第65話 桜の木の下で
時間が経つのはあっという間で、もう3月に入った
決算月と言う事もあり各部署ピリピリしている
とは言え、平社員はそうでもなかったりする
一番ピリピリしているのは、歳三兄さんだろう
そんな中、全社員の健康診断が順に
2階の医療部で行われていた
「はぁ、ダイエット作戦失敗」
「えり痩せなくてもいいと思うけど」
「あんたと違って見えないところに脂肪蓄えてんのよっ」
「永倉さんとトレーニングしたらいいのに」
「ちょっと眞子っ。永倉さんだって色々と忙しいんだから」
永倉さんと言うだけで顔を赤くするえりがとても可愛い
告白すればいいのに
えりからしないとこの恋は進まないよ
だって、永倉さんああ見えても純粋で奥手なんだから
「人の恋路は気になるものよね」
「もう、瑠璃までっ」
そして午後、私の順番が回ってきた
そう言えば私の血液型なんだろう
「瑠璃さん体調に変わりはありませんか」
医師である山崎さんの問診を受けている最中
「私、自分の血液型知らないんですけど。分かりますか?」
「血液型、ですか・・・」
「何か問題でも?」
「実は僕もそうなのですが、我々は特殊なようで」
「・・・はい」
「何型にも属さないんですよ。だからごまかすのが大変で」
どうも、人間と神と両方の血が混ざると面倒らしい
あの時代は血液型とか知らなくてよかったしね
幸い私たちは健康だし何かあれば山崎くんや私の治癒力で何とかなる
「山崎さん、大変ですね」
「他人事ですね」
「ふふっ、すみません」
取り敢えず問題なしと言う事でフロアに戻ってきた
「よぉし!じゃあ決まりだなっ。よろしくうっ♬」
この声はごきげんな永倉さんの声だ
何がいったい決定でよろしくうっ♬なんだろう
「おっ、瑠璃ちゃん。健康だっかぁ?」
「永倉さんどうしたんですか。ご機嫌ですね」
「おう、桜前線上昇中で花見決行だぁ」
そうか、花見の事で盛り上がっていたんだ
もうそんな季節になるんだ
私が目覚めてから1年が経った、色々あったなぁ
「メンバーは誰ですか?」
「おう、基本的にはバーベキューしたやつらだ。後は是非ともってやつが入ればそいつ等も入れるけどな」
「場所取り大変そうですね」
「場所は腐るほどあるからよ〜」
と言って、出ていった
腐るほどあるの?場所が?桜は?・・・
後で知ったのですが、このビルの裏手
何と庭があったんです!! 知らなかった
「歳三兄さんっ、うちの会社って庭があったんですね!」
「ん?知らなかったのか。毎月庭師が手入れするほどの庭だぞ、まさかこんな所に知らねえやつが居たとは。勇さんが泣くぞ」
ほえーっとしか言葉が出てこなかった
庭師が入るって、よっぽどだ
今度、こっそり見に行ってみよう
「それで永倉さん、場所は腐るほどあるって言ってたんだ」
「花見か」
「はい、気合い入っていました」
「人が決算で忙しい時に、よくも呑気に花見の計画立ててられるなぁ。まったく、はぁ」
大きなため息だ
「でも、そういう人がいるからこの会社はバランスが取れていると思いますよ。どうでしょうか?」
「・・・そう言う事にしておく」
営業部長であり、副社長でもある歳三兄さん
ため息を吐きたくなるのは仕方がないか
「頑張ったご褒美が花見ですよ!」
「へい、へい」
駄目だこりゃ
花見まではもう少し日にちがある
だから、私は土曜日の午後こっそり庭を見に行った
「うわぁ、ここだけ別世界みたい」
芝生と歩道と桜の木、そして小さな池まである
何処かの公園より立派だ
桜の蕾が膨らんている
私は桜の木の下に腰掛けて幹に寄りかかった
目を閉じると、懐かしい京の町が浮かぶ
なるほど、だから大久保さん・・・
穏やかな日差しを浴び微睡んでみる
ーーーーーー、ーーーーー
ん?彼処に座っているのは誰だ
随分と気持ち良さそうだな
桜の木の下に座る人影に、近づこうとした時
俺の携帯が鳴った
そうだ、こんな所で油を売っている場合では無かった
移動の手続きで立て込んでいたのだ
「斎藤さんですか?車庫証明の件で・・・」
「はい、分かりました。直ぐに向かいます」
4月から本社勤務が決まった
住民票の移転や車の件で週末を利用して来ている
3年か、ここは変わらないな
さわさわと葉が音をたてながら風が吹いた
もう、冬の風とは違う 柔かな風だった
大きな桜の木を遠目に目的地へ足を向けた
微睡む人影は女だった
何処か懐かしく、時に切なく、儚いその姿に
俺は暫く動けないでいた
目を閉じると、昔の記憶が駆け巡る
土埃の立つ京の町を駆け抜けたあの頃を
胸の奥が甘く疼いた
これで第1章は終わりです。
斎藤さんがいよいよ本社に戻ってきます!!
また、色々あるんだろうなぁ。
第2章は斎藤と瑠璃を取り巻いて、様々な事件が起こる予定です。
どうぞ宜しくお願い致します。




