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Time Trip to Another World ~東雲~  作者: 蒼穹の使者
第二章 もう一度
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第29話 男という生き物と女という生き物

斎藤は瑠璃を部屋まで送る、まずは体を休めるのが先決だと

だが瑠璃は怖かった サターンが夢の中にも現れるのではないかと

あの男の前では体が痺れたように動かなくなる

心は抗えても、体は抗う事が出来ない

いくら鈍感で疎い瑠璃でもサターンの言わんとすることは分かる


(必ず迎えに来ます。それまで清いままでいてくださいね。)


「嫌だ、絶対に嫌だ。私はあんな男のものにはならない」


瑠璃は両手で自らの体を抱きしめると、ベッドの脇に座り込んだ

どうして私にはあの男の能力を解くことが出来ないのだろう

悔しくて、悲しくてどうしようもなかった

窓の外は雨脚が強まり、部屋の窓を強く叩きつける音がする


「一さん、起きていますか?」


瑠璃は斎藤の部屋のドアを叩いた


「やはり眠れないか」


斎藤は分かっていたかのように瑠璃を部屋に入れた

きれいに整頓された机、ベッド、本棚を見ると斎藤の几帳面さが分かる

自分で何でも器用にこなせる男だ

ふと函館支店の橘 花楓を思い出した

自分には出来なかった斎藤の左側をいとも簡単に制した彼女を

自嘲じちょうにも似た感情が湧き上がる


「私は一さんの役に立っているのでしょうか・・・」

「何を急に」


いつだって私は一さんに助けられてきた

一さんに支えられ、一さんに命を救われこの時代で生きている

私は何か一さんの為にしてきたのだろうか

鳥羽伏見の戦いで全員を救いたいと我を通した時も

近藤さんを助けたい一心で江戸に残った時も黙って見守ってくれた

今回だって、せっかく平和な時代で生きられたはずなのに

こうやって心配ばかりかけている


「私はいつも一さんに守られて甘えてばかりです。一さんの為に何も出来ていない、私は一さんの命を危険に晒している。分かっているのに一さんから離れることが出来ないんです」

「瑠璃・・・」

「一さんには幸せになって欲しいのに!」


瑠璃は泣きながらそう叫ぶと、斎藤の部屋を飛び出した


「瑠璃っ!」


斎藤は瑠璃を追い廊下に出たが、もう其処に瑠璃の姿はなかった

部屋に戻ったのだろう、それ以上は追う事が出来なかった

あんなに悲しい顔をした瑠璃を見たのは初めてだった



斎藤の部屋を飛び出した瑠璃は誰かに腕を引かれ部屋に入れられた

そこは左之助の部屋だった


「悪りい、つい引き込んじまった」

「・・・左之兄」


ぼろぼろ流れる涙は止められなかった、一人で泣くはずだったのに

拭いても拭いても流れる涙は底を知らないようだ


「タオル」

「ん?」

「タオルを貸してください。もうびちゃびちゃです」


左之助は瑠璃にタオルを渡しベッドに腰掛けるように言った

自分は椅子に座って黙ってただ瑠璃を見ていた

何かを問いただす風でもなく、瑠璃から話すのを待っているようだった


「ありがとございます」

「タオルか、それなら…」

「部屋に入れてくれて」

「・・・」

「わたし今、自分の事が大嫌いなんです。何もできない自分が、大嫌い!」


瑠璃は拳をギュッと握り締めてそう言った


「おい、自分の何処がそんなに嫌いになっちまったんだ?」


瑠璃は左之助に自分が今思っていることをぶちまけた

サターンに何も打つ手がない事、そして斎藤に対しての想いを


「瑠璃はまだまだ、だな」

「分かっています、重々分かっています。女としても戦士としても未熟です!」

「そこまで言ってねえぞ。俺が言いたいのは斎藤の気持ちをまだ理解出来てねえって事だ」

「・・・一さんの、気持ち?」

「ああ」


男と言う生き物は本能的に守られるのではなく、守ってやりたいと思うのだと

それが惚れた女なら尚更なんだと

瑠璃が思っている以上に斎藤は悔しくて堪らないのだと


「斎藤は瑠璃に尽くしてほしいなんて、これぽっちも思っちゃいねえさ。いつも近くで怒ったり笑ったりするお前を見ていたいんだ。それだけで男ってやつは満たされるんだよ。命を懸けて瑠璃を守ったのは、自分の命以上に瑠璃の事が大切だって思っているからだ。お前の存在そのものが斎藤の命を繋いでいる、お前の存在そのものが斎藤の心と体を守っているんだよ」


「・・・よく分かりません」

「ま、お前は女だからな。分からねえよな」


落ち着いたらもう一度斎藤の所に行ってこいと言われた

どんな顔をして私は一さんに会ったらいいのだろう


「お転婆娘てんばなくせに、そう言うところは慎重だな。どーんと飛び込んで行けよ!」


バシッと背中を叩かれた、い、痛いんですけど

そうだ、私は私!橘さんとは違う! 


「行ってきます!」

「おう」


そうだ、左之兄なら分かるかもしれない


「あ!それから」

「なんだ」

「サターンにいつも動きを封じ込められてしまうんです。抗う事が出来ないんです。だから左之兄!金縛りを解く方法を教えてください!じゃないと私、手籠(てご)めにされます!」


左之助は瑠璃の言葉にぽかんと口を開けた


「おまっ、手籠めって。それ意味分かって言っているのか」

「分かっていますよ。だからお願いしているんじゃないですか!私の体は一さんにしか、あげません!」


そう宣言しておきながら、言ったことの重大さに今更ながら気づく

左之助もまさか妹の口から直接聞くとは思っていなかった


「き、き、聞かなかった事にしてくださいっ。いやぁぁ~」


瑠璃は頭を抱えしゃがみ込む


「おっ、おう」


何故か目を逸らしながら頭を掻く左之助


外をたまたま通りかかった男が一人

肩を揺らして笑いを堪えている


「瑠璃ってすごく単純で大胆、一くん大丈夫かなぁ」

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