第35話 本当に予備自衛官になりました①
新入社員研修が終わり、週末もあっという間に過ぎた
久し振りの会社だ
「おはようございます」
「あー、瑠璃!おはよう。なんだか随分久し振りな気がする」
「うん、夏季休暇とか研修とかですれ違いだったもんね」
えりも眞子も相変わらずで本当にほっとする
自衛隊という特殊な空間にいたからいつもの倍、そう感じた
休暇中の土産話が溜まっているって言っていた
今日の昼休みはずっと喋り倒すんだろうな
いつも通り業務をこなし、時計が10時半を過ぎた頃
プルルルル~♪ プルルルル~♪
ん?内線?だよね
「瑠璃っ!で、電話!内線!!早く、取って」
見れば、えりの顔が引きつっている いつか見た表情だな
「はい、土方です」
「俺だ、忙しい所悪いが今から社長室に来てくれ」
「(歳三兄さんだ)はい、すぐに伺います」
あれ?前はこんな音じゃなかったと思ったけど
でも、えりは知っていたんだね
「瑠璃、あんた何かしたの?」
「え?特に心当たりはないけどなぁ。今回は社長室だって」
「えっ!!心から無事を祈るわ」
「また、大袈裟だなぁ。ねえ眞子」
「京都のお守りあるけど、持っていく?」
「は?」
何故そうなるんだろう。
「二人は呼び出された事があるの?」
とんでもない!と言わんばかりに激しく首を横に振った
じゃあ何で!!
と言うか、この二人 副社長=私の兄
気付いていないのかな、言ったよね?
「取り敢えず行ってきます」
副社長ってどれだけ恐れられているんだろう
そんな事を考えながら社長室に向かった
トントン
「運輸部の土方です」
「入れ」
中に入るとお客様がいるようで
応接室には数名の影が見えた
「悪いな、お前に客だ」
「私に!?社長室で会うようなお客様が?」
副社長である歳三兄さんは「ああ」と一言だけいい
私を応接室に通した
「お待たせしました」
「失礼いたします」
「瑠璃くん、君にお客様だ、さあ此処へ」
スーツ姿ではなく制服姿のお客様が静かに立ち上がった
私は頭を下げゆっくりと社長の隣に移動した
制服!?肩や胸には勲章のような、星だの線だの
とにかく装飾されてあり、私は偉い人です!と主張していた
「こちらの御嬢さんが先日の。いやあ驚きました。まさかうちの陸曹がコテンパにやられるとは思っていませんでした。この目で見てみたかったですな。ははは」
え?陸曹?私がコテンパにしたって・・・
はっ!この人たち、自衛隊の!!
「いやいや、彼女はうちの自慢の社員です。簡単には勝てませんぞ。ははは」
大久保社長はご機嫌だ、副社長は微妙な表情だけど
「うちの甲斐が大変気に入りましてね、そちらの意思確認をせずに予備自衛官に認定してしまいまして。申し訳ないと来た次第でございます。それでご了承を得られれば正式に任命させていただきたい」
「え!とんでもないです。私みたいな素人が自衛官だなんて、それに仕事もありますので・・・」
「それは心配しないでいただきたい。予備自衛官とはその名の通り自衛官の予備であり、不測の事態や災害など正自衛官の手が足りない時に出動してもらう隊員であります。一戦に出ることはなく謂わば後方支援が主な仕事になります。年に1度は研修を受けていただきたいとは思っていますが」
「・・・」
「瑠璃くん光栄な話じゃないか。世の為になる事だぞ、実はこの私もその一人だ」
「え、そうなんですか!」
「御社は優秀な人材がそろっており、1社当たりの予備自衛官の登録人数は群を抜いております」
助けを求めるように副社長である歳三兄さんを見たら
不謹慎にも口元を抑えて、笑いを堪えていた
「本当は正自衛官として迎えたいくらいですが、それはさすがに度を越えていると思いまして」
「はぁ・・・」
正自衛官にされるよりは予備の方がましなのかな?
とか完全に相手に押されている
「失礼します!」
ピシャリと敬礼をし入ってきた一人の自衛官
「あ!鬼っ・・・教官」
「3日振りであります!土方瑠璃殿。あの時は大変無礼をいたした、研修であったため非礼を承知で指導をさせていただいた次第でありますっ!」
「い、いえ」
制服姿の鬼教官もとい甲斐陸曹は思っていたより恰好いい
だめだめ!制服に騙されるな
制服は男前度が2割増しと言われているんだから
「わが社は喜んでお受けいたします、なあ瑠璃君いいだろ」
「は、はぁ・・・」
社長の満面の笑みを前にして、誰が拒否できるだろうか
本当に予備自衛官になってしまった
因みに、この会社での予備自衛官だけれど
社長を筆頭に20名を超えるらしい、ありえない
その中には私の事を散々笑った兄たちも含まれていた
建築部の永倉さんもその一人、彼が一番似合っているかな
帰り際に名刺を渡された 自衛官の名刺初めて見たなぁ
何?この手書きのアドレスと番号は
何気に裏を見た
(いつでも相談に乗る、連絡を待っている 甲斐)
「げっ!(いや、連絡とかするわけないし・・・)」
「どうした」
「いえ、何でもないです」
ああ、この話、絶対にえりたちの酒のつまみにされるよ




