第52話 ご心配をお掛けしました
久し振りに熟睡をした気がする
僅かに薬品の匂いがするけれど、ベッドは程よい硬さだ
「んー、はぁ。よく寝た。あれっ?」
景色が我が家ではないし、まだ朝にもなっていない
それに体が動かないのはどういう事だろう
布団の上から押さえつけられたような感じだ
「うわっ!」
良く見ると、左側に左之兄、その隣に歳三兄さん
そして反対の右側には総司がそれぞれ突っ伏して寝ている
どうしたんだっけ私・・・
「・・・あ、公園で力尽きた」
取り敢えず態勢を変えたくて
もぞもぞと動いてみる、手が出ないってぇ
何か暑くなってきた うぅ、片手だけでもっ
足動かしたいんだけど
「ふえっ、んー。・・・起きてっ!」
三人がほぼ当時に、がばっ!と顔を上げた
「どうしたっ、大丈夫か!」
悪いなと思ったけど、動けないと思ったら
余計に動きたくて、と言うか、右腕が痺れている
「すみません、ちょっと苦しかったので」
「おお、悪い。瑠璃の上に乗っかってたか」
「具合はどうだ」
「申し訳ないくらい、元気です」
「ぷっ、瑠璃らしいね」
三人は安堵の表情を見せた
とても心配を掛けてしまったんだと思った
でなければ、三人が揃って此処にいる訳がない
「ご心配お掛けして、すみませんでした」
「何謝ってるんだ、謝るのは俺だろ」
「左之兄は悪くないよ、私が力をコントロール出来なくて。つい、全力でやっちゃったから」
「それは俺がっ・・・キリがねえ」
「瑠璃は頑固だから、どんな時も引かないよ。そういう所は歳三さんに似ちゃってさ」
「おい、残念そうに言うなっ!」
「ふふふっ、頑固はみんな同じです」
何気に右手を口に持っていこうとしたら
痺れているのを忘れていた
「うわぁぁ。っー、痺れてるの忘れてたぁ」
「どれどれ」
総司から嫌な空気が漂う
「きゃぁぁ!!やめてぇ。総司ぃ、いやっ、ふわぁっ」
「総司、お前ドSだろ。瑠璃、あと暗闇でその声はヤベえ」
左之兄のヤベえの一言で冷静さを取り戻した
だよね、だよね、ヤバイよね 何してるんだろ
「起きましたか」
「あっ、山崎さん!すみません、ご迷惑お掛けして」
「いえ、そんな事は気にしないでください」
そう言った山崎は片手で口元を押えていた
肩が揺れている
「笑ってる?」
「いえ、決して」
「いや・・・笑っていますよ、山崎さん」
山崎さんの笑う姿を見たら、ちょっとホッとした
兄たちとは違う安心感だ
とても長い時間を彼と共に行動したからかもしれない
ポーカーフェイスの向こう側にある感情を
私は読み取ることが出来るから
少し、一さんに似ている所があるからかな
いけない事と思いながら、山崎さんに一さんの影を
重ねて想いを馳せる自分がいた
とても懐かしくて、泣きたくなった
「瑠璃?」
「ん、あ、ごめん。何?」
「泣きたい時は泣いていいんだよ。前にも言ったけどさ、僕の肩なら何時でも貸してあげるから。今度は歳三さんじゃなくて僕の、ね?」
「総司」
どうして総司には分かるんだろう
私が自分の存在に悩んでいた時も、一番に気付いてくれた
心の奥をぎゅっと掴まれたように甘い疼きが走る
「ありがとう」
兄妹の中でいちばん私の事を知っている人
そして、私と同じくらい一さんが好きだった
その後、私たちの特殊能力について話した
当たり前の様に使っていたあの頃と今は違う
他人に知られたら自分たちは恐れられてしまう
でも、それだけでは済まないだろうという事
この再び目覚めた能力をどう抑えるか
それがこれからの課題となった




