第15話 能力の変化
京都出張後から体調がいまいちだった
戻って直後は悪夢を見ていたし
最近はあの時ほどの夢は見なくなったけど
あの嫌な声だけが夢で聞こえる日もある
「ゆっくりと痛ぶってやる」
「必ずや俺の物にしてみせる」
そんな日は決まって体の何処かの調子悪い
今朝は胃が痛い
引っ越しの件とか、仕事の事で忙しいから
そのせいだと思いたい
私って意外とメンタルが弱いのかもしれない
「朝飯食わねえのか」
「うん、胃の調子がいまいちで」
そう言うと、歳三兄さんはすぐに眉間に皺を寄せた
「大丈夫ですよ、ちょっと痛いだけです」
兄たちは病気もしない強靭な身体の持主だ
おかしいな、私もみんなと同じ半神人
違いは性別くらいだと思っているんたけど
「不公平ですね、皆どうしてそんなに丈夫なんですか?男か女かの違いしかないのに・・・」
つい愚痴るように言ってしまう
「お前が弱いからじゃねえよ、優しいからだ」
「・・・?」
「俺達の分まで請け負ってしまってるんだろ」
そう言って、歳三兄さんは優しく笑った
自分は癒やしの能力者なのに自分の事となったら
どうも上手くいかない なぜだろう
以前はそんなことなかった気がする おかしい
「でも、最近おかしいんです。治癒と再生の能力を持っているのに、何故か自分の事となると上手くいかないんですよ。今朝も起きてすぐ掌を当ててみたんですけど、力が入らないというか」
「・・・あれだろ、昔もぶっ倒れた事があっただろ。その時は斎藤や俺たちがお前を助けた。お前は他人は治癒できるが、お前自身は俺たちじゃなきゃ駄目なんだ。なんでも自分で出来てしまったら、お前一人で生きなきゃなんねえぞ。世の中上手い具合に出来ているんだ。ほら、来い」
そう言うと、歳三兄さんは私をソファーに座らせて
痛む胃に掌を当ててきた
歳三兄さんの蒼の気がじわりと中に入ってくる
すると徐々に痛みは退いて行った
「あ、痛み止まりました」
「な?」
薄々気づいてはいたが、瑠璃の能力は以前と違っていた
体調を崩すことも増えてきた気がする
瑠璃は自身を含め全てにおいて再生と治癒が可能なはずだ
何かが狂いだしたとしか思えない
やはりサターンの転生が影響しているのだろうか
(早く奴の存在を確かめなきゃならねえな)
瑠璃に聞こえないよう、心の中でごちる歳三だった
一日無事に仕事も終わり、いつものように一さんとロビーで待ち合わせた
「お疲れ様です」
「ああ」
「お部屋の片づけ進んでいますか?」
「もともと荷物は少ないからな、なんとかなるだろう。そっちはどうだ」
「私の分は目途はついています。でも歳三兄さん書籍が多いから、どうなることやら」
引っ越し当日にバタバタしないよう願うばかりだ
いつものように駅の改札を抜けてホームに向かっていると
突然、男の人に声を掛けられた
「土方瑠璃さん?」
「・・・は、い。あっ、えっと京都でお会いした」
「はい。覚えてくださっていたんですね。光栄です」
「どうして此方に?」
「此方に支店が出来ることになりまして、その手続きで」
「そうでしたか」
相変わらず冷たい空気を運んでくる人だと思った
首の回りがぞくりとする
「では、また」
軽く会釈をすると男は駅の外へ消えて行った
「瑠璃、さっきの者は」
「あっ、えっと。京都出張の時に社長と挨拶を交わした関西の貿易会社の人です」
「そうか」
「・・・はい」
うっ、また胃が痛くなってきた それに寒気まで
嫌な汗がこめかみを伝った
「瑠璃、どうした。顔色が悪いが」
「すみません、ちょっと気分が悪くて」
私はホームの空いたベンチに腰かけた
隣で一さんが背中を擦ってくれている
「すまん、公共の面前では強い気を送ることが出来ん」
「大丈夫です。さっきより楽になりましたから」
こんな場所で一さんの朱の光が出たらパニックになる
私は自力で呼吸を整えた
「次の電車に、乗ります」
「分かった」
なんとか自宅マンションまで帰ることが出来た
一さんは歳三兄さんが戻るまで居てくれると言った
「すみません、仕事帰りに」
「気にするな。俺がしたくてしているだけだ」
横になった私に一さんは自らの気を流してくれた
一さんの気はぽかぽかして気持ちがいい
いつの間にか眠っていた




