第32話 姉さんと呼ばないで
バスの中では私の話で持ちきりだった
もう、恥ずかしくて一番後ろで眠ったふりをしていた
それでも眠っている訳ではないので、聞こえてくるんです
「心強いよね、姉さんがいるだけで。まさかあんなに強いなんて恰好よすぎるぅ」
「俺まじでヤベエって、何処までもついて行きますって感じだし」
「止めて、姉さんは運輸部なんだから建設部は関係ないでしょ」
もうどうでもいいよ。でもね、その姉さんは止めていただきたい
「あの・・・」
「はい!何でしょうか、姉さんっ」
一斉にみんなが振り返る、そのキラキラした瞳はなんですか?
何かを期待されている、そんな気がする・・・
「お願いがあるんですけど」
「なんでしょうか」
「私はみんなと同期だし、歳はちょっと上だけど社内では立場は同じでしょ?だから、その、姉さんは止めて欲しいなって思っています」
「・・・嫌、でした?」
「嫌、とかではなくて・・・(嫌なんだけど)名前で呼んでほしいな」
嫌って言えなかった自分が少し恨めしい、あんな顔されたら嫌って言えなかった
「名前で、ですか?」
「うん、だってうちの会社には土方が私を入れて4人いるでしょ?ややこしいから瑠璃でいいよ」
「そんな!呼び捨ては出来ませんよ。ねえ!」
「出来ないです!」
「じゃあ、さん付けでもいいから」
「・・・」
皆、それぞれ考えているようだった
その時、旅行部の女の子がこう切り出した 可愛いタイプの子だ
「決めました!瑠璃姉さんってことで!」
「賛成!」
「!?」
なんでそうなるっ! 言ったよね、姉さんは止めてって!!
もう誰も気づいてはくれない、私の違うでしょって空気を
素直で意外と根性ある同期のメンバー、でももう少し空気を読もうよ
駅に着いた、やっと終わった新入社員研修(余計な称号もらった)
バスから降り、荷物を受け取るとスマホが鳴った
ん?総司だ、なんていいタイミングで
「もしもし」
「あ、瑠璃?お帰り。見て!こっち」
「え?どこ・・・おっ!」
車から降りた総司がこっちに向かって手を振っている
見ると運転席には左之兄がいた まさか二人でお迎えに?
「キャー、見てみんなぁ。営業部の土方さんが居るよー」
久し振りに聞きました、黄色い声?声援?この子たちもかっと横目で見る私
「瑠璃、後ろ賑やかだね」
「総司が手を振るからでしょ」
「なんで僕が手を振ると賑やかになるの」
「・・・(無自覚?恐ろしい)ファンみたいですけど」
「誰の?」
「総司と左之兄に決まってるでしょう!」
プツッと電話を切り、皆にお疲れ様でしたと頭を下げ
兄たちが待つロータリーに向かった
ん?なんで、何人かがついてくるのは気のせいでしょうか
「瑠璃姉さんっ、待ってください、見送りします」
「え!いいよ。みんな疲れてるし」
「だって月曜日まで会えないんですよ?寂しいです」
「え・・・。」
彼女たちは運輸部の通関課にいる子で、通関士の卵です
これまで殆ど顔を合わす事なんてなかったんですけど
「私頑張って、通関士になります。瑠璃姉さんからの依頼は全部通しますからっ」
「あ、ありがとう」
「いえ、じゃあ月曜日に!お疲れさまでしたぁ!」
彼女たちは無事に、無事に?家路についたようだ
これは困った、私は月曜日からどんな顔をしたらよいのだろう
「瑠璃、なにぼうっとしてるの」
「うわぁっ!」
また誰かが来たのかと思ってしまった
車の中でそのことを話したら、総司は爆笑していた
左之兄はさすが俺たちの妹だなって喜んでいたし
「瑠璃姉さんって・・・くくっ、ははは!」
「もう、本当に止めてほしいっ」
「瑠璃、諦めるしかねえだろ」
「うぅ・・・」
歳三兄さんは今日は遅いからと、二人が迎えに来てくれた
そのまま夕飯を食べて、無事帰宅
「はぁ・・・(恥ずかしいよ)はぁ・・・(忘れてほしい)」
ソファーにもたれ天井を仰ぎ見たら、歳三兄さんと目が合った
「きゃっ」
「きゃっ、じゃねえだろ。ただいまって言っても返事はねえし、来てみたら溜息ばかりつきやがって。そんなに酷い目にあったのか?」
3日間の研修を大まかに話した、最後に勝手に予備自衛官にされたこと
そして同期からその所為で「瑠璃姉さん」って呼ばれるようになったことを
「ぶははははっ、くくっ。ははっ」
総司以上にツボにハマってしまったよ・・・もう、いい!




