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Time Trip to Another World ~東雲~  作者: 蒼穹の使者
第一章 一さんに会いたい・・・
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第48話 左之助と永倉

秋になり、幾つかの台風が来たけれど

夏のはじめに来たような直撃型はなかった

それでも、飛行機や船舶の運航に少なからず影響は出る


「参ったな、まだ分からねえのか?」


苛々しながら運輸部の営業課に居座るのは

建設部営業の永倉さんだ


「フィリピン沖の台風が今年最大って言われてる、船は台風を回避するためにシンガポールで待機中だ。あれが過ぎない事には入港予定が立たねえんだ」


ごもっともな説明を左之兄がしている


「けどよ、そこを何とかならねえのか。これ以上建設の遅れはまずいんだよ、飛行機で一部でも飛ばせねえかな」

「おいおい、もう荷物は通関切って船に乗ってるんだ。BLも発行したんだぜ、無理に決まってるだろ。誰が悪いわけじゃない、天候なんだから仕方がねえだろ」

「だから、そこを何とかって頼んでんじゃねえか」

「何とかも、かんとかもねえんだよ。あのな・・・」


と言うやり取りが延々と繰り返されている

永倉さんも諦めが悪い

左之兄もよくキレずに相手が出来るよね


「つまらない漫才を見てる気分だよ」


げんなりした総司が運営課に逃げてきた


「船の遅れで、仕事に支障が出たんですね」

「そう、一度積んだコンテナを降ろせってゴネてるよ」

「それは無理ですよね・・・」


えりと眞子は輸出入の業務をしているので

仕組みはよく分かっている

私も昨日までは旅客の振り替えでバタバタしたけど

後に響くような事は少ない


「載せてる物は降ろせないなら、必要な分だけ新たに発注してAIRで飛ばすしか方法ないですよね?それはダメなんですか?」


「コストに大きく影響するからねぇ」


「そうなんだ、手詰まりですね。何処からか借りられたらいいのに、船が来てから返すとか。ま、それも無理ですよね」


知らないくせにって言われると困るので

大人しく自分の仕事をする事にした


「それだよ!!」

「うわっ、びっくりした」


総司が何か閃いたらしい「瑠璃サンキュー」

と言って営業課に戻っていった


暫くすると、永倉さんと左之兄の攻防は終わっていた

うまく収まればいいのだけれど


まもなく終業時刻を迎えようとした時


プルッ、プルッ、プルッ♪ 内線が鳴った


帰り支度の整ったえりが、ご愁傷様と囁く

はぁ、定時ダッシュ叶わず


「はい、土方です」

「俺だ、帰り際に悪りぃ。ちょっと営業課に来てくれ」

「分かりました」


左之兄からだった、営業課はあまり行ったことがない

同じフロアなのに妙に遠い


「あの、何でしょうか」


兄妹同士で一番困るのは声を掛ける時

土方ですけど土方さん居ますか?どちらの土方ですか?

なんてやり取りを想像しただけで疲れる


「お、悪いな。ちょっと通訳頼みてぇんだ、建設部の遅れてる資材と同じやつが借りれるかもしれねえんだ」

「えっ!そうなんですか!?」


建設費用が当初より高騰して

建設が一時保留になっている会社があるらしい

そこから借りようとしているとの事


「そこが外資で、上と直接交渉してくれって言われたんだ」

「なるほど」

「今夜アポが取れた、今、稟議書書いてるから待っててくれないか。俺とお前と新八の三人で行く」


あれから左之兄は永倉さんを昔の呼び名で呼んでいる

本人は記憶がまだ曖昧な為、納得はしていないけど


左之兄は課長なので、営業部長に稟議を上げる

そして部長が副社長に上げて、社長へ

実際、副社長が承認したら通ったも同然

でも、ここの営業部長は歳三兄さんが兼任している

だから、歳三兄さんが承認したら完了となるのです


「・・・」


承認待ちらしい


「・・・」


何となく、黙って待ってみる


内線が鳴った、副社長専用の呼び出し音


「はい、ああ。助かる、ん?ちょっと待ってくれ」


左之兄が受話器を差し出した

代われと言われたのだろう


「はい、瑠璃です」

「急な残業で悪いな、左之助たちを助けてやってくれ」

「はい。勿論です」

「相手は難しい奴じゃねえ、とにかく(おだ)てておけ。いいな」

「分かりました、頑張ってヨイショして来ます」


歳三兄さんのアドバイス通り

左之兄や永倉さんの言葉を少し誇張して褒めまくった

よくこんな単語出てくるなと、自分でも感心する

終始ご機嫌で無事に資材をお借りする事ができた


仕事の話より、相手の自慢話で終わったけれど


「瑠璃ちゃん、本当に助かった!恩に着るぜぇ」

「私は通訳しただけですよ」

「いや、瑠璃の借りれたらって発想があったからだぞ」

「えっ?あ、もしかしてあの適当発言が?」

「はっ、適当かよ。ああ、総司が教えてくれたんだ」

「瑠璃ちゃん、本当に感謝してる。左之の妹にしておくなんて、勿体ねえよなぁ」

「ばーか」

「何がばかだよっ!」


結局、この二人はこうしてやり合うのがイイらしい

そんな二人を見ているだけで、平和だなぁと実感する


今度、永倉さんがご馳走してくれるらしい

何を御馳走してもらおうかな・・・考えておこう

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