第41話 甲斐陸曹に遭遇
善は急げと言った永倉さん
本当にその計画は翌週に決行された
最初はみんな予定が有るのではと心配していたら
「気の合う連中なら、いつ誘っても空いてるんだよ」
「そうですかね・・・」
2日前、本当に声を掛けた殆どから参加確認が取れた
永倉さん、凄いな
お酒も入るので公共交通機関があるデイキャンプ場
馴染みの酒屋さんやお肉屋さんが届けてくれる
馴染みのお店がある事も驚いた
皿、コップ、箸などの軽いものだけ買っていった
「永倉さん・・・素敵です」
「はははっ、嬉しいな。褒められたぜ!」
「瑠璃、あんまりコイツを煽てるなよ?」
運輸部のえり、眞子はもちろん通関課の同期
旅行部の兄たちのファンとその同期
建設部の同期と気づけば30人近く集まった
社長は自分が行くと気を遣わせるからと不参加
代わりに、豪華な食材の差し入れが送られてきた
歳三兄さんは少し遅れてくる
勿論、山崎さんも誘った
「言い出しっぺは遅刻なの?」
「あ、総司。仕事が終わらなかったんだって」
「相変わらずだね。あ、瑠璃あの人知ってる?」
総司が指を指した先に、一人の青年の姿が
小柄だけど、体は程よく引き締まった感じだ
総司が手を振ると気づいたのか、走ってこっちに来る
キラキラした笑顔の持ち主
「はっ!藤堂平助!」
「やっぱり?でもね平助じゃなくて今は大助だけど」
息を切らせて来た彼は、紛れもなく藤堂平助そのものだった
「総司!久しぶりだな。あれ?この子は?」
「ああ、瑠璃だよ。僕たちの妹」
「そっか、留学から戻って来たんだ!俺、藤堂大助宜しくな」
「藤堂くん、宜しく」
総司、もしかしてちょっと思い出したのかな
「曖昧なんだけど、たぶん彼も仲間だったような気がしたんだ」
と、総司は言った
海が見えるデイキャンプ場は風が清々しく
秋の匂いを運んでくるようだった
お酒も程よく入り、みんな上機嫌だ
「瑠璃、食べてる?飲んでる?楽しんてる?」
「えり、ご機嫌だね」
「えりは永倉さんと話したからじゃない」
「眞子っ!しいーっ」
もうバレてるんですけど、えりは永倉さんなんだ
なんか合う気がする 良かった、みんな楽しそう
「きゃー!教官っ」
そんな声が聞こえてきた 教官って?
旅行部の同期が誰かを取り囲んで話している
その脇を通った時
「土方瑠璃さん!」
「え!?(フルネームで呼ぶって・・・)」
ちらりと横目で声の方を見る
「甲斐陸曹?なんで!!」
よく見ると向こうに男の塊が
休暇の自衛官たちがバーベキューをしていた
「瑠璃さん、どうして連絡をくれないのですか。僕はいつも待っているのですが」
「え、いや、特にご相談する事もなかったので」
「参ったな、相談って口実ですよ。自分は瑠璃さんと交流したいのです。貴女の日常を話してくれればいいのです」
ぐいっと一歩近づいてくる甲斐陸曹に、一歩引く私
「な、なぜ私と交流したいんですか」
「分かりませんか?自分は瑠璃さんに好意を持っているんです!」
「・・・ええ!!」
私は更に一歩後ろに引いた
待って、これは何かの冗談でしょ?何の罰ゲームかな
「自分は貴女の正義と仲間を想う心に惹かれました。確かに自分はあの時貴方に負けましたが、戦場では必ず貴方を守り抜く自信があります。考えてもらえませんか!」
「な、なっ・・・」
言葉が出なかった あまりにも唐突過ぎる
誰か助けてください!
「瑠璃、こんな所にいたのか。探したよ」
すっと私の手を取ったのは山崎さんだった
山崎さんはぎゅっと手を握り直し
甲斐陸曹に冷たい眼差しで言う
「瑠璃が何か」
「っ!自分は諦めませんっ」
そう言い残して、走り去った
全身を妙な汗が流れ、ふっと力が抜けた
「はぁ」
その場に座り込んだ私に山崎さんは
私の視線に合わせるようにして、膝をついた
「大丈夫ですか」
「はい、ちょっと驚いていますけど」
「彼が自衛隊の?」
「はい。どうしてあんな事」
「彼は瑠璃さんの事が好きなんですね」
「好かれても困ります。私は他の誰かを好きにならない」
人から好かれることは嬉しい筈なのに
私はとても嫌だった、彼が悪い人だからではない
きっと誠実でいい人だと思う でも、違う
その後、山崎さんとみんなの所に戻った
なんだか心がザワついて、どう仕様もなくて
誤魔化すようにビールをあおった




