第2話 朝礼、そして…
週末は本当にあっという間に過ぎた
月曜日です!!
今日の始業はいつもより30分早い
それは、朝礼があるからです
「おい、そんなに緊張するな、俺にまで伝染するだろうが」
「で、伝染するわけないでしょう」
「営業部長として俺が挨拶と紹介しなきゃなんねえんたぞ。お前のガチガチが影響するんだよっ」
「私の事は気にしないか、運営課の方は見ないでください」
「運営課にも新人が入るだろう」
「・・・ぬわぁぁ、もう、その話は止めましょう」
「おまっ・・・」
昨夜は当然の如く眠れなかった
何度寝返りとため息を吐いたことか
いつもより2本早い電車で出勤した
「おは、ようございま、す」
情けないくらい声が出なかった
えりと眞子がまだ体調が悪いのかと心配するくらいだ
8時半朝礼が始まると、私は後方に並んだ
自分の心臓の音が耳の後ろから聞こえる程に
激しく打っている 隣の人に聞こえるかもしれない
ドクっ、ドクっ、ドクっ、ドクっ
兄の今期目標についての説明が終わり
異動者の紹介が始まると、彼らは前に1列に並んだ
その中に、一さんの姿を見つけた
・・・っ、
息を呑んだ
スーツに身を包んだその姿は遠くからでも分かる
軽く握られた拳、真っ直ぐに伸びた背筋
ああ、一さんだって確認した
「通関課の斎藤一と言います。宜しくお願いします」
挨拶が終わると、拍手で迎え入れる
私はもう泣きそうだった
泣くわけにはいかない、ものすごく踏ん張った
ああ、生きている 私も一さんも生きている
そう思ったら少しだけ救われた気がした
心の中で彼の名を呼んだ
(一さんっ、またお会いできて嬉しいです)
そして、席に戻った
3年振りの本社は特別変わりはなかった
社員は俺がいた頃より随分増えたようだが
大久保さんや土方さんの期待に反しないよう
力を尽くそう、そう思って挨拶をした
(一さん)
また、あの声が聞こえた そして
(またお会いできて嬉しいです)
そうはっきりと聞こえたのだ
此処に居るのか、俺が無くしてしまった
記憶の中の大切なものが
運輸部の社員を一通り見回したが
それが誰なのかは分からなかった
そして、俺は自分の所属する通関課へ行った
通関業務は間違いが許されない
輸出入の法に直接触れる所だ
その為か、パーテーションで区切られている
気を集中させると、左之や総司の気が伝わる
あの者たちも相変わらずだな
そう感心していた時だった
穏やかで懐かしい気が俺の身体に伝わってきた
心の奥からじんわり広がる温もり
張り詰めた神経が解されるようなものだった
(これは・・・)
暫くすると総司がやって来た
「運営課のメンバーを紹介するよ。彼女たちが通関書類を作っているからさ」
「ああ、そうだな。頼む」
今後の業務を円滑にするためには
運営課との協力は不可欠だ
「あ、土方くんお疲れ様」
「お疲れ、今後の通関は彼が仕切ると思うから挨拶しといた方が良いと思ってさ」
「そうですね!結城えりと申します」
「江口眞子と申します。宜しくお願いします」
「斎藤です。宜しくお願いします」
「あれ、お転婆娘な妹は何処に行ったのかな?」
「お転婆娘ちゃんは医療部へ通訳に借り出されました」
「そう」
総司は敢えて瑠璃の名は出さなかった
ノリのいい結城も名は出さずに応える
それは総司の思惑通りだった
「残念、妹はね旅客担当だから通関課とはあまり関わらないんだよね。ま、そのうちでいっか」
「あんたの妹も同じ部署なのだな」
「そ、まぁ、会ったら宜しく頼むよ」
「ああ」
週末からの瑠璃の落ち着きのなさは
ここ最近で一番のものだった
ちょっとだけ手を貸してあげたかった
しかし、なかなか上手くはいかない
そんなもどかしさを抱きながら
総司は仕事に戻った




