第27話 記憶
帰ってきてすぐの歳三は少し不機嫌そうに眉をひそめる
「なんだ」
「そんな怖い顔しないでくださいよ」
総司は今日の祭りで起きたことを簡潔に話す
聞きながら歳三は眉間に皺をぐっと寄せ
ちらりと瑠璃の顔を見た
瑠璃は眉を下げ、叱られた子どものように小さくなる
「そんな顔するな、誰も怒っちゃいねえよ。むしろ、褒めてやらなきゃならねえな。けど、自分の身は大切にしろよ」
「はいっ」
意外にも歳三は怒鳴ることはなく冷静だった
「で、お前が聞きたいことってのは何だ」
「瑠璃は考える前に身体が動くそうですよ。しかも、並の人間の速さじゃない。特別な力だと思えるほどの」
「あ?」
「一緒に住んでいて何か感じませんか」
「・・・」
総司は瑠璃の記憶と自分たちの生い立ちについて話した
歳三は目を瞑り黙ってそれを聞いている
瑠璃はそんな二人をただ、静かに見守るしかなかった
「僕たちの親は本当に事故死なんですか?」
「どう言う意味だ」
「小さい頃に親戚に預けられましたけど、誰も親の顔を知らない。瑠璃に至っては僕たちと暮らした事を覚えていない。それに時々、僕自身が時代錯誤のように思える。この時代に合ってないような・・・」
歳三はじっと何かを考えているようだ
暫くすると、スマホを取り出し
「俺だ、今からこっちに来れないか?ああ、俺のマンションだ」
話終わるとそれをテーブルに置いた
「左之さん呼んだの?」
「あいつ抜きて話すわけには行かねえからな」
1時間ほどすると、左之助がやって来た
「なんだ、皆いるのか」
「左之兄、お疲れ様です」
「瑠璃こそ祭り大変だったろ、お疲れさん」
「悪いな急に」
「いや」
歳三と総司が左之助にも同じ内容を話す
左之助は驚いた様子で瑠璃の顔を見た
「瑠璃、悪かったな気づいてやれなくて」
「そんな謝らないで下さい。私が言わなかったんですから」
「その話を聞くと、合点が行くな。瑠璃の竹刀の構えとか、振る舞い、時折見せる寂しそうな表情とか、な」
「っ、私。寂しそうな顔してました?」
「ああ、皆とっくにに気づいてた」
瑠璃は三人の顔を順番に見た、すると歳三が
「ああ、たまに此処ではない何処か遠くを見て何かを想っているだろ。その顔が傍から見ていると、寂しそうで切ない」
「瑠璃、まだ僕たちの知らない事を知っているんでしょ?」
瑠璃はその言葉を聞くと、涙だけハラハラと流した
「瑠璃っ」
左之助が瑠璃の肩を引き寄せ、後ろ頭を抱えるように撫でた
「もう一人で抱えなくていい、何でも言えよ。瑠璃が悲しいと、俺たちも悲しいんだ。な?」
瑠璃はひとしきり涙を流すと、ゆっくり口を開いた
「実はお話した記憶で、伝えていない事があります。私にはとても慕っていた人がいたんです。その人も私たちと共に戦いました。その人の命と私の命は二人で一つだと神に言われました。最後の戦いで、多分その人は私を生かすために、自分が犠牲になって何処かに眠ったままなんです」
「多分って?」
「一番、肝心な最後の戦いの記憶が無いんですっ!」
瑠璃は胸を掻きむしるように押さえて泣き崩れた
大切な人とどうやって別れたのか
それだけがどうしても思い出せないでいた
「そいつの名前は」
「・・・」
「瑠璃?」
「まだ・・・言えませんっ。もしかしたらこの時代には居ないかも知れない。自分だけ平和な時代で生きているなんて」
「そんなの分からないよ。まだ出会って無いだけかもしれない」
「名前を口にすると、胸が苦しくて会いたくて、会いたくて何も出来なくなりそうで怖いんです。心の中で慕うだけでいいんです」
瑠璃は自分に言い聞かせるように、兄たちに話した
そんな瑠璃の姿は痛々しく、また涙を誘うものだった
「分かった、言わなくていい。だが、もう一人で泣くな。寂しい時は寂しいって言え。分かったか?」
歳三はいつに無く優しい声で瑠璃に諭した
自分がなぜ、こうまで固執して妹の事が心配でならないのか
何となく分かった気がした
きっと、俺たちはそいつの事を知っている
だから代わりに瑠璃を守りたいと思ったんだろうと




