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Time Trip to Another World ~東雲~  作者: 蒼穹の使者
第一章 一さんに会いたい・・・
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第54話 椿柄の襟巻き

秋は日に日に深まり、季節は11月も半ば

温暖化と言われたこの時代でも四季はある

朝晩は冷え込むようになって来た


「寒い」


私は寒いのが苦手だった、首が冷えると全身が寒くなる

さすがにマフラーはまだ早いしな

スカーフ買わないとな…それっぽいの持ってないよね?

クローゼットに首を突っ込み、がさがさと漁った


「ん?何これ」


きちんと折り畳まれた濃紺の木綿生地

ちらりと紅い模様が見えた

何故かとてもドキドキする 私はこれが何か知っている

ゆっくりと、丁寧に開くと真っ赤な椿の花が見えた


「これ、あの時に貰った襟巻き」


そして、さらに折り目を広げると

ぱさりと、何かが落ちた


「はっ!」


瑠璃は思わず手で口を覆った

それは、細長い白い布で【誠】という文字が入っている

大阪でこの世を去った、井上源三郎の鉢巻きだった

井上の物だけ、鉄の額当てがなかった

だから形見としてこの襟巻きに忍ばせていたのだ


微かに震える手でそれを拾う

間違いない、あれは前世の記憶ではなく

自分たちは時空を越えて来たのだと


どうやって、何があって時空を越えたのか

五稜郭が最後の場所だったはず

瑠璃はスマホで五稜郭を調べた

歴史上では箱館奉行所として造られた

今は五稜郭公園となり観光地となっている


「星形・・・私はこれを上から見ていた。毎日」


結界を破るためと山崎さんが言っていた

結界、悪魔、サキュバとインキュバス!!

もう少しで思い出しそうだった 最後の戦い


「瑠璃」

「わっ!」


歳三が帰ってきたのだ


「そんなに驚くことねえだろ」

「すみませんっ。考え事していたから」

「・・・」

「夕飯に、しましょう!」


瑠璃の様子がおかしい

いつもなら会社であった事、同僚の事を話すのに

今日はやけにおとなしい

俺の問いかけの返事も鈍い こいつまた何か悩んでいるな


「おい」

「・・・は、はい」

「はぁ、いつも言ってるだろ。一人で抱え込むなって、何をさっきから考えているんだ。心此処に非ずだな」


瑠璃はしまったと言わんばかりに、眉をぴくりと動かした


「聞いてるのか?」

「すみません、実は」


瑠璃が席を立ち何かを手にして戻ってきた

目の前に差し出されたのは濃紺の生地に

椿の花があしらわれた物だった


「これ、覚えていますか?」

「何処で見つけた、似たような物があったんだな」

「違いますよ、本物です。京を立つときに頂いた襟巻きです。一緒にこれが包まれてありました」


白と言うより、クリーム色に近いそれは文字が入っていた


「誠・・・源さんの!!」

「私たち本当に時を、時空を越えたみたいです」


どこか夢のような前世の出来事かのように思っていた

だが、歳三はこれまで様々な書籍を読み漁っていた

往々にして大きな違いはなかった


山南さんは脱走の罪で切腹

平助は油小路で死んでいる

山崎は江戸に向かう船の中で死亡

総司は結核で病死

左之助は上野戦争で戦死節や大陸に渡った伝説もある

勇さんは江戸で斬首刑

会津で死んだ西郷隆盛は西南戦争で死んだ事になっている

自分に至っては箱館戦争で戦死したことになっていた

斎藤と永倉が唯一、明治を生き抜いた

しかも彼奴(あいつ)、永倉は本を出していたんたぞ!


しかし、俺たちは確かに存在した

倒幕の傍らで、悪魔を追いかけ死にものぐるいで戦った

嘘じゃない、身体が覚えているからだ


「あれは過去ではなく、別の世界だったのか」

「それは、分かりません。だから、五稜郭での最後の戦いの事を考えていました。まだ、思い出せていませんけど」

「そうか・・・」


暫く、二人は無言のまま井上の鉢巻きを見つめていた


キーン、ズザッ、…ドサッ


刀と刀のぶつかる音、血の臭い 気の高ぶり

舞い上がる四つの守護神


「くっ…」


歳三の瞳が蒼の光を放ち、その奥に焔が見えた


「歳三兄さん!?」


瑠璃は咄嗟に歳三の肩に手を乗せた


「はっ!うっ」


反応するように瑠璃の瞳は黄金色に光り

体中から止めどなく溢れ出る気

熱い、漲る力を抑えることが出来ない

ガタガタと床が揺れはじめた


「瑠璃っ!だめだ、これ以上はっ」


歳三は力の限り瑠璃を抱き締める

この力を解き放ってしまえば、この建物が崩壊してしまう


「瑠璃!俺を見ろ、俺の目を見ろ」


歳三の瞳はいつもの濃紫がかった色に戻っていた

そこには瞳をギラギラ光らせた自分がいる


「いやっ」


瑠璃は目を閉じる、そして歳三の腕の中に隠れるように

身を埋めて丸くなる

やがて、大気は落ち着き元の姿に戻った


「大丈夫か」

「はい」


歳三は確かめるように瑠璃の背を擦った


「危なかった、まさか俺に反応して瑠璃までああなるとは。お前の気はデカすぎるな。抑えられねえかと思ったぞ」

「すみません」

「いや、さっきのは俺が誘発したようなもんだ。気にするな」


気にするなとは言ったものの、どうするか

何とかコントロールしなければ、本気でまずい事になる


「合宿でもするか」

「合宿?」


とにかくこのままでは駄目だ

合宿だ!合宿してこの力を制御するんだ


「修行だ!」

「・・・え、」


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