第18話 台風到来
7月上旬、新しい家にもだいぶ慣れた
歳三兄さんは車で出勤、他は特別な事が無い限りバスで通勤している
この光景も周りから見たら目立つんです
4人の男たちに囲まれて出勤する私って
周りからいったいどんな目で見られているのだろうか
そんなある日の事でした
「台風?」
「なんか今年は荒れそうだね」
「えり、どうしてそう思うの?」
「天気予報見た?突然、台風が3つも発生したんだよ。しかも全部こっちに向かってる」
「そうそう、今年は冷夏だって言ってたし、異常気象だね」
えりと眞子が話すように今年は台風の同時発生という
珍しい現象が起きていた
一個目の台風が明日(金曜日)の夜に最接近らしい
去年もこのパターンだったな
明日はどうなるか分からないと言う事で
全員、残業をして帰宅した
「今回は添乗もアポも入れてないからな」
「僕も明日はいつでも帰れるよ。瑠璃が迷子にならずに済むね」
そう、忘れもしない去年の台風
危なく帰宅難民になるところだった事を
「そんな事があったのか」
一さんがわずかに顔をしかめて去年の話を聞いている
山崎さんは苦笑している
歳三兄さんと喧嘩をした記念の台風なのです
翌日は朝から雲行きが怪しかった
天気予報では今回の台風も大きいようでお早目の帰宅を
としきりに言っていた
総務からのメールでは2時半までに消灯する事!との通知
去年より30分も早まっている
「瑠璃、終わった?」
「うん、このメール送ったら帰れます」
「眞子は?」
「いまパソコン落とした」
「二人とも気を付けて帰ってね」
「ありがとう。瑠璃もね!」
メールの送信が終わり、パソコンを落とした
窓の外は風が強くなりはじめたのか、木が揺れ始めていた
ん?遠くのビルの屋上に男が手を広げて立っている
はっきりとは見えないけれど、確かに人だ
「瑠璃、終わったのか」
「左之兄、あれ」
私は左之兄に指をさして見せたけど、もうその姿はなかった
世の中変わったヤツが多いからなって左之兄は言う
そうかもしれない
公共交通機関が動いているうちに私たちは帰宅した
歳三兄さんは最終確認をして、それでも雨が強くなる前には帰ってきた
早めの夕食を取り、お風呂も済ませ、あとは寝るだけ
そんな時に私は自分の体調がおかしいことに気付いた
寒い、ぶるぶる震える寒さではなくて
腰から首あたりにかけてゾクッと寒気が走るような感じの
胃が重い、こめかみが痛くなってきた 嫌な予感がする
「瑠璃さん、どうしました」
「山崎さん私またっ・・・」
突然、吐き気が襲ってきたので慌ててトイレに駆け込んだ
息苦しい、吐きたいけど吐けない 冷や汗がポタポタと落ちる
「瑠璃さん!大丈夫ですか。鍵を開けてください」
私は震える手で鍵を開けた 山崎さんの目が医者に変わる
山崎さんに支えられながらリビングのソファーに横になった
部屋から医療セットを持ってきて、脈、血圧、熱を測る
「・・・おかしいですね。体温が低い」
「はぁ、はぁ、寒い、です。息苦しい」
肺の音も問題はない、体温と血圧は低い・・・原因は
「部屋で体を温めましょう。動けますか?」
瑠璃は無理だと首を横に振る
山崎は「失礼します」と、瑠璃を抱き上げ、部屋に向かった
瑠璃をベッドに寝かせ、毛布を掛けた
夏だと言うのに瑠璃はぶるぶると震えている
山崎は瑠璃の状況を土方らに知らせた
「瑠璃はいつから具合が悪かったんだ」
「分かりません。とにかく体温が低いんです。温めなければ」
瑠璃は眉を寄せ肩で息をしている 唇は紫色に変わっていた
「俺が」
斎藤はそう言うと、瑠璃の手を取りすぐに気を送り始めた
暫くすると、呼吸は元に戻り唇も薄いピンク色になりつつあった
しかし斎藤の額からは汗が流れている
「斎藤、おまえ大丈夫か」
「手強い」
手強いと言うほどに瑠璃の状態が悪いと言う事なのだろうか
「斎藤さん、一旦止めてください」
斎藤は一旦気を送るのを止めた、斎藤自身も息が乱れていた
「一くん、どうなの?」
「瑠璃は闇の中に居ます。とても寒い場所でした」
「どういうこと?」
斎藤が言うには瑠璃は深く暗い闇の中に居ると言う
気を送っていたのではなく、そこから連れ出そうとしていたのだと
「深いのです。瑠璃の居る場所が深くて、手が届きませんっ」
「・・・さん、・・は、じめ、さん」
一さんが手を伸ばす、私も手を伸ばすけど届かない
体が重くて飛ぶことが出来ない
「ふはははっ、そう足掻くな。何故逃げようとする」
「誰っ!?」
闇の向こうから声がした、その声を私は聞いたことがある!




