャツ姿の男が続いて名刺を配る。

 『主権自由党 代議士 衆議院議員 川下(かわした)幸生(ゆきお)

 次に『警視庁の坂部』と名乗った男が名刺は配らず、一礼だけした。

 彼は警官隊の所属を確認してから、どこかに電話を掛けている。

「この施設での変異体収容を一旦中止し、危険が認められる者を除く収容者全員を解放して下さい。研究事業も、変異体実験を伴わない内容に見直して下さい」

 名刺を配り終えた本部長は、その場の人間全員へ大きめの声で言い渡した。

 伊藤が『何だと』と掠れた小声で叫ぶ。

 すぐに彼女は本部長の前へと詰め寄る。

「局研究1課の特E管理の伊藤三葉(みつば)です。当施設の変異体研究は再編成部門関東の管轄にあります。何故、旧本部に中止を命じる権限があるのですか」

「暫定的にだが、向伏一帯の変異関連施策の指揮系統が一本化される事に、準備会と部局の合意で決定した。理由は、ここ数日の過度の外部介入による、組織移行の混乱を受けてのもの。企業や民間団体、政党の不適切な影響を受けた部分は、一度リセットするべきと判断されている」

「これ自体が、不適切な政治介入じゃないんですか」

 伊藤は聞き返しながら、川下議員とその周りにいる数人を睨む。

 柴崎もその方向を見て、少し口元をひくつかせ、不自然な笑みを浮かべた。

「伊藤さんと言いましたか。変異体化した個人における基本的人権、自由権についての関連法規定において、ここの研究活動が適切だったとお思いですか」

 川下の背後から女性が一人、前へと出て来た。

 40前後に見えるスーツ姿の彼女は、伊藤の前へと立って尋ねる。

「もしお思いでしたら、多少、解釈に誤解があるのではないですか?」

「あなたはどちらの方ですか」

「向伏の県議会議員を勤めております、森椎菜と申します。無所属ですので川下さんとは別党になりますが、対策部関連に超党派で臨むべきという一致がありまして」

「ああ、私も主自党ではありませんが、少しお話させて頂こうと思いまして……参議院議員で共社党政策委員の大沼と言います。今回、森さんと川下さん、他何人かの方からお声がかかり同行させて頂きました」

「今回の変更も介入と言えなくもないが、これは今までの問題点に対する是正であるとご理解頂きたい」

 政治家たちに続いて、本部長が再び伊藤へ答えた。

 一片も納得していない表情だったが、伊藤はひとまず沈黙する。

 椎菜は踵を返すと、遥たちのいる方へ歩いて来た。

 正確には、遥の近くに突っ立ったままの柴崎の方へ。

「ははは……ご無沙汰してます、森さん」

 柴崎は不自然な笑顔のまま、椎菜へと会釈する。

 椎菜もニコニコと笑いながら、かつての部下に頷き返す。

「お久しぶりね。元気していたかしら……柴崎君は少しやつれてない?」

「まあ、色々と忙しかったもので」

「少し休んだ方がいいと思うわ。これからは、いくらか時間に余裕も出来ると思うし」

「そうでしょうかね」

「私ももう少し頑張らせてもらう事にした。海老名さんだけでなく、ルフラー(貴方達)のラインも、しばらくこの地域での出番はないでしょうから」

「は……ははは」

「相変わらず怖いな、あの人の笑顔」

 何とも言えない顔で二人のやり取りを眺め、遥が呟く。

「森先生、何か、前見た時より元気になったんじゃないですか……何か良い事でもありました?」

 溜息と共に柴崎は頬を緩める。

 引き攣った作り笑いが諦め混じりの苦笑に変わり、彼はふと彼女へ尋ねた。

「良い事……そうね。私は母親だから、娘に出来る事がまだあると知れば、やはり力が湧くみたいね」

 椎菜の声に柴崎は眉を寄せる。

「娘……津衣菜ちゃんですか?」

あんなもの(・・・・・)を見てしまったら、頑張るしかないでしょう」

 今度は遥も椎菜を凝視する。

「ん……あんなもの(・・・・・)?」

 遥は後ろの日香里を見るが、彼女も首を傾げている。

「ああ、遥はまだ見ていないよね。昨夜から今朝にかけて、ちょっと面白い事になっててね」

「面白い……って?」

 言葉で答える代わりに、曽根木はスマホを出す。

「そんな大きさじゃ見にくいでしょう、曽根木君」

 横からの声で彼が振り向くと、椎菜がこっちを見ていた。

 彼女は鞄に入っていたモニターを、遥達へと向ける。

「これは録画だけど、リアルタイムでもやってるのよね……凄い人気だわ、この子。アーマゲドンクラブ会長とのトークバトルより、単独の方が人気あるんじゃない?」

 画面には喋る花紀が大映しになっていた。

 一昨日夜から続いていた筈の、日出と花紀との対話の生放送。

 今は日出は休んでいて、そんな時は延々と花紀が喋っている事が多いらしい。

 『この子もゾンビなの』『嘘だろ』『可愛い』『こんな美少女を退治とか、やっぱりアーマゲが悪だな』『ずっと喋ってるの?』『生前の特定あくしろ』

 映像横のリプライに休みなくコメントが並んで行く。

 実際に、日出のやっていた生放送の倍近い勢いだった。

 カメラが後ろに下がる。今、撮影しているのは高地だろうか。

 花紀の横に何かが写っている。

 何か―――モザイクの強くかかったそれは、人であるとすらすぐには気付かなかった。

 目を凝らせば、彼女(・・)の最近いつも着ているシャツや、特徴的なポニーテールが何となく分かるかもしれなかったが。

 『見えねえ』『変異体の仲間?』『本当に死体には見えねえよな』『女だよな? 男?こっちも可愛いの?』『顔バレNGだから? それとも……腐ってるとか?』

「え……本当に喋らないとダメ?」

「(ピー)お姉さんとしては、皆に(ピー)を紹介したいんです。ここには友だちもいます。同じ不思議な運命で出会った、フロートの仲間です。(ピー)は、そんな私の大切な友達の一人なんです」

 そんな事を言いながら、花紀は隣のモザイクの姿に寄りかかる。

 モザイクごしにも彼女がもじもじしているのが分かる程だった。

「しかし……森さん、それが娘さんだってよく分かりましたね。多少情報持ってた私でも、すぐには分かりませんでしたよ」

「そうかしら? 一目で分かるでしょ、この子が津衣菜だなんて」

 遥の言葉に、椎菜は当たり前の様にそう返した。

「私たちはこのまま向伏に行くわ。今、向こうの対策部も完全に二つに割れたらしいわね。海老名議員の手が入った所と、高槻係長がコントロールしている所とで……収拾付ける必要があるからね」

「まあ、そうでしょうけど……ひょっとして、私らも一緒に来いという事ですかね?」

「揃って自由の身になった所だし、良い頃合いじゃないかと思ったんだけど? 勿論、任意ですわよ」






copyright ゆらぎからすin 小説家になろう

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