第13話 サターンの目的
乾さんの話は衝撃的だったけど
私が狙われるらしい事はもっと衝撃的だった
「あの、なんで私なんですか?」
「瑠璃殿の持つ能力です。サターンは貴女の再生と治癒の力を欲しがっているのです。貴女の能力は如何なるものも治癒できるからです」
「如何なるもの?」
「はい、人だけではない。この世の生あるもの全てを」
瑠璃の能力は確かに人だけではなかった
大阪で荒れ果てた山道を元の姿に戻した
灰と化した夢魔の魂を浄化した
「もし、瑠璃の力がそいつに、サターンに奪われたらどうなる」
「傷ついた人々や景色はサターンの思い描く世界に塗り替えられるでしょう」
そうやって、世界を自分色に染めて行くのだと乾は言う
「サターンは何処にいる」
「土方殿、まだ特定出来ておりません。彼がこの時代でどのような姿をしているのか分からないのです」
「人間の姿をしていたら区別がつかねえな」
「どうやって瑠璃を守ったらいいの」
「・・・」
「何だか、すみません」
「瑠璃が謝る必要はない。皆望んでこの様な能力を得たわけではない。それに瑠璃の事は必ず守る故、案ずるな」
また、戦いが始まるの?
また、たくさんの人が傷つくの?
どうしてこんな能力を持ってしまったの?
膝の上に置いていた手を固く握りしめると
一さんがそっと手を重ねてきた
「大丈夫だ」
その一言で少しだけ、手の力が抜けた気がした
その後、乾さんは引き続きサターンについて調べ
分かったことは直ぐに知らせると言った
「で、何で君一人だけなの?」
「そうだな、神田と百合はどうした」
「おあ、百合殿は身重な体なので時空を越えることは出来ないのです」
「えっ!?身重って、お腹に赤ちゃんがいるの!?」
「はい」
「まさかっ、神田のっ!」
「はい」
サターンの話にも驚いたけど
百合ちゃんの妊娠には更に驚いた
二人は夫婦になったんだ 驚いたけど嬉しかった
「一くん、先越されちゃったね」
「っーー!」
何故か一さんは顔を真っ赤にして総司を睨んでいた
総司が何か言ったんだろうな
本当に総司は一さんの事が好きだよね
歳三兄さんは山崎さんに連絡をしていた
また厳戒態勢を敷くことになるのかな
「まったく、只でさえ忙しいってのにサターンだか何だか知らねえが、厄介な仕事を持ち込みやがって」
激しく眉間に皺を寄せ悪態をついていた
確かに、あの頃は悪魔を倒す事が全てだったけど
今は会社があり生活あり、する事はたくさんある
「サターンの野郎、見つけたらタダじゃおかねえっ!二度と復活できねえようにしてやるからなっ!!」
歳三兄さんを見ていたら大した事ではないように思える
会ったらコテンパにしてやるぞ!ばかやろう!
そんな気持ちになった
「おいっ、何で笑ってやがる」
「だって歳三兄さん、大変そうだなって」
「はぁ。どいつもこいつも」
落ち込んでも仕方がない
運命を恨んても仕方がない
歳三兄さん、左之兄、総司、一さん、そして山崎さん
彼らと一緒なら何とかなる
いや、絶対に何とかしてくれる
だから私は自分に出来ることを精一杯しよう
「忙しくなりますねっ」
「ちっ」
ちょっと気分が上がってきた
サラリーマンとOLの悪魔退治
想像したらちょっと笑えた
乾さんが去った後、総司が腕組みをして悩んでいた
「総司どうしたの?」
「うん、歳三さんは仕事が忙しいから心配なんだよね」
「何が?」
「だって、帰りが遅いとか普通だし、瑠璃の事ちゃんと守れるのかなって思ってさ」
「確かにな。じゃあ俺の所に来いよ」
「おい左之助、何でそうなるんだよ」
「俺にあいつの力は通用しねえからだよ」
「お前だって添乗で何日も家空けるだろうが」
気づくと三人が何か言い争っている
一さんはこんな時は知らない振りをするんだよね
兄弟喧嘩は関わらない方がいい
私は一さんと残りのコーヒーを飲む
「昔はみんな一緒に住んでいましたからね〜」
「ああ、懐かしいな」
すると突然、歳三兄さんが
「・・・その手があったか」
と、呟いていた
その手って、なんの手?
私たちはカフェを後にした




