第19話 闇の中で
「誰っ!?」
辺りを見渡すも、暗くてよく見えない
すると笑い声は少しづつ近くなってくる
何処から現れるのか、恐怖で言葉が出ない
「何処を見ている。そちらではない、こちらだ」
声のする方を向くと、赤く光るものが2つ近付いて来た
「っ!」
全身の皮膚ががゾワリと逆立つようだった
足音もしない、風ひとつない暗闇に2つの赤い光が見える
距離が測れない 瞬きをしたその瞬間
目の前に人が立っていた
「きゃっ!」
「ふはははっ、何故怯える」
背はすらりと高く見上げる程だ
瑠璃は男の顔を恐る恐る見上げる
短髪の髪は銀色で、その瞳は赤かった
腰には細く長い剣が一本差さっている
口角を上げた口元からは、二本の牙が姿を現した
「貴方は、サターン」
目の前の男はニヤリと笑う
「覚えていたか、光栄だな」
距離をおこうと一歩下がろうとすると、腕を掴まれた
「逃げるなと言わなかったか」
「放してください」
震えるその声に、サターンは更に笑みを深めた
掴んだ腕に力が込められると、瑠璃の腕は悲鳴を上げた
「うっ」
「痛いと言え」
「くっ」
瑠璃は男を睨んだ、絶対に思い通りにはならないと
「そうか、言わぬのか。俺はお前のその顔が堪らなく愛おしいと思う。絶対に俺の物にすると、思わせる目だ」
「嫌っ!」
ぐいとそのまま引き寄せられると
あっという間に男の腕の中に閉じ込められてしまう
その腕は異常に冷たく、息苦しさを覚えるほどだった
瑠璃は両手で男の胸を押す、しかしビクともしない
「だから言っただろう、その必死で恐怖に怯えた顔が堪らないと。俺のこの腕の中からは逃げられない、足掻けば足掻くほど自分の首を締めるだけだぞ?」
男が言うように、息苦しさが増す
頭痛も酷く、考えることが困難になってきた
息を吸っても肺に酸素が届かないように思える
「お前のその未だ交わりのない血を、俺が全て貰う」
「はあ、はあ、はあ」
浅い呼吸の繰り返しだった
サターンが何を言っているのか、分からなくなっていた
もう駄目かもしれない、意識が段々と遠くなりはじめる
私は此処で死ぬの?でも一人では死なない!
瑠璃は男の腰の剣に手を掛けた
残された力を指先に全て集めて、剣の柄を強く握りしめた
「ふんっ、お前にその剣は抜けぬ」
抜けなくてもいい、少しでもその刃を引き出せたら
ズズッ、ズズッと剣を引く
その時、
「瑠璃!」
力強い声で私を呼ぶ、それは
「左之兄っ!!」
男は何を察したのか、瑠璃を突き放した
「うっ」
ドサッ、地面に叩きつけられた
「ちっ、あいつもこの時代に居るのか!くそっ」
目の前からサターンは消えた
どれくらい時間が立ったのだろう
ゆっくりと目を開けると、遠くが煌々と光っている
私はあそこに帰らなきゃ!
上手く足が立たない、這って光の方へ進んだ
もう少し、もう少し…手を伸ばす
ぐっいと強い力で私は引き上げられた
「きゃっ、眩しい・・・」
「瑠璃っ!」
「瑠璃!」
すぐ近くから、聞き慣れた声が私を呼ぶ
ゆっくりと目を開けると、いつもの顔が私を見ていた
「おい!大丈夫か」
「・・・大丈夫、です」
声が上手く出なかった、喉がからからだった
一さんが私の手をぎゅっと握っている
さっき引き上げてくれてのは一さんなんだと分かった
「瑠璃さん、水を」
山崎さんに水をもらい、闇の中の事を話した
サターンに会った事、私の能力を欲しがっている事
「左之兄の声を聞いたとたん、消えました」
「左之さんに一度殺されてるからね。あ!あいつ気圧を操ってたよね、今回の台風って」
「サターンの仕業か」
「ありえますね」
「ちっ」
あと2つも台風がある、その度に彼は現れるの?
「瑠璃大丈夫だ!さっきので大体分かった。次からは瑠璃一人であんな暗闇には行かせねえから、安心しろ」
歳三兄さんの安心しろは、信じてもいいかな
「じゃあ一くん、後はよろしく」
総司の一言で皆がぞろぞろ出ていった
一さんと私の二人だけが部屋に残った
よく見たら一さんは私の手を握ったままだった
それでかぁ
「すまん、すぐに連れ出してやれなかった」
「一さん・・・」
一さんの瞳が揺れていた、今にも泣きそうなくらい
濃紺の瞳が私を映したままゆらゆらと
「私は此処に居ます、だから泣かないで」
ぐっと引き寄せられ、強く強く抱き締められた
一さんの温もり無しでは生きて行けない
「一さん、このまま一緒に居てくれませんか?そしたら、眠れるかも」
「・・・分かった」
私たちは同じベッドで眠った
怖くて絶対に眠れないと思っていたけれど
すぐに心地よい睡魔に襲われ、朝まで眠った
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