第8話 朱雀の目覚め
また夢を見ていた
何故か傷ついた私は布団に横たわり眠り続ける
体はお日様に当たっているようにぽかぽかと温かい
(・・・瑠璃)
誰かが私の名前を呼ぶ
もう少し眠っていたい、でも起きなければいけない
(会いたかった)
私を朱い光が包み込むと体がふわりと浮いた
反射的に何かを掴もうと手を伸ばす
誰かの手が私の手をしっかりと握った
そう言えば医療部で休ませてもらっていたんだ
そう思った瞬間、目が覚めた
「・・・あ、よかったベッドの上だ」
体が浮いたから、落ちてはいないかと一瞬焦った
でも、私の左手は誰かにぎゅっと握られたままだ
山崎さんが脈でも診ているのだろうか
そう思い、首だけをそちらに向ける
「・・・えっ!は、はじっ!?」
私は真剣な眼差しの一さんとバチッと目が合った
手を握っているのは間違いなく一さんで
私の隣に座っているのも何を隠そう一さんで
ちょっと、いや、かなり混乱しています
「起きたか」
「はい」
「具合はどうだろうか、目の前で突然倒れた」
「えっと、大丈夫みたいです。あの、ずっと此処に?」
「いや、仕事が終わってから此処に来た」
ゆっくりと静かに語る口調はあの頃の一さんと変わりない
私の左手は未だ繋がれたままで
そこから一さんの気がじんじんと伝わってくる
そうだ、私はいつも一さんに治癒してもらっていた
「ありがとうございます」
一さんは頬を少し上げて笑った
私にしか見分けられない、一さんの優しい笑顔
記憶が蘇ったのではないかと、錯覚してしまうほどだった
「すまない。随分と長い間、寂しい思いをさせてしまった」
「え?」
一さんの左手が私の頬を撫でながら
顔にかかった髪をすく 温かい掌、優しい眼差し
そして私が、その瞳の中に映っている
「瑠璃」
「!!」
確かに一さんはそう言った
驚きのあまりに、私はベッドからガバッと起き上がった
「えっ、あ、今、名前・・・」
「瑠璃、会いたかった」
一さんは正面から私を抱きしめた、そして肩口で
「もう二度と瑠璃を離さん」
何か私も言わなくては、でも言葉が見つからない
嬉しくて、死ぬほど嬉しくて言葉にならなかった
それでも一さんに私の想いを伝えたくて
「一さんっ」
ただ名前を呼んだ 一さんの背に自分の腕を回して
ありったけの力を込めて、ぎゅうぎゅう抱きしめ返した
夢じゃないよね?そんな不安が一瞬頭を過ぎる
「言っておくが、夢ではない」
「え、なんで・・・わかっ」
「瑠璃の考えている事など容易い事だ」
バレている、でもそんなに私の考えは単純なのだろうか
「冗談だ」
そう言って、ふっと笑う一さん
一さんの冗談はとっても貴重なんですよ!
もしも穴があったら、叫びたい
『一さんが私の事を思い出しましたぁぁぁ!』と
ドアの向こうに二人分の気配を感じる
山崎さんと歳三兄さんだ
でも、もう少しだけ余韻に浸らせてください
お願いします
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「山崎、俺たちはどうしたらいいんだ?」
「そ、そうですね。出るタイミングを逃しましたね」
「まさかあいつら此処でっ・・・!?」
「なっ!何をばかな事を言っているんですか!ないですよ!ないです!!」
「・・・おまえ、けっこう面白いな。くくくっ」
「揄いましたね!!」
歳三は二人のあの甘ったるい空気が嬉しくもあり
とてもむず痒く、見ていられなかった
そんな歳三の隣に山崎がいた
むずむずする気持ちを単に山崎で誤魔化しただけなのだ
「見てらんねえから、あいつにも連絡しとくか」




