第1話 人事異動
会社の素敵な庭で花見を開催
永倉さんの音頭で新たな期も頑張ろうと景気づけ
3月もいよいよ末となった金曜日
「瑠璃っ、見て!人事異動が出てる」
えりたちと人事異動が張り出された掲示板を見る
昇進した人、部署移動した人、そして転勤した人
その中に確かにあった、ずっと心に想っていた人
通関課課長 斎藤一
その瞬間、自分だけ時が止まったよう
周りの人の声も聞こえないくらいだった
「瑠璃?おーい、もしもーし!」
「・・・っ、あ、はい!」
「どうしたの、どっか行ってたみたいだけど?」
えりの声で何とか自分を取り戻した
来週から、一さんが来る 運輸部・通関課に!
一瞬、心臓が止まったかと思った
ぎゅーっと握り締められたように苦しくて
大声で叫びたい気分だった
嬉しさと、不安が同時に込み上げてきて
とてもこの感情を抑えられそうもない
「ごめん、ちょっと席外すね」
「具合でも悪いの?」
「あ、ちょうどアノ日で貧血気味なの」
「あら大変、無理しないでね」
「ありがとう」
所属長に許可をもらい医療部の休憩室に行った
どうよしよう どうしよう 一さんに会える
でも、たぶん記憶がない どんな顔して会うの
通関って、私の仕事とは縁が薄い
しかもパーテーションに区切られた異空間
「はぁぁぁ」
あっと合う間に医療部のドアの前に着いた
今は診察中だから、邪魔しないようにしないと
受付で社員証IDカードを出し部屋を借りた
8階のリフレッシュルームもあるけど
私には少し薬品の匂いがするこの部屋の方が落ち着く
ため息を抑える手段を無くしている私
「ふぅ、はぁ、だぁぁ。ダメだ私。ぐはぁぁ」
まるで中学生の初恋の発作に似ている
まだ姿を見ていないのに、名前だけでこの状態だ
月曜日からどうするの!
「おぇぇ、考えただけで吐きそうっ」
もう心の中だけでは対処できずに
口から出る言葉と来たら、こんな感じて
私、超危険人物だよ
「まさに監察対象だわ・・・」
「何が監察対象なんですか?」
「うわぁぁ!!や、山崎さん。びっくりしたぁ」
「すみません、瑠璃さんのID番号が送られてきてので。どうしました、具合悪いんですか?」
私はこんな個人的な事で迷惑を掛けてしまった事を
今、とても反省している
「そうでしたか、少し精神のバランスが崩れたのでしょう。という事にしておきますから、休んでいて下さい」
「本当に申し訳ありません。情けないですね」
「いいんですよ」
山崎さんは他の誰より此処を頼ってくれて嬉しい
そう言い、微笑んだ
それこそが医療部の仕事なのだと言ってくれた
結局私は2時間もお邪魔したのです
皆さん、本当にごめんなさい!
「お疲れ様でした」
「瑠璃、週末はゆっくり休むんだよ」
「そうそう、お兄さんに甘えてさ」
えりと眞子には心配をかけてしまった
あれから、何とか仕事をこなし今に至る
仕事をしていれば、まだ精神はマシな方
会社を出て駅に向かう時も
最寄り駅から自宅マンションに戻る時も
どうやって帰ったのか記憶がない
でも、普通に帰り着いた
はぁぁぁ、心臓が持ちそうにない
考えないように無心に夕飯を作った
「瑠璃」
「はい」
「これ、何人分だ」
「へ?・・・あ」
無心に作ったので2人では食べ切れない量に
歳三兄さんが他の二人を呼んだ
「おっ、美味そうだな」
左之兄はそう言ってたくさん食べてくれた
「瑠璃さぁ、動揺してるでしょ」
「えっ!?」
総司に思いっきりバレている
いや、たぶん皆にもバレているんだろう
だったらもう、開き直ってしまえっ!
「だってぇ!人事異動の見たら、この辺がぐちゃぐちゃなんですよ。はぁぁー、助けてください」
瑠璃は胸を擦りながら、キィキィ言っている
「おまえ、いても通りでいいだろ。何もそんなに気負うことはねえよ。普通にしとけ」
歳三兄さんは笑いながらそう言うけど
「普通が分からないから困ってるんです」
口を尖らして瑠璃は訴える
「まあ、仕方ねえよな。1年以上会ってない上に声も聞いてない、ましてや記憶がないかもしれねえしな」
「・・・です」
「でも、月曜は待ってくれないんだからさ」
総司が言うのはもっともだ
月曜日は待ってくれない!どうしようっ!
「瑠璃、歳三さんみたいになってる」
総司に指摘されて、反射的に眉間に手をやる
それを見た歳三兄さんは
「おい、なに眉間を触ってるんだ」
「あっ・・・」
総司も左之兄もケラケラ笑っている
そう、私は私だ 取り繕う必要はない
でもっ!心はその日まで落ち着かないと思う
「月曜まではきっとこんな感じだから、ごめんなさい!先に謝っておきますっ」
「しょうがねえな」
一番被害を受けるのは歳三兄さんだろう
週末はすみません




