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Time Trip to Another World ~東雲~  作者: 蒼穹の使者
第一章 一さんに会いたい・・・
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第33話 夢を見ました

空が少しずつ白み始め、東の空に日が上り始めた

山崎くんがこちらを振り向き目で合図を送った

私は黙って頷く

何かを決心した私は振り返らずにこう言った


「一さん、行きます!」


振り返ると決心が揺らぎそうで怖かったから

振り切るように一歩前に出ると

背中に一さんの匂いと温もりを感じた


「決して振り向くな、前だけ見ていろ。直ぐに行く」


-------------------


そこで、目が覚めた

目に入ったのはいつもの部屋の天井だった

私は、泣いていた・・・

ほんの少し手に汗をかいている

それに心臓がドキドキと煩い

耳の奥にはっきりと残っている、一さんの声


夢だった、でもこれは自分が経験した事だと思う

山崎さんの表情、そして私の決意、一さんの声

私の中で欠落してしまった、恐らく最後の戦いに赴く時の

どうして、今になってこの夢を見たんだろう

この時代に目覚めてから半年が過ぎようとしているのに

初めて見たあの頃の夢


時計を見ると、まだ3時を回ったところだった

でも眠れそうにない

静かに寝室を出て、洗面台に行くと水で顔を洗った

それからキッチンに行って冷蔵庫から水を出して飲んだ


「・・・ふぅ」


幾らかは心臓も落ち着いて、いつもの速さに戻っている

でも、胸の奥がギューッと握られたように重く苦しい

肩越しに聞こえた、懐かしい一さんの声

背中から包み込むように接した身体、

腰に回された腕の感覚が、今でも残っている


「はじめ、さんっ」


私はいつの間にか床に座り込んでいた

フローリングのほんの少し低い温度が

余計にあの時の感覚を呼び覚ます


重い腰を上げ、ソファに沈むように体を預けた

なんとなく寝室には戻りたくなかった

リビングにいれば孤独感が少し和らぐ気がしたから

カーテンの向こうは車の往来の音がする

私は静かに目を閉じた


ーーーーーーーー


「おいっ」

「・・・」

「おいっ、瑠璃。こんな所で寝るな」

「ん?あれっ」

「あれっ、じゃねえだろ。風邪ひくぞ」


いつの間にか朝になっていた

カーテンの隙間からは朝日が差し込んでいる

新入社員研修が終わった翌朝がこれだ

きっと、それの所為だ

変に刺激的な研修を受けたから、夢を見たんだ


「はぁぁ」


「おい」


あ、歳三兄さんがいた事を忘れていた


「すみません」

「疲れてるのか?体に気が入ってねえぞ」

「・・・うん」

「一人で抱えるなって言っただろ。俺に言えねえことねら、左之でも総司でもいいから吐き出せよ。な?」


優しいな、普通なら俺には言えねえのかって

言いそうたけど、言えないなら言える人に言えって


「夢を、見たんです」

「夢?」

「はい、たぶん最後の決戦に向かう時の・・・確か五稜郭が最後の場所だったはずです。声が、彼の声が聞こえて。夢なのにとても鮮明にはっきりと。そこで目が覚めてしまって」


「五稜郭って、函館の」

「はい」

「辛かったか、その夢を見て」

「忘れていた記憶の欠片かけらなんです。胸が締め付けられるように苦しかったけど、また声が聞けて嬉しかった。忘れたくなかったから」

「そうか」


歳三はそう言うと、瑠璃の頭をそっと撫でていた


その声の男はいったい誰なんだろうな

こっちに居るのか、居るなら会わせてやりたい


「自衛隊なんかに行ったからな、脳が刺激されたんだろう」

「そう、思います」


私は暫く歳三兄さんの肩に頭を預けていた

いつもは強がって見せるところだけど、今はその元気がない

素直に甘えさせてもらおうと思った



瑠璃が珍しく素直に語り、甘えてきた

その夢がどれ程のものだったのか想像できた

これから、こういう事が増えてくるのかもしれない


瑠璃だけじゃない、たぶん俺たちも



その頃、函館では


「一さん、行きます!」

「っ!!」


なんだ、この腕の感覚は細くしまった身体を俺は

俺は夢を見ていたはずだが…

か細い後ろ姿が走ってゆくのを見守っている夢


総司が珍しく連絡をよこしたからか


「もしもし?元気?」

「特に変わりはない」

「そう。あのさあ来年戻ってきたらさ君、驚くかも」

「・・・(また意味の分からんことを)何にだ」

「前に話したでしょ、僕達の妹の事」

「ああ、確か留学していると」

「うん、うちの会社に就職したんだ。宜しく頼むよ」

「は?」

「じゃあね」


いつも一方的だな、もう慣れてはいるが

総司の妹、か。という事は土方さんの妹でもある

勿論、関わることが有ればサポートはする


何故、まだ先の話を今から頼んで来たのだ


そんな事を考えていた夜の夢だった

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