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Time Trip to Another World ~東雲~  作者: 蒼穹の使者
第二章 もう一度
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第30話 男と言う生き物

男というものを理解していないかも知れませんが、悪しからず。

瑠璃が出て行ってから一人、俺はドアの前に立ったまま考えていた


「私はいつも一さんに守られて甘えてばかりです。一さんの為に何も出来ていない、私は一さんの命を危険に晒している。分かっているのに一さんから離れることが出来ないんです」


瑠璃はそう言って、泣きながら部屋を飛び出していった

俺はいつだって瑠璃の事を守ってやりたいし、甘えられていたいのだ

俺の為に何も出来ていないと言うが、何かをして欲しいと思ったことはない

もし俺から願うなら、いつも側に居て欲しい

ただそれだけだ


悪魔と言う得体の知れないものと戦わなければならないのは確かだが

それは我々の運命であって、瑠璃の所為ではない

一番危険に晒されているのは瑠璃であって、俺ではない

瑠璃の気性から察すると、自分は何も出来ない役立たずだと落ち込んでいるのだろう


「まったく困ったもんだ。どう言えば伝わるのだろうな」


斎藤は参ったと言わんばかりにため息を吐きながら考える


自分は口が上手くない、左之や総司のように気の利いた言葉も言えない

やはり女は態度や言葉にしなければ分からないのだろう

かといってどう表現したらよいのだろうか


「・・・」


部屋に一人たたずんだまま、雨の音だけが大きくなっていく


そんな時、誰かがドアを叩くと同時に飛び込んできた


ドンドンッ! ガチャッ!


「っ!?」

「一さんっ!」

「なっ、瑠璃っ・・・」


振り向くとその主は瑠璃で、俺の名を呼ぶのと同時に飛び込んできた

あまりにも突然だったせいもあり受け止めきれずに、一緒に倒れた


ドカッ・・・


衝撃に耐え正面を見ると瑠璃が俺の上に乗っていた

いや傍から見たら俺は瑠璃に押し倒されているように見えるだろう

俺の腹の上に馬乗りになった瑠璃の両手は俺の顔の横にある

これはいつか何かで読んだ事がある「床ドン」と言うやつか

妙に冷静に考えている俺がいた

瑠璃はずっと泣いていたのだろう、目元は赤くまだ瞳は潤んでいた

「大丈夫か」と声を掛けようとした時だった


「ねえ、そういう事はドア、閉めてからやってくれない?」


ニヤリと笑った総司がパタンとドアを閉めるのが瑠璃の肩越しに見えた


「はっ、ご、ごめんなさい」


慌てて瑠璃が俺の上からどこうと体を起こす

すっと離れていく瑠璃の腕がスローモーションのように見えたのをいいことに

俺はその腕を左手で掴みぐいと引き寄せ、右腕で腰を支えごろりと横にした


「えっ・・・」


何が起きたか分からない瑠璃はされるがまま気づくと天井が見えていた

そして斎藤が上から見ている

頭を打たない様に一瞬にして腕から放した手は瑠璃の後頭部に置かれてあった


「は、はじっ、めさん」

「・・・」


先程まで潤んでいた瞳はゆらゆら揺れ

瑠璃は耳まで赤く染めている


「大胆だな」

「えっ」

「まさか瑠璃から押し倒されるなどとは思ってもみなかった。それも悪くはないが、出来れば俺から先にこうしたかったのだが」

「す、すみません。じゃなくって、そうじゃなくて」


私は襲いに来たのではない、話に来たんですと顔に書いてある

瑠璃なりに考えもう一度俺と話そうと勇んで来たのだろう

勢い余ってこうなってしまったと言う事も充分理解はしている 

だが・・・俺とて男なのだ 

今俺は、俺の中にある全ての理性を掻き集めている所だ


「・・・、・・・冗談だ」


ふっと笑みを浮かべゆっくりと瑠璃を引き起こした


「どうした、あんなに慌てて」

「いや、その。謝りに来たんです」

「謝る?何にだ」

「私は勝手にいろいろ難しく考えてしまって、一さんに何もしてあげられない自分が嫌になって不安になって・・・それで」


斎藤は瑠璃の言葉を最後まで聞かずにギュっと抱きしめた

こんなに泣かせてしまった事への申し訳なさと

言葉足らずの自分への不甲斐なさが込み上げてきたからだ

ここまで瑠璃を追い込んでしまったのは俺自身ではないか、と


「すまん、俺が瑠璃を追い込んだのだろう」

「違います、私が一さんの気持ちを理解していなかったから」

「俺は瑠璃が側にいてくれさえすれば、他に望むものはない」

「でも・・・」

「瑠璃の存在が俺を幸せにしてくれる。他の者ではなれない」


瑠璃にしか自分を幸せにすることは出来ない

いつも一番近くで飾らないそのままの瑠璃を見ていたい

瑠璃に伝わっただろうか


「じゃじゃ馬ですけど、いいんですか?」

「ああ」

「我儘で、頑固で、甘えてばかりですけど・・・」

「それでいい」

「・・・はい」



男と言う生き物は本能的に守られるのではなく、守ってやりたいと思うのだと

それが惚れた女なら尚更なんだと


左之助が言った言葉がなんとなく分かったような気がした


そして斎藤は心の中で、


(総司に見られたのは不覚だった・・・)


なんとか斎藤さん理性が勝ちました(笑)

「・・・、・・・冗談だ」何とか踏ん張ったぁ…。


*一部、言葉の言い回しを修正しました。

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