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Time Trip to Another World ~東雲~  作者: 蒼穹の使者
第二章 もう一度
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第7話 朱の光

京都出張から戻って以来、夢を見るようになった

夢の内容はいつも似たようなものだった


ザッ、ザッ、ザッ

2つの赤い目、口から覗く牙、真っ白な髪

ザッ、ザッ、ザッ


斬っても斬っても生き返る

私の体は返り血で汚れている

血で汚れてしまった刀は使い物にならなかった


「はぁ、はぁ、はぁ」


皆は何処に居るの?

その時、後ろを誰かに取られた


「くうっ」


片腕で首を締められる、足掻いても外れない


「そう焦るな、じっくり可愛がってやる」


そして、もう片方の手に持った(つるぎ)

私の右脚をゆっくり切り裂いた


「んああっ!ううっ!」

「ははははは」


男の甲高い声が耳元で聞こえる

その声がだんだん遠くなると、朝になっていた


はっ!ゆ、夢・・・

自分の右脚を手でそっと撫でてみる

なんで、あんな夢


かれこれ1週間こんな状態が続いた

当然、寝不足だった

寝不足よりも夢なのに朝起きると

本当に戦っていたかのように、体は疲弊していた


「瑠璃」

「・・・」

「瑠璃!」

「はいっ!」

「今日は休んだらどうだ、体調が悪いだろ」

「大丈夫ですよ、今日頑張れば明日は休みですから」

「じゃあ俺の車で行け、ちょっとでも具合が悪かったら山崎の所に行くんだ。分かったな」

「分かりました」


瑠璃の悪い癖は無理を通す所だ

どんなに俺が言っても聞きやしねえ

妙なところが似てしまったもんだ 


会社に行ってしまえば体調不良なんて忙しさで紛れる

いつもと変わらない、そう自分を騙していた

でも、今日はなかなか誤魔化せなかった


そろそろ体が限界を迎えたみたい

キーボードを打つ指に力が入らないから


「すみません、体調が悪いので医療部行ってきます」

「大丈夫?付いていこうか?」

「ううん、忙しいのに悪いよ。それにエレベーター乗るだけだから大丈夫。ありがとう」


えりの好意を丁寧に断り、フロアを出た

あと数歩でエレベーターなのに頭痛と耳鳴りがする 

視界がぼやけ始めて、目の前を火花が散るように

パチパチとそれは広がっていった ヤバいかも

早くエレベーターのボタンを押さないと

手を伸ばすのと同時に扉が開いた


「おい、どうした!大丈夫か?しっかりするんだ」


誰かが私をキャッチしてくれたみたい

でも、体を起こす力は残っていなくて

ものすごく眠くて、私は目を閉じた


********************************


耳元でカチャカチャと音がしている

体は相変わらず動かないけど、辛くはない

私はベッドに寝かされているんだと分かった


「気が付きましたか。もう大丈夫ですから」

「あれ、山崎さん。私、どうやってここ迄来ましたか?」

「斎藤さんが、運んで来てくれましたよ」


一さんが助けてくれたんだ


「どうしたんですか。かなり疲れていますが」


山崎さんにここ最近の夢の話をすると

いつもクールな山崎さんが眉間に皺を寄せた


「どうして今になって夢魔の夢を。とにかく寝ないと駄目ですよ。ここのまま休んでください。必要なら薬を出しますが」

「いえ、大丈夫です。たぶん寝れると思います」


ここなら眠れそうな気がした

山崎さんも近くにいるし、今は昼間だから



退社時刻が近づいても戻って来ていない様だった

左之も総司も今日は終日出ている

土方さんに知らせるべきか、いや山崎が連絡しただろう


彼女を抱き上げた時の体の重み、固く閉じられた瞳を

俺は知っている、前にもこの様な事があった


そして俺は帰りにもう一度、医療部に寄った


「斎藤さん、どうしました?」

「いや、その助けた手前気になってだな・・・」

「瑠璃さんはまだ眠っています。どうぞ」


山崎は俺に部屋に入れとドアを開けた

俺が入ってもいいのか?


「斎藤さんなら彼女を救えるかもしれない」

「どう言う意味だ」

「それは・・・僕の勘であり、願いでもあります」


俺は静かに彼女が休んでいる部屋に入り

ベッド脇に置かれた椅子に腰を下ろした

自分と彼女の気配しかない空間は何故か心地よかった

気がついたら俺は、心音が聞こえそうな程

近くで彼女を見ていた

時折、ピクリと動く指と瞼 僅かに寄せる眉

その姿は放っておくと、遠くに行ってしまいそうだった


「行くな!俺は此処に居る!瑠璃っ!」


彼女の手を握り締めてそう叫んでいた


「・・・さ、ん。はじめ、さん」

「!?」


俺がずっと、ずっと前から聞いていた声

この先もずっと聞いていたいと願った声だった

俺は、俺はどうして忘れてしまっていたんだ

こんなにも大切な、愛おしい者の存在を


「瑠璃、会いたかった」


言葉が瑠璃に届くようゆっくり、はっきりと紡がれる

斎藤の手から瑠璃へ(あか)の気が流れ込み

慈しむようにゆっくりと瑠璃の体を覆った


やっと、やっと斎藤が瑠璃の事を思い出した

山崎は胸の奥がツーンとなるような

泣きたい位、嬉しかった


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