表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Time Trip to Another World ~東雲~  作者: 蒼穹の使者
第一章 一さんに会いたい・・・
62/114

第62話 蘇った最期の記憶

左之兄は私をぎゅっとしたまま暫く動かなかった

泣いてはいないようだけど

何故か自分を責めているように思えた


「あの、大丈夫ですか?」

「ああ」


ようやく私から離れた左之兄は

この傷の原因を語り始めた


五稜郭の結界を破り突入した時に

サキュバではなく、別の悪魔が現れた

その悪魔は気圧を操る事ができて

私たちは動きを封じ込められてしまった


「瑠璃の後ろを取ったそいつが、剣で瑠璃の脚を斬り裂いたんだ。俺の属性は大地だから直ぐに呪縛は解けだんだが、間に合わなかった。すまない」


「謝らないで左之兄。後ろを取られたのは私が油断していたからだし、それに、私は生きています。でも、なんで覚えていないのかな」


「出血が多くてな、気を失っていたんだ」

「それで」

「治療するのに手間取っちまって、痕が残っちまった」

「大したことないですって」

「嫁入り前の女の体にこんな傷を・・・」


左之兄が居なかったら、その場で死んでいたかもしれない

だからそんなに責めないで欲しい


「嫁入り前のって、いつの時代ですか」

「妹じゃなかったら、俺が貰ってやるって言うんだけどな」


なんて、言うから笑ってしまった

左之兄らしい言葉に、心が温かくなる


結局、私たちは一頭も仕留めないまま戻った




「ちょっと、2人とも手ぶらじゃない。何その恰好!」

「おい、何があった。泥だらけじゃねえか」

「瑠璃さん、破れていますよ!」


瑠璃の破れたズボンから見えた傷に総司が気づく

その瞬間、総司は瑠璃に近づいて

ぎゅっと両手で負い被さるように抱きしめた


「そうっ、じ。苦しい」

「ごめん瑠璃、痕が残ってしまっていたんだね」

「え?・・・ああ、左之兄にも言ったけど気にしないで。私が油断して招いた事だから」

「でも、僕たちは防げたはずなんだ」

「ううん、気圧を操られてたから皆動けなかったんだし。それに元はと言えば一さんに剣が向けられたのを過剰に反応した私が甘かったんだから。皆は悪くない!」


ほら、歳三兄さんまでそんな顔しないで

山崎さんも俯かないで 今はこうして生きているんだから

そう言おうとした時、脳裏にもう一つ映像が映った


サキュバとインキュバスの融合体から放たれたもの


ドンッ、グザッ…グハッ


聖剣で確かに悪魔を葬った

一さんは?・・・、その時に一さんはどうしていた?

一さん、一さんっ!?


「あ、嫌っ。一さん!!」


瑠璃が突然、泣き叫ぶ

瞳から滝のように涙を流し、体からは力が抜けて

総司の腕をすり抜けるようにして地面に崩れた


「瑠璃っ!!」


歳三は瑠璃の頬に両手を当て、瞳を覗き込む

そこに映っているはずの自分が見えない

瑠璃は此処ではない違う世界を見ているようだった


「歳三さん、瑠璃はっ」

「瑠璃は今此処にいねえ」

「なんだって!?」


心だけ、あの最期の場所に戻ってしまっていた


一さんは私を庇って、あの杭を体に受けた

私を生かすためにあの場所に一人で眠っている

私は、私はそんな大事な事も忘れて

この平和な時代で生きている!

一さんを一人残したままで!



山崎はそっと瑠璃の背に手を当てると

瑠璃の心を感じ取る為、自らもその中に入った

瑠璃は悲しみと後悔の闇に包まれている


「っ!!」

「山崎!」

「・・・瑠璃さんは無くしていた最期の場所、あの戦いを思い出したようです。そして、斎藤さん一人を犠牲にしてこの時代で生きている自分に絶望しています」

「・・・」


瑠璃は斎藤がこの時代で生きている事を知らない


「兄貴!」

「ああ、分かっている」


歳三が瑠璃を抱え、宿舎の中に戻って行く

3人はその後ろ姿を黙って見送るしかなかった


瑠璃は斎藤が生きている事を受け入れるだろうか

単なる慰めや気休めだと思ったりしないだろうか


3人はそんな不安を抱いていた


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ