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Time Trip to Another World ~東雲~  作者: 蒼穹の使者
第一章 一さんに会いたい・・・
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第63話 一さんは何処ですか

歳三は力なく座り込んだ瑠璃を抱きかかえ

一人、宿舎に戻った

身体は土と埃に塗れ、右太ももの傷痕は確かにあった

歳三は瑠璃の土を簡単に払うと椅子に座らせる

そして、歳三は瑠璃の正面に座った


瑠璃の瞳はどこか遠くを見るように

黒目は一点を見つめたままだ



「瑠璃、聞こえているか」

「・・・」


瑠璃は歳三の問いに答えることなく、ただ涙を流している

歳三は瑠璃の両手を自分の手で包み込む

冷え切った瑠璃の手は微かに震えていた


「お前は今何処に居る。五稜郭の赤松の木の前か?俺も行っていいか」

「・・・」


歳三は握る手に力を込める、そして自身の気を高めると

青龍が二人を囲むように降り立った

瑠璃に寄り添うように青龍は鼻先で背中を撫でている

すると瑠璃の体から黄龍がすぅーっと現れた

黄龍は大きな目から涙をぼたぼたと落としている


キューン、キューン と泣いていた


歳三は目を閉じ山崎がしたように自分も瑠璃の中へ入る

瑠璃は箱館奉行所の庭に一人、ぽつりと立っていた

その前にはあの赤松の大木がそびえ立つ


ああ、ここで俺たちは悪魔と戦ったんだ

松の葉の間から木漏れ日が差し込み

まるで、あの時代に戻った気さえした

歳三は穏やかな口調で瑠璃に語りかける


(瑠璃、戦いは終わったんだ)


すると瑠璃はゆっくりと振り返る


(歳三兄さん、誰も居ないんです)

(お前は此処で何をしているんだ)

(私、一さんに会いに来ました。私の代わりに此処で眠っているから。でも、一さんの気配がないんです。耳を当てても、一さんの鼓動が聞こえない・・・)


そう言い終わると、瑠璃ははらはらと涙を流した


(もう此処には居ねえよ。誰も居ねえ、俺とお前以外はな)

(誰もいない・・・)

(ああ、みんなお前が帰って来るの待ってるぞ。ほら、手を貸せ)

(・・・帰る?)

(斎藤もあっちに居るんだ。春になったら会える、斎藤に会える)

(嘘、です。だって、一さんは此処にっ!)

(すまん、ずっと言わなきゃならねぇって思ってたんだ。だが機を逃してしまっていた。斎藤は俺たちと同じ会社の社員だ。今は違う支店で働いているが4月から本社移動が決まっている)


瑠璃は歳三の言葉を整理しているようだった


(でも・・・)


そう言って、もう一度赤松の木を振り返る


(俺がお前に嘘を吐いた事があったか?)


瑠璃は、いいえと首を横に振る


歳三はもう一度、瑠璃に手を差し出す


(此処に居たら、あいつらが寂しがる。それに斎藤だってお前だけが居ないと悲しむだろ)


俺は瑠璃の目をじっと見つめた

嘘じゃない、いっ時の慰めなんかじゃない、本当なんだと


瑠璃は俺の目にそれを感じ取ることが出来ただろうか


沈黙がこれほど耳に痛むものだとは思わなかった

やがて意を決したのか瑠璃は


(歳三兄さんを信じます)


俺の手を取った


----------------------------------。


そして俺たちは、あの場所から戻った


瑠璃は歳三の手を握り返すと


「歳三兄さん、私、私っ」


歳三は瑠璃の頭にそっと手を置く


「言わなくていい、分かっている」

「うん」


俺は瑠璃の言葉を遮った


「派手に土をかぶりやがって、風呂入って来い」

「はい」



歳三兄さんが、私を連れ戻してくれた

私は自分だけ平和に暮らしている事が許せなくて

あの世界に残る一さんに寄り添うつもりでいた

そうする事で私はこの悲しみから

逃げたかったのだと思う



一さんもこの時代に居るって

4月になったら、一さんに会えるって

そう思うだけで胸の奥がきゅんと締め付けられた


一さんには私の記憶がないかもしれない

それでもいい だって生きているのだから


その日まで、もう少し強くなろう

そう自分に誓った

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