第43話 青龍の目覚め
目が覚めると自分のベットで寝ていた
歳三兄さんに背負われて帰ってきたんだ
夕方になったのか、周りは薄暗かった
「うっ、痛っ」
起き上がると頭がズキンと疼いた
空きっ腹にビールをかなり飲んだ気がする
喉が異常に乾いていた
ゆっくり起き上がり、部屋を出る
「やっと起きたか」
「と、歳三兄さん。えっと、すみませんでした」
頭を下げると、また頭がズキンと疼く
思わず、両手で頭を押さえた
「うっ、つー」
「くくっ、二日酔いだな。いや、二日も経ってねえな」
そう言うと、歳三は笑い飛ばした
すっと立ち上がりキッチンにいくと水を持って来る
「ありがとうございます。ん?あれっ!キッチンに誰か」
もう一人、人影がキッチンで動いた
その声を聞いて顔を出したのは山崎だった
「お邪魔しています」
「へ?山崎さん・・・何してるんですか!う、イタタ」
「大声出すなよ、頭に響くだろ」
山崎さんはあの後、心配して来てくれたのです
で、何故か夕飯を作ってくれている
「ご心配お掛けしてすみませんでした。しかも夕飯まで」
「構いませんよ。それにこうやって食事を作るのは慣れていますから。特に新選組時代は当番制でやっていたじゃないですか」
「え・・・」
「そうだったな、俺はやった事ないがな」
「副長はお忙しかったですからね」
二人とも昔の話をして笑っていた
「瑠璃は最初、竈に火を点けられなかったもんな」
「火入れは苦手だと言っていましたね」
「だって急に幕末の生活しろって言われても無理でしょ」
「針仕事も危なっかしかったな」
「う、そんな事ばかりっ。ふふふ」
初めて山崎さん以外の人とあの頃の話をした
自分からは振ることのできなかった事を
こんな風に笑いながら話せるなんて
少し、心の緊張が解けたような気がした
「これからも今みたいに話せばいいんだ。俺たちは今を生きている、だがあの幕末も確かに生き抜いたんだ。頭の端に追いやる必要はねえ。どっちの時代も俺たちなんだ、俺たちは何も変わっちゃいねえよ、変わったのは時代だ。そうだろ?」
歳三兄さんの言葉に直ぐには返せなかった
でも、とても嬉しかった
だって、過去も現在も私たちは私たちだと
そして未来もそうだと言ってくれている
「だから斎藤の事も隠す必要はねえ。言葉にしていいんだ、会いたいって、寂しいって言っていいんだ。じゃなきゃ、あいつが可哀想だろ。おまえの事を一番近くに感じていたいのはあいつも同じだ」
「歳三、兄さん・・・私、私っ」
言葉にするのが怖かった
目が覚めた時に一さんだけ居なかったから
一さんの存在を否定されるのが怖くて仕方がなかった
本当は大声で叫びたい
私の心は一さんでいっぱいなんだから
「私っ、一さんに会いたいです!例え記憶を無くしていても。私は一さん以外好きにならないっ!」
瑠璃は歳三の目を見て、はっきりとそう叫んだ
僅かに瑠璃の瞳は黄金色に光る
「っ!!」
瑠璃の瞳の奥に歳三は自分の姿を見た
蒼い龍を背にし、刀を握った自分が確かに居た
「そうか、俺たちは本当に悪魔と戦ったんだな」
歳三はそっと瑠璃に近づくと「待たせたな」と囁く
「斎藤に会わせてやる、だからその日までもっと強くなれ」
ここに、青龍が記憶と共に甦った
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「一さん・・・いです」
誰かが俺の名を呼んでいる、そう思った
その声はどこか聞き覚えのある懐かしい声だった
心の奥に直接響いて来るように
俺の名を呼ぶものはいないはずだ
皆、苗字で呼んでくる 唯一名で呼ぶのは総司くらいだ
だが、あの声は女の声だった
近頃、夢を見ることが増えた
俺はいつも一人の女の背中を見つめている
振り返ろうとする女を俺が振り返るなと制する夢だ
俺は何か思い残した事でもあるのだろうか
そんな事をずっと考えていた




