第32話 玄武さんと白虎さん
総司の「借りればいい」と言う発想には驚いた。
「借りるって・・・どうやって」
「それは瑠璃のお願いしだいなんじゃないかな」
「は?」
お願いしだいってどういう事だろうか。全く意味が分からない。
「瑠璃は気を操っていたじゃない。それに僕たちの幻獣を結界破って入れることが出来たし、瑠璃になら僕たちの幻獣を操れるんじゃないかと思ってさ」
「ずいぶん簡単そうに言うよな」
気を操る・・・兄たちの幻獣を操る?
そう言えばこっちの時代では毎日が忙しくて治癒能力しか頭になかった気がする。
「瑠璃、顔が歳三さんみたいになってるよ」
「えっ、うそ」
眉間に指を当てふにふに皺を伸ばす瑠璃。そして物陰から殺気じみた気配が近づいて来た。
「誰が俺みたいになってるだと?」
「げっ!」
ギロリとひと睨みして歳三は部屋を通り過ぎて行った。
副社長は休みの日も忙しいのだろう。バタンと閉めたドアの向こうで誰かと携帯で話し始めた。
「びっくりした」
「ほら、歳三さんの事は放っておいてさ。どう?瑠璃、出来る?」
「うーん、取り敢えずやってみます」
「あまり根を詰めるな、身体にさわる」
「はい」
斎藤の瑠璃を気遣う様子に思わず三人は微笑んだ。
瑠璃はその後、自分の部屋に戻った。先ずは一からやり直しだ。
精神を静め無になること、そして自分自身の気を感じよう。
瞳をとじて気をゆっくりと巡らせる、じわじわと熱が上がるのが分かった。私の気、黄金色の光、柔らかな温もり・・・
そして、左之兄の玄武さんと総司の白虎さんを思い浮かべる。
「玄武さんと白虎さんをお借りします」
すると、瑠璃の黄龍がひゅるりと背から現れぐるぐると瑠璃の周りをとぐろを巻くようにすとんと居座った。
長いヒゲを泳がせるように上を向き口を開けると、
「キュウ〜ン、キュウ〜ン」と、泣きはじめた。
・・・あれ、やっぱり無理だったかな
そっと目を開けると、ドスンッ、ドスンッ!と音が鳴り床が揺れた。
「うわっ、っとと」
気の操り方を間違えてしまったかと、姿勢を戻すと確かにいつもとは違う視線を感じた。
振り返るとそこのにはギロリと眼をギラつかせる玄武と、口を大きく開けて威嚇する白虎の姿があった。
「で、出た!じゃなくて、いらっしゃい」
「・・・」
自分の黄龍もそうだが鳴いたり吠えたりするものの、人間の様に喋ることはない。ただ、眼や雰囲気で訴える気配はある。
「すみません、お休みのところ」
「・・・」
「えっと、実はサターンがまた現れて私、狙われてるみたいなんてすよね?それで、お二人は、ん?お二人でいいのかな。サターンの術が効かないですよね。だから、その時は少しお力貸してほしいなって」
玄武と白虎はグルル、グルルと喉を鳴らしている。
「サターンは私の力を得るために、嫁にするって言っていて。このままだと、私・・・手籠めにされてしまうんですよ」
ガルルルゥゥ!! ガルルルゥゥ!!! ガァァ!
「うっ!お、怒ってます?すみません」
瑠璃の黄龍と玄武と白虎は何やら会話をしているようだった。
暫くすると、唸り声は治まり3体は瑠璃に向き直った。
(左之助が言っていたが、サターンが甦ったとは神も莫迦な事をしてくれたな)
「えっ」
周りを見渡すが誰も居ない。誰?乾さんが来たの?
(何処を見ている、私だ左之助の玄武だ)
「うそっ、お話できるんですか!?」
(話しているのでは無い、瑠璃と交信しているのだ。我々は人間の様に喉から言葉を発することは出来ない)
(そのサターン、許せないね。ひと牙浴びせてやりたいな)
玄武と白虎が喋った・・・
私はちらりと自分の黄龍を見上げてみたけと、何も言わなかった。
自分の幻獣とはお話出来ないらしい。
「あのその時は、お力を貸していただけますか?」
(勿論だ、瑠璃を手籠めにするなど許さん!!)
(当たり前だよ、瑠璃は総司の大事な妹なんたから)
「ありがとうございます!」
すると3体の幻獣たちはスッと消えてしまった。
ただ、物凄く体がだるかった。こんなに気を操ったことは無かったかもしれない。ほんの少ししか接触していなかったのに、属性の違う彼らと会話するのは相当の体力が必要らしい。
「駄目だぁ、眠い・・・」
そのまま床にパタンと倒れる瑠璃はすぐに寝息をたてた。
それを見届けたかのように朱の気がふわりと瑠璃を包み込むと、ゆっくりその体はベットの上に舞い降りた。
瑠璃は気づいていない、朱雀が来ていたことを。
(大丈夫だ、我らが必ず瑠璃を守る。ゆっくり休め)
パサッと翅をひと羽ばたきさせると、朱雀も消えた。
瑠璃は朝までぐっすり眠ったのであった。
幻獣さんが守ってくれるなら、心強いなぁ。




