第17話 引っ越し
ついに、引っ越しの日がやって来た
今住んでいる所から車で30分と、少し遠くなった
バスが主な交通機関になる
ギリギリまで使っていたものを段ボールに押し込み
引っ越しトラックに乗せた
貴重品だけ持って歳三兄さんと車で追いかけた
「立派過ぎる!」
「おい、ボーッと突っ立ってねえで早く入れ」
実物を見たのは今日が初めてだ
車が4台停められるシャッター付の駐車場
玄関は外国かっ!と突っ込みたくなるほど大きい
鍵穴が3つもあるし!?
「瑠璃、こんな所で何してるの?危ないでしょ」
「あ、総司・・・」
わっ、2階の各部屋にはベランダが付いている
お城みたい・・・
「おっと、瑠璃か。びっくりすんじゃねえか」
「あ、左之兄・・・」
みんな普通に入って行く、驚かないの?
大きな玄関のドアを開ける
ウォークインクローゼットの靴収納スペース完備
姿見鏡が異様に大きい
「瑠璃さん、どうしました?トラック来ましたよ」
「あ、山崎さん・・・」
ドカドカと引越し業者の人たちが入って来た
2階に続く階段が緩やかなカーブを描いている!
ここ何処?日本語通じるよね
「瑠璃、そこに居るとぶつかるぞ」
「へ?あ、一さん・・・」
「ん?どうした」
「この家、立派過ぎやしませんかっ!!」
家賃どうなっているんだろう
怖いのですけど!平凡なOLには払えないよ!
「確かに立派だな」
「え、それだけですか?」
「それだけ、とは?」
もっと「わぁ、凄えなぁ」とか「なんだこの家!」
とかそう言う感じの表現はないのですか?
「いえ、自分の部屋を片付けてきますね」
「ああ」
みんな、普通に溶け込み過ぎですっ
まあまあ片付いたので
さっき外から見上げていたベランダに出てみた
「わぁ」
街全体の景観が統一されていて
建物も高すぎず、低くすぎずで綺麗な街並みが見えた
「ああっ」
下を見たら庭があった
手入れの行き届いた芝生が青青としている
何これぇ、お姫様になったみたいじゃない
「はぁぁ」
思わずため息が出てしまう
「おい、瑠璃大丈夫か?」
「あ、左之兄。何?大丈夫かって」
「いやさっきから、あっ、とか、わっ、て言う声しか聞こえねえからよ。何かあったのかと思ったぜ」
確かに、まともな言葉を口にしていないかも
左之兄にどれ程に驚き感動しているのかを伝えた
ケラケラ笑っている
「でも一つ不安があるんです」
そう言うと、左之兄の顔がキリリと締まった
「なんだ、遠慮なく言えよ」
「ここの家賃ですよ!高いですよね?私に払えるんでしょうかぁ。お給料全部持って行かれるなんて事ないですよねっ」
「おまえ、不安って・・・そこか?」
「・・・え?」
左之兄は私の頭をぐしゃぐしゃと乱暴に掻き乱す
「瑠璃のそういう所が可愛くて仕方ねえんだよっ」
「は?」
左之兄はにこにこ笑顔で行ってしまった
払えそうなのかどうか教えてくださいっ!
節約生活の始まりだな・・・
「瑠璃」
「はいっ。あれ?」
振り向いて部屋を見渡しても声の主は居ない
あれ?一さんの声が聞こえた気がしたけど
「何処を見ている。こっちだ」
「え!」
いつの間にか一さんがベランダに立っていた
「一さん気づきませんでした、いつ入って来ました?」
「いや自分の部屋から来たのだが・・・」
ふと見渡すと、右隣は仕切られてるけど
一さんの部屋側のベランダに仕切りがない
「ベランダが繋がっているんですね!なるほど」
「・・・やられたな」
「何がやられたんですか?」
「ベランダが繋がっていると言う事は、自由に行き来が出来ると言う事だ」
「はい、そうですね」
「土方さんなりに気を使ったのだろう」
なるほど・・・っ、と言うか、恥ずかしいんですけど
改めて、こっそり気を使われるのが無性に恥ずかしい
「瑠璃、顔が真っ赤だぞ」
「一さ~ん、今は言わないでください」
「なっ」
つられて斎藤も赤くなる
ひと段落して、リビングに集合した
でも、歳三兄さんの顔を見たらまた思い出してしまって
再び赤面する自分が嫌になる
「瑠璃、どうしたの具合悪いの」
「総司・・・わざと聞いてるでしょ」
「酷いな、妹の事心配しているんだけど。顔、赤いよ」
「だって!歳三兄さんがっ」
危ない、ベランダの事言ったら余計に面白がられる
急いで口を閉じた
「あ?俺がなんかしたか」
「・・・はい」
としか言えなかった
中途半端な私の返事が悪かったらしく
「兄貴、何かしたのか」
「歳三さん何やっちゃったんですか」
「土方さん」
と、左之兄、総司、山崎さんから問い詰められている
一さんと私は素知らぬふりをしてお茶を飲む
「俺は何もしてねえぞっ。おい、瑠璃!」
「私は大丈夫ですから、もうその件には触れないでください」
「おいっ!」
きっとこういう感じで日々は流れていく
ドタバタと楽しく過ぎていく
そう信じていたかった




