第26話 榊 聖
翌日、緊急会議が開かれた
その議事録が午後には一斉にメールで送られてきた
「これで死ぬ程忙しいって事はなくなるのかなぁ。あ、でも瑠璃は旅行絡みだからもう暫くは耐えるしかないのかもね」
「・・・そうだね」
「でも知ってた?CMの件。私全然気づかなかったぁ」
「みんな忙しくてテレビどころじゃなかったから」
「いいなぁ、えりも眞子も何となく仕事が落ち着きそうでさぁ」
「瑠璃、そんな顔しないの。手が空いたら手伝ってあげるから。ね?」
CMの件は上層部で大問題となっていた
多大な広告費用の請求が上がってくる
誰の許可を取って誰がこのような事をしたのか不明な点が多かった
「管理部の方で調べてみたのですが、ある社員が頻繁に特定の人物とメールのやり取りをしていることが分かりました」
「山南さん、そのある人物って誰なんだ」
「それがメールには署名も宛名も記さない徹底ぶりで、ドメインから探るしかない状況です」
「海外のサーバーを複数経由するといった徹底っぷりで、分かったのはサンタマリアという社名らしきものと、ドメインがイタリアなのではないかという事だけです」
「イタリア!?」
「ただ、ドメインがそうだからと言って本当にイタリアとは限りませんが」
「ITの世界は分からん」
大久保も土方もお手上げだった
そのやり取りをしていた社員は先月退職しており足取りが掴めなくなっている
「しかし妙だな、会社の運営上の被害はない。むしろ儲かった方だ。何が目的なんだ」
分からない事だらけだった
被害があったならしかるべき手段で
しかるべき場所で処理をすることが可能だろう
だが、現時点では損をしていない
社員の多忙さを除けば
そんなやり取りが行われているとは知らず
私は受付からの電話をとっていた
「土方です。私にですか?はい、分かりました」
「瑠璃どうしたの?」
「私に来客だって、誰だろう」
「え、知らない人?まさか甲斐さんだったりして」
「甲斐陸曹?それはないよ。取り敢えず行ってくる」
受付の人の口調が早すぎてよく聞き取れなかった
(サンタ・・・なんとかって何処の誰?)
1階のロビーに向かう途中、山崎さんに会った
「山崎さん、お疲れ様です。忙しそうですね」
「瑠璃さんこそバタバタでしょう」
「はい、今からお客様に会わなくてはいけなくて」
「そうでしたか、無理はなさらずに。また後で」
2階の医療部で山崎さんは降りた、忙しそうだ
ロビーに出て受付の人に来客の件を伝えると
隣のカフェにいると言われた
******
いつもは順番待ちのお客様でごった返すカフェが
今日に限ってまばらで、冷房の音だけが響いていた
「寒っ」
見渡すと奥に背を向けて座るスーツ姿の男性がいた
私が入るとすぐにこちらを振り向いた
顔までは、はっきり見えないが背中を寒気が走った
近づくな!戻れ!と私の本能が言っている
でも体は意に反して動く、引き寄せられるように
「くっ、・・・なに?」
振り向くことも、止まることも許さない
「土方瑠璃さん。また、お会いできて光栄です」
「貴方はっ・・・」
「榊 聖と申します。覚えてください」
「私に、何か」
「そう焦らないでください。私は瑠璃さんと二人でお話がしてみたかったのですよ」
京都出張で挨拶をした企業の人だった、ただそれだけだ
私はこの人がとても苦手だった
サターンのように冷たい気を放つから
「私は特にお話することはありません」
「そうでしょうか。これは瑠璃さんだけの問題ではないんですけれど、ねえ」
「どういう意味でしょうか」
「貴女は人間ではないですよね?いや、こう言った方がよいでしょうか再生と癒しの能力を持つ半神人」
「なっ、何故それを!」
「それぐらい知っていて当然です。私の未来の花嫁になるのですから」
「!?」
今すぐにでも此処から離れなければいけない
なのに体が動かない、榊と名乗る男は私の顎に手を掛けた
「いいですね、その表情。そそられます」
背中を冷たい汗が流れた
(助けて!誰かっ!)
この男は最要注意人物です




