第22話 社内研修
あれから2つのうち1つの台風は消えた
日本列島に近づく前に熱帯低気圧に変わったのだ
そして、もう一つは停滞したまま接近の予測がついていない
気象庁も困惑しているようだった
その後の新しい台風は発生していない
そんな中でも仕事は待ってくれない
眉間の皺が取れない副社長の歳三
営業と添乗に追われる左之助と総司
デスクワークではあるが通関という神経を使う斎藤
評判が呼び、外部からの患者に追われる山崎
恐ろしいほど仕事は順調だった
「最近うちの会社、絶好調だよね~」
えりがキーボードをたたきながら言う
「冬のボーナスが楽しみだね」
眞子が穏やかに答える
そんな中、久しぶりに総務から通達メールがきた
私は総務のメールを見るとつい台風を思い出してしまい
ビクッと肩が揺れてしまうのだ
「なに?社内研修かぁ、びっくりした」
「社内研修ねえ、今年はどこの支店が来るのかしら」
えりが独り言のように呟いた
「社内研修ってなに?」
「瑠璃は知らないよね、2年に1回くらいかな?各支店から2,3人の社員が選ばれて、うち(本社)で業務研修をするの。普段支店では経験できない事を勉強するって感じかな」
「へえ、そうなんだ」
だから歳三兄さんがぶつぶつ言っていたんだ
多すぎるだの、そんな暇はねえだのイライラしていた
メールには期間と研修社員の名簿も添付されていた
九州地区からは旅行部へ
関西地区からは建築部へ
北海道からは運輸部へ
一さんは北海道の函館支店にいたんだよね
函館支店からは男女1名づつで、男性が営業課
女性は通関課となっている
彼女も通関士を目指しているんだろうなぁ
なんて、呑気に構えていた その時までは…
「社内研修があるんですね」
いつも通りロビーで待ち合わせ、一さんと帰宅する
左之兄は添乗で不在中
「ああ、総務から連絡が来ていたな」
「通関課には函館支店から1人来るんですね」
「そうなのか?今日は社内の書類にあまり目を通せていなくてな」
「この頃、忙しいですもんね。私もちらっとしか見てないんですけど、営業課に男性で通関課は女性でしたよ?」
「女性か、誰だろうな」
通関士になりたがる女性が居たのだろうか
「皆いいやつばかりだ。誰が来ても問題はないだろう」
天気は比較的安定しており、夏の厳しい日差しが照りつける
社内はお客様の来社もありキンキンに冷えている
あれ以来、冷房で身体が冷えることすら怖い私は
カーディガンと膝掛けを使う徹底っぷりだった
「瑠璃って冷え症だったっけ?」
「うーん、上手く説明出来ないんだけど冷えに弱いみたい。頭痛がしたり気分が悪くなるんだよね」
「私もよ〜、冷えって女の敵よ」
私たちは3人とも膝掛けを手放せない
一日中、デスクワークをしているのだから仕方がない
そして今日から社内研修が始まる
朝礼で二人の研修生が挨拶をした
営業課には函館支店の加藤裕司さん
通関課には同じく函館支店の橘花楓さん
「瑠璃!通関課は女じゃない。大丈夫なのっ?」
「大丈夫って、何が」
えりが言うにはあのタイプの女は要注意だと
セミロングで栗毛色の緩やかなウェーブの髪
色は白く、くりくりした大きな瞳
控えめに膝が見える長さのフレアスカート
嫌味のないフローラルの甘い香水
「あれは男が一番好きなタイプよ」
「えっ!?」
「えりっ」
眞子がえりを軽くたしなめるように言うけれど
私の感は当たるのだと引かない
「何かが起きるわよ」
「何かって、何。怖いんですけど」
「斎藤さん、大丈夫よね」
「は?」
「瑠璃、大丈夫だって。斎藤さんは函館支店から本社に来たんだよ?彼女と何かあってたら、とっくにそういう仲になってるよ。でも、瑠璃を選んだんだから心配要らないって」
初めからそんな心配なんてしていなかった
一さんに限ってそんな事はあり得ない
でも、えりの言いたいことはよく分かる
彼女の外見は余りにも女性的だったから
私は基本的にスカートを履かない、香水もつけない
髪はストレートの黒髪だ
道場で鍛えられた体は筋肉で締まっている
スタイルに関しては遅れは取っていないけれど
女子力を問われると、引け目を感じるのは否めない
「要注意人物にインプットしたわ」
えりの不気味な宣言に私たちは苦笑いしか出来なかった




