第34話 夏と言えば海でしょう
今回の台風は来そうで来ない。こちらの動向を伺っているかのように、停滞と経路変更の繰り返しだった。
そして、変に前線を刺激しているのかとにかく暑かった。
そんなある日、珍しく瑠璃はえりからメッセージを受信した。
『今度の連休、皆で海に行くわよっ♬空けておいてね〜』
え!?今度の連休って、来週なんじゃ・・・
海って事は泳ぐんだよね。と言うことは水着がいるのよね?
持ってないし、泳ぐのたぶん苦手だと思う。
「えー、どうしようぅ」
「何がどうしよう、なんだ」
「あ、左之兄!来週海に行こうって、えりが」
「海か、いいじゃねえか!やっぱ夏は海だろう」
普通はそういう反応だよね、うん。けどテンション上がらない。
「瑠璃は海は嫌いなのか?」
「嫌いじゃないけど、苦手かな?ほら、日焼けするしベトベトするし・・・それに変な虫とかいそうだし。ははっ」
「そして、泳げないしね」
「何で知って・・・って、総司!!」
「あれ、本当に泳げなかったの?」
「そうなのか?瑠璃」
「まったく泳げないわけじゃないですよ・・・たぶん」
二人は私の弱点を見つけたと嬉しそうに笑っていた。
誰だって苦手な事や出来ないことはあるんだよ!悔しい。
でも、海でガンガン泳ぐやつなんていないから心配しないで楽しんでこいよって励まされた。
先ずは水着を買わないとね。
ちょっとブルーな気持ちで1週間を過ごし、いよいよ明日海に行く。誰かテンションの上げ方を教えて下さい。
そんな事を考えていたら、えりから連絡が来た。
『どうしよう!明日、永倉さんも来るんだけど』
え?そうなの?そんな話してたっけ。
すると今度は眞子からも連絡が来た。
『藤堂くんも来るんだって!どうしよう、恥ずかしいぃ』
あれ?この流れは何かな?昼休みそんな事は一言も言っていなかったんだけど。そもそもその中に私一人でって、浮くよね?
断るか?これって断れるチャンスなんじゃ!!
トントン
「ん?あ、はい。どうぞ」
そこに現れたのは総司だった。
「あ、ごめん瑠璃。言い忘れてたけど明日の海、僕達も行くんだ。たまたまなんだけどね」
「え!何それ」
それだけ言うと総司は自室に戻って行った。
***********
時は遡る事2日前。瑠璃が水着を買うから帰りが少し遅くなると言って別々に帰った日の事。総司が斎藤にこう言った。
「海に行くらしいよ」
「そうか」
「ろくに泳げもしないのに、大丈夫かな」
「泳げないのか?」
「らしいよ。本人は必死に誤魔化そうとしてたけど」
「・・・」
「それに今日水着買うって言ってたでしょ。えりちゃんの事だから、大胆なやつを瑠璃に勧めそうじゃない?」
「・・・」
「海って人を開放的にさせるからね。ナンパし放題だって」
「っ!///」
泳げないなら砂浜に大人しくしているだろう。しかし、それでは何処の馬の骨の物と分からぬ輩が獲物を探してナンパをっ。
「そう言えば新八さんが、海行きて~って言ってたなぁ」
そう言い横目で斎藤を見ると、スマホを手にして誰かに電話を始めた。
「永倉か、土曜日なんだが海に行かないか。ああ、運輸課の女性も一緒だ。ああ、そうか。では藤堂の方は頼む」
こんな流れで海に行く事になったと瑠璃は知らない。
総司の作戦にまんまと乗らされた斎藤だった。
「あ?海だと?俺は行かないから、楽しんて来い」
「そんなこと言って歳三さん。泳げないんでしょ」
「泳げねえわけねえだろ!」
「瑠璃はどうも泳げないみたいなんですよね。てっきり歳三さんの血筋かと思いましたよ。違うんですね」
「あいつ泳げねえのか?なのに行くのか?」
「ナンパとかもされるかも知れませんね」
「ちっ!何処の海だ。面談終わったら直ぐに行く。山崎も準備をしておけ」
「え、僕もですか!」
こんな感じて、全員を巻き込んでいった総司だった。
因みに左之助は芝居など打たずとも、即答だった。
「行くに決まってんだろ。夏は海って決まってるんだぜ」
なんだかよく分からない流れですが、皆で海に行くそうです。
「一さんも行くんですよね?」
「っ、あ、ああ」
「良かった。皆行くのに一さんだけ来ないじゃ寂しいですから」
「そうか?」
「はいっ!」
ほんの少し頬を染める斎藤は瑠璃に起こるかもしれない危機を回避すべく、己に気合を入れるのであった。
ただ海で楽しく遊ぶだけではありませんよ?事はきちんと動いておりますので辛抱してお付き合い下さいませ。




