第25話 忙しいんです!
とにかく忙しかった、何がって何もかもがっ!
部署関係なく、死ぬほど忙しい
副社長にいつもの如く呼ばれ出向くと
ここで聞くはずのない声が聞こえてきた
「これ以上、委託先は増やせねえって。こういうのが手抜き工事に繋がるんだって」
「だったら断わるしか無えだろうが」
「それが出来ねえから此処に居るんじゃねえか」
永倉さんだった
建築部も異常な量の依頼に対応出来なくなっていた
永倉さんと入れ替わるように部屋に入った
「勇さんと会議に出てほしい。相手の大将が英国人だそうだ」
「はい、分かりました」
「会議内容はこれだ。時間がなくて悪いな」
「いえ」
資料片手に副社長室を出ると総司と左之兄に会った
「副社長はいるの?」
「はい、今会ってきました」
「瑠璃も忙しそうだな、無理するなよ」
「はい、左之兄たちも」
「おう」
運輸部も旅行部も猫の手も借りたい程だった
そんな中、二人は添乗員の仕事もこなしている
この頃は指名も増えたらしい
一さんも税関に出かけ、戻ったら書類と格闘
目頭を抑えながらキーボードと書類をにらめっこしている
通関が忙しいという事は、えりと眞子も忙しいという事だ
そんな私も、延々と名簿の作成と座席確保に追われ
メールとファックスの両方を捌く
そして、割り込んてくる通訳の仕事
目を通すべき書類は日付ごとに山積みとなっている
「キリがないので帰ります」
どこかで諦めて帰らなければ終電も終バスもなくなる
そんな毎日を送っていた
いくら半分神の血を引いているからとはいえ、疲労には勝てない
総司が胃をさすりながらお風呂から上がってきた
つい昔の事を思い出す 今で言う結核になったことがあるからだ
「総司、こっちに来て」
総司の胃に手を当てて、気を巡らせる
「胃が荒れてるね。何か少しでもいいから胃に入れてね」
「なかなか時間がなくてさ」
そんな私達を見て、歳三兄さんが難しい顔をして言った
「なあ、おかしいと思わないか」
「何がおかしいんですか?」
「何でこんなに忙しいのかって事だ。たくさんライバル社もある、うちより価格の安いところや大手は腐るほどあるんだぞ。何でうちなんだ」
「確かにな、この頃の仕事は新規ばかりだ」
「そうなんだよね。神経使うし、お得意様には手が回らないし」
何故か分からないが異常と言っていい程の新規依頼
贔屓にしてくれているお客様に気が回らない
それに社員のモチベーションも限界を迎えている
「山崎、と言いたいところだがお前も患者が増えて大変だからな」
「いえ、可能な限り探ってみます」
そんな時、乾さんがやってきた
彼は私たちに代わり、独自でサターンの事を調べてくれている
「遅くに申し訳ない」
「いや、何かあったのか」
乾さんの話では株式会社誠の評判が急上昇しているらしい
ラジオやテレビでのCM効果だと
「ちょっと待て、広報活動はしてねえぞ」
副社長の歳三兄が言うのだから間違いないだろう
社長の大久保もメディアを使っての広報は好きではない
「誰か見たか?うちのコマーシャル」
全員首を横に振る
それもそのはず、忙しすぎてテレビなど見る暇がなかったのだ
実際にテレビを付けると、どこもかしこも誠にお任せ的なCMが流れていた
歳三は大久保に電話を掛けたが大久保は知らないと言う
総務と管理を統括している山南にも電話をかけた
「遅くにすまない。ああ、少し探って欲しい」
外部からの接触があったなら管理部門なら何か知っているかもしれない
「こんな時に、あいつが動き出したらヤバいぜ」
「左之さん、縁起でもない事言わないでよ」
乾の表情が曇る
「それが・・・」
「まさか、動き出したと言うのか」
「停滞していた台風が進路を定め、動き始めました」
「うそ!」
「このクソ忙しい時に!」
歳三兄さんの血管が切れるんじゃないかと心配になった
「あの、あまり怒らないでください。倒れたりしないか心配になります」
「あ?倒れる暇もねえよ!ったく。ふざけやがって」
「今はサターンより歳三さんが怖いよね」
目の前の事が忙しすぎて、台風の動きなど気にする暇がない
今回の台風もサターンが関与しているのだろうか
「一さん、サターンって無視できないですかね。忙しくて相手できないですよ」
「それが出来れば一番いいのだがな」
「瑠璃さん・・・」
「はい、山崎さんどうかしました?」
「(貴女が一番危険に晒されているのですよ、そんな呑気なことを)・・どうもしません」
こんな瑠璃だから目が離せないのだと、改めて認識した山崎だった




