第61話 気を操ろう
うっすらと雪化粧を施した山々はとても美しかった
山中の冷え込みはやはり厳しいけど景色は最高
さて、着替えますか
・・・、・・・ん? これは・・・隊服ですね
辛うじて迷彩ではないけれど
「歳三兄さん!これ、着るんですか!?」
「おお、朝から威勢がいいな」
「わ、もう着替えてる」
「山の中を這いずりまわったりするんだ、こういうのじゃねえと危ねえだろ」
やっぱり、そうなりますよね
振り返ると、左之兄たちも着替えが終わっていた
おお!なんか本物の自衛隊員みたいだ
迫力というか威圧感がある、それに恰好いい
「瑠璃も早く着替えちまえよ」
「そうします」
兄たちは合宿する必要があるのだろうか
と、疑問に思えるほど気を上手くコントロールしていた
どうも私だけが上手く行っていないように思える
黙想し気を集中させる
身体の奥からメリメリと湧き上がってくる力
歳三兄さんの蒼の気が立ち上がると
うっすら青龍の姿が見えた
左之兄は濃紺の気で、僅かに地が揺れる
総司の白い気はあっという間に白虎を呼び出した
総司は要領がいい、天才肌の持ち主だ
山崎さんは青磁色の光を放っている
前いた時代では最大限まで気を高め、爆発させた
その所為か気を小出しにするのが難しい
黄金色の光が全身から溢れ出し
大気が揺れ始める
雲がどこからともなく集まり、夜のように真っ暗になった
ビカッ!ビカッ!と空が光ると
ダダーン!!!
稲光が走り、演習場の中央に落ちた
「おわっ!」
「瑠璃っ!」
「す、すみません」
「大丈夫ですか」
「わー、穴空いてるよ?あそこ」
そもそも操る必要はあるのだろうか、とさえ思えてきた
今は平和な時代だから一般人が先陣切って戦う事はない
要は能力を使わなければいいだけの話
などと少し不満を抱きながら午後を迎えた
「今日のノルマは10頭。シカ・イノシシが主なターゲットだ。遭難しても困るからな、二組に分かれて山を回る。地図はこれだ。日没が早い、4時には戻るぞ」
ジャンケンの結果、歳三兄さん、総司、山崎さんがAチーム
左之兄と私がBチーム、という組み分けになった
「おい、瑠璃。そんなにくっついてたら歩きにくいだろ」
「大丈夫です、歩けます」
「怖いんだろ」
「・・・だって、どこから飛び出してくるか分からないじゃないですか」
「はははっ、悪魔は怖くなかったのに動物は怖いのか」
「あれとこれは別ものですよ」
そんな事を話しながら道なき道を進んでいくと
ガサガサッ、ドサッと音がした
「うわぁぁ」
目の前にイノシシが転がり落ちてきた
なんで転がって?
「やべえな」
「何がやばいんですか」
左之助が視線を向けた先は山肌が広く剥き出しになっている
恐らくイノシシは上から滑り落ちてきたのだろう
何かのはずみで山崩れが起きそうな気配が漂っていた
パラパラと石が落ちてくる
「急いで通り抜けるぞ」
「でも、イノシシさんが退いてくれませんけど」
その時、急に風が吹き込み木々が激しく揺れ始めた
木の根元まで振動が伝わる
その振動は、その山肌を刺激して・・・
「うわっ」
「きゃっ」
雪崩ではなく土砂に巻き込まれてしまった!
左之兄が私の腕を掴み、なんとか大きな杉の木に飛び移る
ずり落ちそうになる私を必死で引き揚げてくれた
目の前を大きな石がゴロゴロと落ちて行く
あのイノシシも土砂と一緒に行ってしまったようだ
「もう、大丈夫そうだな」
「まさか土砂崩れが起きるなんて」
「後で地元の人たちに教えておかねえと、台風の時期がきたら危ない」
「そうですね」
「・・・おい、ズボンが破れてるぞ。さっきので引っ掛けたか?」
右側だけすっぱりと割けたように破けてしまった
木の枝か何かで破ってしまったのだろう
「こんなにパックリ・・・寒いですよ」
「っ!おい、瑠璃っ!!怪我してるじゃねえかっ」
左之兄が慌てて私を座らせ
太ももを自分の膝に抱え上げた
膝から太ももにかけて真っ直ぐに
斬られたような痕が残っている
「あ、これ古傷です。覚えてないんですけど、刀の痕みたいでしょ?いつのだろう」
「・・・、・・・こいつは・・・」
左之兄はその傷跡を見て
時が止まったように動かなくなった
「左之兄?」
そして、いつになく真剣な眼差しでこう言った
「防いでやれなくて、悪かった」
突然、ガシッと抱きしめられて驚いたけど
それよりも左之兄の声が震えていた




