第60話 どんな修行をするのですか?
バタバタと一足先に仕事納めをした私たち
夕べはカップルが浮足立つイブの夜をお疲れモードで帰宅
そして今は空港に向けて移動中です
場所は西日本最大の演習場であり温泉でも有名なあの県です
どうしてこんな日本の端っこでするのかと聞いたら
「いい具合に田舎なんだよ」
「いい具合にって・・・」
総司がすぐにスマホで検索をした
「いい具合にって、けっこうな田舎ですよ。コンビニまで車で20分って・・・」
「おい、九州なのに雪が降るのか!今日の予報見ろよ、曇りのち雪だとよ」
「イノシシやシカも出ますから気を付けてください」
「山崎さんもしかして下見しました?」
「・・・いえ」
したな、歳三兄さんに言われて絶対に下見してるよ
大久保さんと歳三兄さんのコンビが
どんな圧力を掛けたのかは分からない
でも、条件として地元猟友会に代わって
有害鳥獣捕獲を請け負ったらしい
農作物の食害が広がっているため、自衛隊が演習をしない
年末年始は演習場周辺で狩りをしているのだとか
「ええ!!狩りをするんですか!?」
それって猟犬引き連れて、銃を背負い山中を駆け回る
銃なんて実際触った事ないし
素人がそもそも撃っていいのだろうか
「あ?銃なんて必要ねえだろ」
「どういう事ですか」
「おい、何のための合宿なんだよ。てめえの能力で捕獲できんだろ」
「ええぇ!」
もう、ええ!しか口から出てこなかった
確かにあの頃は刀だけでなく
気を操っていろいろしましたよ
でもそれは悪魔が相手だったからで
いくら害をおよぼすからって、動物を・・・
いろいろ聞きたいことはあった
何処で寝泊まりするのかとか
食事はどうするのかとか、正月も鍛錬するのかとか
そんな質問はどこかに吹っ飛んでしまっていた
「ははっ、それ面白そうだねっ」
「まあ、地元にとって必要な事で能力を操る鍛錬になるんなら良い事じゃねえのか」
「だろ?」
「獣が相手ならよい鍛錬になるかと思います」
4対1で、諦めるしかないようです。
私にとっては衝撃的だったけれど
日ごろの疲れもあって機内では熟睡した
「あんなに驚いていたのに、もう寝てるよ」
「本当に俺らの妹は大したやつだよ」
「一番逞しいかもしれねえな」
飛行機に乗って2時間、レンタカーで1時間半
だんだん民家の軒数が減って行き、某演習場に到着した
ずっと座っての移動だったので、背伸びをする
「空気が澄んでいて気持ちいいですね、あっ、でも寒っ!」
「くくっ、どっちだよ」
年末年始の為、隊員が帰郷して施設はがらんとしていた
当番で数名がここに留まっているようだった
私たちは本館から離れた西棟を借りた
設備は充分過ぎる程に整っている
「あの、何人かの自衛隊員たちは大丈夫なんでしょうか」
「俺たちはドンパチやらねえから大丈夫だろ。それから31日と1日、2日は誰もいなくなる、俺たちだけだ。だから演習場で暴れるのはその時だな。それ以外は山で狩りだ」
やはり狩りは避けられないようです
「山崎さん・・・狩らないと駄目ですかね」
「そうですね、1日10~20頭が目安らしいです。狩りすぎると違う方面に影響がでるので」
「はぁ」
「瑠璃さんは動物を殺すのが嫌なんですよね」
「はい、だって悪意を持って作物を食べている訳ではないのに」
「確かに命を奪うのは忍びないですが、その彼らもまた何かの命を奪って生きているのです。我々も食する為に牛や豚を飼育しています。彼らは食べられる為に生まれ、死んで行くのです。今回の猟は駆除に当たります。増えすぎると彼ら自身も生きて行けなくなる、人里に下りて人を襲うかもしれない。バランスを保つ為なのですよ。我々人間はその命を無駄にすることなく、有難く頂く。そして新しい命へと、繋いで行かなければならないのです」
山崎さんの言いたいことは分かる
どんな動物も何かの命を奪って、自分の命を保っている
自分たちの生活を守る為に
だから彼らの命を無駄にしてはいけない
「頭では理解出来るのですけど・・・ね」
「そうですよね」
「身を持って知るしかないですもんね」
「はい」
明日から、自分たちの能力を上手く操れるよう鍛錬する
よし、気持ちを切り替えてがんばろう
それにしても山崎さん、饒舌だったなぁ
どこかのお坊さんの説法を聞いているようだった




